「サステイナブル(=Sustainable)」と「食」。この二つのキーワードからは何を連想しますか? 地産地消はもはや当たり前となった今、ラグジュアリーレストランは、さらにその先へと向かった取り組みを始めています。

『Precious』4月号では、「『サステイナブル』と共存する、食の最前線」をテーマとして取り上げ、日本のラグジュアリーレストランでの取り組みについて取材。

本記事では、パリと日本を行き来する食プロデューサー・狐野扶実子さんに、海外での「食」と「サステイナブル」の取り組みについて聞きました。

狐野 扶実子さん
食プロデューサー
(この ふみこ)パリ「ル・コルドン・ブルー」を首席卒業。三つ星レストラン「アルページュ」スー・シェフ就任。2001年よりパリを拠点に世界中のVIPの「出張料理人」に。「FAUCHON」のエグゼクティブ・シェフを経て現在パリのアラン・デュカス氏主宰の料理学校の講師。国内ではJALの機内食メニューの開発も担当。2020年慶應義塾大学大学院を修了、エシカル消費が研究テーマ。

サステイナブルな「食」、海外のアクションとは?

「昨年、パリに世界最大の屋上菜園(※1)がオープンし話題になりました。15区のポルト・ド・ヴェルサイユの屋上で、今活用されているのは⅓ほどですが2年後には14,000㎡の敷地すべてで30種類以上の作物を栽培予定。地元住民が利用できるレンタル農園も展開するとか。

また、パリで有名な屋上施設を展開するル・ペルショワールが、レストランやバーを運営し、栽培したトマトやナス、イチゴやハーブを料理やカクテルなどで提供。まさに究極の地産地消です。

2016年に移転した『ル・コルドンブルー』も新校舎の屋上に菜園を設け、『マンダリンオリエンタルホテル』も屋上でハーブを育てるなど、本格的な『屋上菜園・農園』ブームがパリで起こっています。

新鮮でおいしいものを食べられるという利点と共に、輸送によるCO2の削減が可能。2024年のパリ五輪に向けて、現パリ市長が特に環境問題に力を入れている影響も大きいかもしれません。

そのほか、昨年オープンの『タマラ』(※2)が廃棄物ゼロレストランとして注目されたり、フランス発のアプリ『マイラベル』(※3)が注目されたりと、飲食や買い物においても人や社会、地球環境に配慮する動きが世界的に加速しているように思います。

これはエシカル消費(※4)といって『倫理的消費』という意。サステイナブルな考え方に含まれます。商品がどういう場所でどんな材料でどんな人がつくりどう運ばれてきたのか。モノの背景を知ったうえで消費するという考え方です。

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「食」における地球環境に配慮する動きは、世界的に加速している。

意外かもしれませんが、日本人はエシカル消費が得意です。

災害大国に住む日本人は『被災地の特産品を買ってその土地を応援しよう』という意識がとても高いですよね。実際に現地に行かなくてもネットで取り寄せたり、東京にある各県の観光物産館で購入したり。このような『応援消費』(※5)もまた、商品の背景を理解して消費するというエシカル消費のひとつです。

また、私がメニュー開発を担当しているJALの機内食(※6)でも、海外のお客様から『この食材を使うのはエシカルではないのでは』とご指摘いただくなど、エシカル消費について考えるきっかけが多くありました。

JALでは、メニューはもちろん、コップやストローなどを紙製に替えたり、自然環境に配慮した食材を探したりと少しずつ取り組みを進め、昨年9月からWWFが発表した『未来の食材50』を使ったSDGsメニューを提供しています。

機内での食事は忙しい方がゆっくりと食に向き合える絶好の機会。レストランも同様に、時間をかけて食事を楽しむことは、食の背景に何があるのかを考えるために重要なことです。ミシュランが新たに導入した新しい評価軸『ミシュラン グリーンスター』(※7)も、同じような考えに基づいているのではないでしょうか。

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狐野さん監修JALファーストクラス・ビジネスクラスの機内食

サステイナブルとは、持続可能な生き方、あり方です。だれひとり取り残さないという目的のもと、そこには循環や連帯、未来へとつなげていく『思いやり』の心がベースにあります。

社会、環境、健康、人権、多様性…などさまざまな視点がありますが、なかでもいちばん自分ごととして考えられるのが「食」。食べるという五感を使う体験は、おいしい、幸せ、感動、喜びというポジティブな感情とつながっています。

その素敵な体験を通して、食材の生産者や料理人に思いを馳せ、その背景にある課題を知ること。それこそが、一人ひとりができる、身近でサステイナブルな行動だと思います」(狐野 扶実子さん)

※1:屋上菜園=「ル・ペルショワール ポルト・ド・ヴェルサイユ」
2020年春オープン。開放的でオシャレなルーフトップ空間が人気。広大な農園では、ハイシーズンには毎日約1,000kgの果物と野菜を収穫予定。パリジェンヌ注目のスポット。

※2:廃棄物ゼロレストラン「Tamara(タマラ)」
仕入れからロスがないよう工夫することはもちろん、野菜の残りは保存ガラス瓶に詰め、発酵、塩漬け、燻製にして保存。使いきり廃棄物ゼロを目指す。

※3:フランス発エシカル消費アプリ「My Label(マイラベル)」
環境、社会、健康などにまつわる20の倫理的基準から自分が大切にしたい価値観を選んで登録。アプリで商品のバーコードを読み取ると自分の価値観に合致しているか確認できる。日本未上陸。

※4:エシカル消費
モノの背景を知って理解し、倫理的で正しいと思えるものにお金を使う「エシカル消費」。SDGsの普及に伴い、若者を中心に流行。

※5:「応援消費」
もとは被災地を応援するための消費を指す言葉だったが、現在、ふるさと納税やクラウドファンディングなど、人や企業・地域などを応援する意味でも使うように。

※6:「JALの機内食」
安全性や栄養価の観点から提唱する持続可能な「未来の食材50」を参考にメニューを開発。

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左/ミシュランガイド東京2021年版、右/ミシュラン グリーンスターのマーク(c)MICHELIN

※7:「ミシュラン グリーンスター」
ミシュランガイド東京2021年版より導入された新評価軸。フードロスの削減、環境に配慮する生産者の支援、絶滅危惧種の保護などサステイナブルな取り組みを実践する飲食店を評価。「カンテサンス」「シンシア」「NARISAWA」「フロリレージュ」「ラチュレ」「レフェルヴェソンス」が獲得。

PHOTO :
篠原宏明
EDIT&WRITING :
田中美保、佐藤友貴絵(Precious)