電動化に対するマツダの取り組みと両開きドアが話題のMX-30。先行して発表されたのはガソリンエンジンとアシスト用のモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドモデルだった。そこに今度仲間入りしたのが100%電気駆動(以下、ピュアEV)モデル。CO2削減が急がれる中で、マツダが新しい電動化の道を示したのは当然の流れだ。
マツダが重視した「CO2の排出量と実用とのバランス」
一方でピュアEVは、製造過程や発電状況、そして車両が廃棄されるまでの過程を俯瞰すると、内燃機関のクルマより、CO2排出で決して有利ではないという現状がある。バッテリー容量などによっては、むしろCO2の排出は多くなってしまう(走行中にはいっさい排出しない・念のため)。
そんな状況で、マツダが新たに示したのはリチウムイオンバッテリー容量が35.5kWhで、一充電での走行距離はWLTCモードで256kmというMX-30 EV MODELだった。このバッテリー容量を選んだ理由は明確。バッテリーを大型化する方法ではなく、製造から最終的に廃棄されるまでの間に排出されるCO2の総量を、内燃機関と同等かそれ以下にするにはどうしたらいいかを追求して、MX-30 EV MODELの性能を決めた。
あくまでも試算だが、マツダ3のディーゼル車よりもCO2 排出量は低くなる。ただ単に走行可能距離を伸ばすためにバッテリー容量を大きくすると言う方法を選択しなかったことは、良識的な判断だと思う。それに容量を小さくすれば軽量化でき、コストも下がり、CO2の排出量と実用とのバランスがさらに良くなるのだ。
バッテリーパックを骨格の一部に
こうして完成したMX-30 EV MODELの走りはマイルドハイブリッドモデルより、しっとりとした重厚な乗り味を実現した。その一因は、ピュアEV化によって車重が200kgほど重くなったことにある。サスペンションのセッティングを硬く変更して、車重の増加分に対応しながらも、路面のうねりなどを上手に吸収するバランスのとれた足回りが完成した。フラットの状態を保ったまま、しなやかに路面の変化を吸収して走っていく。
さらにボディ剛性の高さが実現したことで、キャビンがより快適で静かになった。これはバッテリーパック本体を骨格として活かすボディ構造が、良い方向に作用しているようだ。高速道路や一般道で、ガタピシしない上質な走行フィールが味わえる。
モーターのパワーの出方も、ただ低速から一気にトルクが立ち上がるという感覚ではなく、ゆっくりとじんわりパワーが増していく感覚が自然な感覚で違和感がない。モーターの加速感といえば「低速から鋭いトルクを感じ、強烈に加速していく」と表現されることが多いが、MX-30EVの加速感には尖った部分がないのだ。シームレスに自然にトルクが高まっていく感触で、優しい乗り味の実現に役立っている。
EVは消して無音ではない
そしてもう一点、加速していくときに、エンジン音のようなサウンドが聞こえてくる。これは人工的に作られている音だが、モーターにかかる負荷に応じてエンジン音のように聞こえるようになっている。ピュアEVは「無音」のように思われ勝ちだが、実はギア鳴りとか、ロードノイズとか、風切り音などがノイズとして感じられ、多くの人にとって不快だという。そうしたノイズをエンジン音のようなサウンドを作り上げて、モーターにかかる負荷の強弱に合わせて流すことで、不快感を打ち消しているのだ。実際に加速時やクルージング時に聞こえてくるサウンドはクルマの加速や減速の動きと合っているため、不自然さは感じられない。単純に音をなくすのではなく、乗る人の感覚に合わせたサウンドの演出で、キャビンの快適性を高めている。
昨年末に登場したマイルドハイブリッドに次いで、今回のピュアEVが投入されたMX-30。近々、ロータリーエンジンで発電し、その電気でモーターを回す「レンジエクステンダー」モデルも投入される。ライフスタイルに合わせ、3タイプの電動車の中から最適な1台を選べるようになるのはうれしいことである。
【MAZDA MX-30 EV Highest Set】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,395×1,795×1,565mm
車両重量:1,565kg
駆動方式:前輪駆動
トランスミッション:電気式無段変速機
最高出力:107kw(145PS/4500~11,000rpm)
最大トルク:270Nm/0~3,243rpm
価格:¥4,950,000
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- TEXT :
- 佐藤篤司 自動車ライター