都心で出来立てのワインを楽しめる「マイクロワイナリー」とは?
東京の下町・清澄白河。その住宅街の真ん中にあるのが「清澄白河フジマル醸造所」です。建物の一階がワイン醸造所、二階にテイスティングルームとレストランが併設されたるワイナリー。2015年のオープン以来、ワイン愛飲家はもちろん、気軽に乾杯のできるスポットとして賑わいを見せています。
まさにブドウの収穫シーズン真っ只中のいま。店長の室谷統(むろたに・おさむ)さんにインタビュー。醸造長の木水昌子さんからは、都心ならではのワイン造りについて教えていただきました。
ブドウ農家と飲む人の「つなぎ役」に
−——なぜ、東京にワイナリーを構えようと思ったのでしょうか?
室谷 統さん(以下、室谷)東京は物流の中心地でもあります。現在は山形、山梨、茨城、千葉の農家さんからブドウを買っていますが、そこからの輸送を考えた場合に東京はブドウにストレスがかからない距離でもあるんです。そして何よりも、消費者への発信のしやすさがあります。
畑の近くにワイナリーがある、というのがこれまでは当たり前だったかもしれません。けれど、人がブドウに近づくのではなく(人に)ブドウが近づいてもらうという感覚ですね。それによって、ワインに接触してもらえる場面がぐっと増えるように思います。散歩ついでに来れるようなワイナリーがあることで、よりワインを身近に感じてもらえたら。そんな風に思っています。
−——仕事帰りにも気軽に立ち寄れますよね。最近のワイン業界の動きはありますか?
室谷 日本人のワイン消費量は、少しずつですが右肩上がりです。ワイナリーも増えていて、「ワイン特区」※というものもできています。それによって、従来の年間最低生産量の基準が下がり小規模のワイナリーを造りやすくなったという背景があります。都内には、ここ3年間でうちを含め3つのマイクロワイナリーが出来ました。
※果樹の生産農家がワインを製造しやすくするため、政府により酒造法が一部緩和された制度。
——都市型ワイナリーならではの苦労はありますか?
室谷 土地柄、やはり広さの問題ですね。醸造現場や保管のスペース。でも、それくらいです。メリットの方が大きいんです。たとえば、「ワイナリーがこんなところにある!」ということで多くの人に注目してもらえますし。
——都心で出来立てのワインが味わえるというのは、うれしい驚きでした。
室谷 そうですね。レストランやテイスティングルームでは「生樽ワイン」も提供しています。瓶に詰めずに、樽詰めのビールサーバーからグラスに注いだものをお楽しみいただけます。空気に触れる時間が短いことで、よりフレッシュな味わいです。ワインというと、堅苦しいイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが「とりあえずビール!」と同じような感覚で、ワインを気軽に楽しんでもらえたらという思いです。
小規模ワイナリーならではの「賢いメソッド」
——規模の小さいワイナリーならではの工夫はありますか?
室谷 大量生産ができない代わりに、違う面でコストカットをしてより良いものを手軽な価格で提供しています。例えば、栓はコルクではなくて「王冠」を用いています。大きな流通経路を想定しているわけではないので、コルクより少し安価な王冠の栓でも十分に機能を果たしてくれるんです。それに、「ブショネ」の発生を抑え、ロス率の軽減にも役立っています。ワイン造りの中で、約3〜5%の確率でコルクの先にカビが発生することがあるんです。この現象を「ブショネ」というのですが、そのカビの香りがワインの風味を損ね、お客様には提供できなくなるんです。生産量が少ないからこそ、こうしたリスク回避のためという側面もあります。
——なるほど。1本でも多く、無駄にせずに販売することができるんですね。
室谷 それに、普段からワインを飲まずワインオープナーを持っていないご家庭もあると思うんです。でも、これなら缶切りについた栓抜きでも開けられますから。
——お店で特に人気のワインはありますか?
室谷 どれも人気ですが、ちょっと面白いものでいうと「オレンジワイン」ですね。これは、デラウェアを果皮や種と⼀緒に独自の手法で仕込んでいます。⼀部、木樽での発酵と熟成を行うことで味も香りも複雑に仕上がっています。フルーティーさに苦味や渋みが加わって、いつもの白ワインじゃ物足りないな、という人にもオススメしたい「厚み」のある味わいが自慢です。レストランでは、一階で醸造されたワインの販売もしているんですよ。
——こちらでしかできない体験は、ほかにもありますか?
