優しい形状は、職人の手仕事が実現する

『ルメール』のモールドアクセサリーを手がける工房での作業の様子。凹型の木型に革を置いて、その上から凸型によって圧力を加えて革を成型していく。(photo: Osma Harvilahti)
『ルメール』のモールドアクセサリーを手がける工房での作業の様子。凸型に革を被せて力を加えて成型し、凹型に入れてさらにならしていく。photo: Osma Harvilahti

かつてエルメスのアーティスティックディレクターを務め、現在はユニクロとのコラボレーションも行なっているフランス人デザイナー、クリストフ・ルメールとサラ=リン・トランによる『LEMAIRE(ルメール)』。今季、同ブランドから発表された「モールデッドレザーアクセサリー」は、ミニマルでエフォートレスなウェアのテイストと共鳴しつつ、オーガニックな存在感が魅力のアイテムだ。

もっともPrecious.jpの読者の中には、どこか既視感を覚える人がいるかもしれない。こうした革を成型してつくられたレザーアイテムとしては、イタリア・フィレンツェの『ペローニ』のコインケースなどがよく知られている。今回の『ルメール』の「モールデッドレザーアクセサリー」は、ヨーロッパにて受け継がれてきた革小物の伝統的製法に基づきながら、現代のライフスタイルやファッションに馴染むようモディファイ、またはチューニングされた、ハイブリッド感あるプロダクトといえる。

柔らかな曲線が魅力の「モールデッドタッコバッグ」(photo: Osma Harvilahti)
柔らかな曲線が魅力の「モールデッドタッコバッグ」(photo: Osma Harvilahti)

展開されている「モールデッドレザーアクセサリー」は、ストラップがついた「モールデッドタッコバッグ」「モールデッドフォンフォルダー」「モールデッドシガレットフォルダー」「モールデッドキーフォルダー」と、ストラップがない「モールデッドカードフォルダー」の5アイテム。モールデッドタッコバッグはここ数シーズン男性にも定着しはじめたミニバッグやサコッシュと同様に使えながら、一味違ったアイテムとして重宝しそうだ。モールデッドシガレットフォルダーやモールデッドキーフォルダーは本来の用途で活用するのもいいが、アクセサリー的に身につけるだけで、スタイリングのアクセントとして有効だ。

ルメールの「モールデッドレザーアクセサリー」

「モールデッドタッコバッグ」¥127,000
「モールデッドタッコバッグ」¥127,000
「モールデッドフォンフォルダー」¥94,000
「モールデッドフォンフォルダー」¥94,000
「モールデッドキーフォルダー」¥34,000
「モールデッドキーフォルダー」¥34,000
「モールデッドカードフォルダー」¥30,000
「モールデッドカードフォルダー」¥30,000

スペインの小さな町、ウブリケの工房が手がけるこれらモールデッドアクセサリーは、水分を含ませた革を、凸型と凹型を使って型づけ(モールド)してつくられる。縫製などによるのではなく、革という素材の可塑性と形状記憶性を活かした製法で、同地ではこの技法を使ったシガーケースなどがつくられてきたという。今回使われている革はベジタブルタンニング(植物タンニンなめし)のカウレザー。

さまざまな表情を備えた革は、手作業によってひとつひとつの独自な形状となり、さらに職人によるハンドフィニッシュによって、個性を備えたプロダクトに仕上がっている。同ブランドでは「完璧かつ不揃いなレザーアクセサリー」と表現しているが、まさに言い得て妙だろう。

「モールデッドフォンフォルダー」は3色展開。なお今回の「モールドレザーアクセサリー」の製作工程など展示したインスタレーション「SKEWAT/LEMAIRE」が3月末まで東京・青山にて開催中。
「モールデッドフォンフォルダー」は3色展開。なお今回の「モールデッドレザーアクセサリー」の製作工程動画を交えたインスタレーション「SKEWAT/LEMAIRE」が3月末まで東京・青山「SKWAT/LEMAIRE」にて展示中。

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また、こうした革をモールドする技法を使ったレザーアクセサリーは、実は日本でもつくられている。神戸の『il Quadrifoglio(イル・クアドリフォリオ)』では、スミズーラ(ビスポーク)の靴づくりとともに、この製法を採用した革小物を手がけている。製作を担当するのは久内夕夏氏。

イタリア・フィレンツェの靴職人ロベルト・ウゴリーニ氏のもとで修業し、『イル・クアドリフォリオ』を立ち上げた靴職人・久内淳史氏の公私にわたるパートナーで、彼女もまたイタリアの工房にて革小物づくりを学んだ。同製法のものとして展開されているのはクラシックなコインケースやシガーケース、カードケースなどだが、吟味された素材を使い、丁寧な手仕事で生み出される美しい発色や質感が特徴だ。素材や色などを選び、工房にてメイド・トゥ・オーダーでつくられる革小物は、『ルメール』のモールデッドアクセサリーとはまた異なるクラフツマンシップの表現として、評価できるだろう。

『イル・クアドリフォリオ』のレザーアイテム

『イル・クアドリフォリオ』のペン(万年筆)ケース
『イル・クアドリフォリオ』の革小物。ペン(万年筆)ケース、コインケースはいずれもイタリアの伝統的な技法を使ってつくられている。ニュアンス豊かなカラーレーションや、エキゾチックレザーなども使ったものづくりは、『イル・クアドリフォリオ』の得意とするところ。価格はコインケース(カーフ)¥12,000〜、コインケース(エキゾチックレザー)¥20,000〜、ペンケース¥18,000〜。シガーケース(2連)¥20,000〜など。納期は注文後2か月〜。仕様や色、素材などによって価格や納期は変化するので発注時に確認を。

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サステイナブルという時代の要請の中で、さまざまに語られているレザーアイテムだが、素材特性や職人仕事により導かれる形状や風合いと、使用を重ねるごとに増す味わいなど、革でなくては得られない価値がある。そしてそれは、使う者の心に愛着を生み出す。愛着が導く使用価値の持続は、ミクロな領域ながら、もっともベーシックなサステイナビリティといえるのではないだろうか。

※価格はすべて税抜です。

この記事の執筆者
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