創刊17周年を迎えた『Precious』は、今改めて「エレガンスとラグジュアリー」の本質について深く考えています。5月号では「未来へ繋ぐ、エレガンスとラグジュアリー」と題して、たくさんのお祝いコメントと未来へ向けたメッセージを掲載。
デザイナー ジョルジオ・アルマーニ氏も、メッセージを送ってくださった一人。本誌で掲載したスケッチに加えて、Precious.jpのために、過去どこにも公開されていないもう一点の直筆スケッチもプレゼントしていただきました。
Preciousが創刊時から問い続けている「エレガンスとラグジュアリー」について、アルマーニ氏が今思うこととは? 5つの質問に、たくさんの愛情を込めてお応えいただきました。
ジョルジオ・アルマーニ | 本質に目を向けることが、真のエレガンスとラグジュアリーに繋がる
──これからの「エレガンス」と「ラグジュアリー」についてアルマーニさんが期待すること、目指していることは何ですか?
私の目標は、ラグジュアリーやエレガンスを求めるお客様に、時代を超越した、洗練されたデザインを提供し続けることです。
何年にもわたって、私はどのようにトレンドが生まれ、そして通り過ぎていくのかをじっくりと観察していました。そして、その結果、多くの人々が、通り過ぎるトレンドではなくより長く大切にできるアイテムを探し求めていることを感じました。
このコロナ禍において、私たちは混乱の時代を生きてきました。生活様式も大きく変わり、自宅で過ごす時間が増えました。そのことは、洋服選びにおいても非常に大きな影響を及ぼしました。着心地を重視し始めた人々も多いでしょう。
こうした人々のマインドの変化は私にとっては非常に興味深く、また「快適さ」は自身がずっと大切にしてきたことなので、よりその部分を磨き人々の期待にこたえたいと思えるようになりました。
人は、本当に快適な洋服を着ていると、リラックスし、自信に満ちた表情をたたえるものです。なので、仕事の場面においても、快適な洋服を着ることは非常に重要なことです。リラックスしている(フォーマルではない)ということは、エレガントに美しく見えない、ということとは決してイコールではありません。
忘れないでください、あなたがたが、よりカジュアルでリラックスした洋服を着ていても、エレガントでいることは可能です。
エレガンスであること、ラグジュアリーであることは着飾ることとイコールではないのです。その時々の状況にあった洋服を選び、着心地を重視し、体がリラックスできる上質なアイテムを選ぶこと。それこそが真のエレガンスだと考えています。
今後、私たちが以前の生活に戻れる時が来たら、きっと人々は再びドレスアップをするでしょう。ところがそういった時にも決して忘れてほしくないのは、煌びやかなものを身に着ければラグジュアリーだというわけではないのです。
本質に目を向け、動きや態度にエレガンスが自然と生まれるような洋服を作ること、それが真のラグジュアリーに通じると思っています。
──コロナを経て、ラグジュアリーという意味のとらえ方に変化はありましたか?
いいえ、それは全く変わりません。今私たちは、以前よりももっと、真の贅沢について考えるようになったように感じます。真の贅沢とは、自由に外を歩いたり、旅行をしたり、友人や愛する人に会ったりできること…それは真の贅沢です。
真のラグジュアリー、に対する考えの変化は今後人々が高級なものを購入するときにもこれまでとは違う変化が現れるかもしれません。もしかすると、もっと思慮深くなる人もいるでしょう。もっとシンプルなものを選ぶようになる人もいるでしょう。もっとそうしたものに感謝をするようになるかもしれません。
コロナ禍の中で、私は、ラグジュアリーとは時間をかけるべきもので、ファストファッションであってはいけない、という想いをより強くしました。コロナを経て変化したというよりも、コロナを経て、これまでの考えをより強く改めた、と言えると思います。
──2019年に来日されていますが、また安全に旅に出かけられるようになったら日本のどこに行きたいですか?
東京は訪れるたびに私に驚きを与えてくれるので、まずは東京です。
伝統的な着物を着た女性を、東京の近代的な街並みの中に見たことは、今でも忘れられません。日本にはたくさんの風習や習慣があり、私はそういった事も、とても魅力的だと思います。1月に、ビジネスマンが幸運のお守りを着た福笹と呼ばれる装飾された竹の枝を買う習慣についての話を聞いた時は、とても感動したものです。
街をただ歩ているだけで、東京は私の五感を刺激してくれます。
また東京の美術館を訪れたいとも思います。森美術館など近代的な建築も好きですし、逆に浅草寺のような古い建築も大好きです。ストリートカルチャーとしては、原宿の賑わいもいいですね。カルチャー色豊かな六本木もアジアの大都市といった雰囲気で楽しいです。
食事については、新宿の小さな路地にあるレストランを探索して、今まで食べた中で最高の日本食を食べました。それぞれ数人しか着席しない小さな飲食店が立ち並ぶこれらの小さな通りは、全く気取っていなくて、しかしすべての食べ物が最高でした。寿司職人に目の前で寿司を握っていただいたこともありますが、まるでアーティストが仕事をしているのを見ているようでした。
再度日本に訪れることができることを心から願っています。
──「アルマーニ」は『Precious』の読者から、いつも人気のブランドです。その理由はなんだと思いますか?
不思議なことですが、東京を訪れると、ファッションに関しては、ミラノの人々の着こなしと共通点が非常に多いことにいつも驚かされます。
ミラノの人たちのように、東京の人たちは自分たちの外見を非常によく理解していて、自身に似合うものをピックアップすることが得意です。確かに、2つの都市で着ているもののニュアンスには違いがありますが、基本的に東京に住んでいる人は、ミラノの人と同じように、身なりがよく、優雅さを大切にしています。
若い世代の人たちはミラノのそうした世代よりももっとファッションに冒険と遊びを求めているように感じますが、年齢を重ねていくにつれてよりシンプルな、より上質なものを選ぶように大きく変化をしていっているように感じました。
『Precious』の読者の人たちはまさに、そうした、優雅さを大切にする人たちだと思いますが、それゆえに、東京と共通点の多いミラノの空気を感じさせる私のブランドを好きでいてくれるのかもしれません。
──17周年をむかえた『Precious』に、応援メッセージをお願いします。
デザイナーとして、40年以上の月日を培ってきて、時にその節目をお祝いしてきた私は、こうしたアニバーサリーがいかに重要であるかよく理解しています。
ビジョンを明確に、正しく描き、努力を重ね、次に描くビジョンに対して新たな世代を参加させていく…それは本当に努力を重ねることでしかできないことです。
20年近くに渡り、読者を魅了してきた『Precious』さん、今回の「アニバーサリー」、本当におめでとうございます。今後また『Precious』誌面でご一緒できることを楽しみにしています。
- EDIT&WRITING :
- 渡邊和泉、池永裕子(Precious)