室谷 不定期ですが、親子で参加できる「ブドウの手絞り体験ワークショップ」を開催しています。オープンしてから毎年、ブドウの収穫時期に行っています(今年分は終了)。ワインの原料であるブドウに触れてもらえる機会になるのはもちろんですが、親子での思い出のシーンのひとつに、ワインがなれたらうれしいですね。お子さんは、自分で絞ったブドウジュースを、大人はワインを楽しんでいただけます。
仕事帰りにサクッと、「アペロ」スタイルも楽しい
——レストランやテイスティングルームは、どんなお客様が多いでしょうか?
室谷 平日夜は、会社帰りのグループの方はもちろん、女性ひとりのお客様もたくさんいらっしゃいます。特にテイスティングルームなら、短時間でリフレッシュできる場所として使ってもらえると思います。ディナーの前にワインとおつまみ片手におしゃべりする「アペロ」使いも多いです。週末は、カップルからご家族連れまで年齢層も幅広いですね。
レストランでは、本格的な創作料理を気軽な雰囲気で楽しめます。ワインも料理も盛んな北イタリア出身の名シェフが、厨房で腕を振るっています。季節のメニューも続々登場していますので、ぜひワインと一緒に堪能していただけたらと思います。
醸造所の見学も可能
——醸造所の見学もできると伺いました。
室谷 はい。レストランもしくは、テイスティングルームご利用のお客様には、ご希望があれば醸造所にご案内しています。ぜひお声がけください。ワインを身近に感じてもらえたら、というのが根底です。「一杯だけ」でも気楽に立ち寄ってみてくださいね。
一階の醸造所では、まさにワイン造りの真っ最中。醸造長の木水さんに、フジマル醸造所のワイン造りについて少し教えていただきました。
——フジマル醸造所でのワイン造りの特徴はありますか?
木水昌子さん(以下、木水)ここに集められているのは、丁寧につくられた各地の農家さんのブドウです。だからこそ、あれこれ手を加えるのではなくて、ブドウ本来のおいしさを最大限に引き出すことを一番大切にしています。
——取り扱っているブドウを教えていただけますか?
木水 今、最も多いのはデラウェアですね。あとは、赤ワインのマスカットベイリーエーや巨峰。それに、シャルドネやメルローといったヨーロッパの品種もあります。8月から10月のブドウ収穫時期は、日にもよりますが一日に2トンのブドウが届く日もあるんですよ。
酵母の「ご機嫌を取る」のが醸造の要
——ワイン造りでの苦労はありますか?
木水 微生物の世界ですから、目に見えないですしすべての工程が難しいです。酵母の「ご機嫌を取り」、今何が起こっているのかということに一瞬でも気を抜けないですね。そして、農家さんが丹精込めてつくったブドウですから、ちょっとでも無駄にしたくないんです。一番良い形で送り出せたら、という想いで日々こちらに立っています。あとは、都心にあるワイナリーということでご近所の方に迷惑にならない配慮を心がけています。ブドウを搬入した後に、果皮が落ちたままにしないですとか。
——ワイン造りの醍醐味はどういったものでしょう?
木水 そうですね。果実だったものが微生物の力で違う形に変化をして、瓶詰めされて食卓に置かれ、会話が生まれる。そういったストーリーを想像するとやはり感動しますね。
ワインって、水を一滴も入れない飲み物なんですよね。ですから、ブドウという素材の持つ力が、おいしさにダイレクトに繋がってきます。そしてもちろん、同じ味のものが毎年できるわけではありません。丁寧に向き合いながら、飲む人が笑顔になれるおいしいワインを造っていきたいと思います。
フジマル醸造所のワインは、どれもフレッシュな味わいです。お肉料理には「赤」、お魚料理には「白」など決めず、自分ならでは組み合わせを見つけてみてくださいね。
シーンを選ばず、気軽にワインを楽しめる「清澄白河フジマル醸造所」。造りたてのワインと絶品料理を満喫しながらおしゃべりに興じるのは、至福のひとときですよね。秋の心地よい風を感じながら、会社帰りに立ち寄ってみるのはいかがでしょうか。
※掲載した商品はすべて税抜です。
問い合わせ先
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清澄白河フジマル醸造所
営業時間/(レストラン) 平日 17:00~21:30L.O.
土日祝 ランチ 11:30~14:00L.O. ディナー 17:00~21:30L.O.
(テイスティングルーム) 毎日 13:00~21:30L.O.
定休日/月曜日(祝日の場合は営業、翌火曜休み)
TEL:03-3641-7115
住所/東京都江東区三好2-5-3
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 渡辺修身
- EDIT&WRITING :
- 八木由希乃