働き方、生き方…さまざまな価値観が揺らぐ今、ときに自分を、未来を見失いそうにもなりますが、大丈夫! 私たちには"本"があります。目利き揃いの読書家たちが"今"を見つめた珠玉のブックセレクトをお届けします。

雑誌『Precious』5月号では特集「知的欲求を満たすニュー・ノーマル時代の読書案内」を展開中。その特集のなかから、本記事では「多様性」にまつわる本4冊をご紹介。

4人の読書家が推薦した、世界中の現実と、それを乗り越えて新しい世界を切り拓こうとする、勇気と知恵に溢れた本を厳選しました。

見えていないものを見る。知らないことを知る。一冊の本で開く

ジェンダー、インクルージョン、格差、生きづらさ、人種問題…。私たちの周囲に必ず存在している大小の“違い”=多様性から起こる、さまざまな社会問題についても、本は、あらゆる角度から発見と考察を与えてくれます。

武田砂鉄さんが「さまざまなことにめげずに個人で声を上げ、この凝り固まった社会をどうにかして変えようと試みている本に注目している」と語るように、このコーナーでは、世界中の現実と、それを乗り越えて新しい世界を切り拓こうとする、勇気と知恵に溢れた本を厳選してご紹介。

韓国の気鋭のフェミニストのエッセイ、アメリカの傑作ノンフィクション、今世界から最も注目を集めている次世代の指導者の語り、そして時空を超えて愛される児童文学の名作まで、4者4様の4冊が、多様性への考察を深めます。

本_1
1.『失われた賃金を求めて』¥1,870 著=イ・ミンギョン 訳=小山内園子・すんみ(タバブックス)、2.『エデュケーション大学は私の人生を変えた』¥2,420 著=タラ・ウェストーバー 訳=村井理子 (早川書房)、3.『オードリー・タン 自由への手紙』¥1,540 語り=オードリー・タン 編集=クーリエ・ジャポン編集チーム(講談社)、4.『ムーミン谷の十一月』¥1,650 著=トーベ・ヤンソン 訳=鈴木徹郎(講談社) 

■1:武田砂鉄さん推薦!『失われた賃金を求めて』

「労働市場で男女格差が生じているのは韓国も日本も一緒ですが、格差の是正を訴えても、頑張った女性は自分の力でその地位を得ている、と跳ね返されるのも日本と似ています。

著者は『不屈の意志で戦った女性の“成功”という結末だけに注目してはいけない』と問いかけ、不平等に目を向けなければ今のまま変わらない、と言う。とにかく、男と同じように女にも金を払え、男というだけで高い位置にいるのならば、そこをどいて場所を譲れ、と叫びます。『ちゃんと金払え』。このうえなく強い主張です」

武田 砂鉄さん
ライター
(たけだ さてつ)大学卒業後、出版社勤務を経てライターに。2015年、『紋切型社会』でBunkamura ドゥマゴ文学賞を受賞。『わかりやすさの罪』(朝日新聞出版)ほか著書多数。

■2:中江有里さん推薦!『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』

モルモン教の父の方針で、学校へ通うことも禁じられていたタラ。将来に疑問を感じ、独学で大学に入ろうと決意するが…。

「著者が大学進学を果たしたのち、両親が大学まで訪ねて来て自分たちの考えを話します。しかし学びを得た彼女は、もう父の声に揺らいだりしない。山の上で暮らしていたときには唯一の真実だと思っていた父の考えから、完全に自由になったのです。

両親と決別するのではなく、ひとりの人間として精神的に自立する。そんなバランスを保ちながら成長を遂げた姿に感嘆!」

中江 有里さん
女優
(なかえ ゆり)女優として数多くのドラマや映画に出演したのち、’06年作家デビュー。『トランスファー』(中央公論新社)ほか著書多数。’20年より歌手活動を再開している。

■3:「エシカル協会」代表理事・末吉里花さん推薦!『オードリー・タン 自由への手紙』

誰かが決めた“正しさ”には合わせなくていい、という考えのもと、『ジェンダーから自由になる』『ヒエラルキーから自由になる』『男と女から自由になる』など、真の意味で自由に生きるための17のメッセージが詰まった本。著者自身がジェンダーフリーという立場だからこそ、経験から紡がれる言葉がスッと入ってきます」。

台湾の最年少デジタル担当大臣として、世界中からその手腕が評価された著者。「そもそも私たちは誰もがマイノリティ」など、温かで、かつ真髄をついた言葉が心に残る。

末吉 里花さん
「エシカル協会」代表理事
(すえよし りか)『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして世界各地を旅し、一般社団法人「エシカル協会」を立ち上げる。著書に『はじめてのエシカル』(山川出版社)ほか。

■4:美村里江さん推薦!『ムーミン谷の十一月』

「ムーミン一家不在の屋敷で、ちぐはぐなメンバーが共同生活を送るという珍しい設定。当然個性がぶつかり合うのですが、『他者と違うことを気にする必要はない』というさっぱりした観点や、『誰かと同じくあろうと無理して起きる失敗』がたびたび表現され、著者自身もマイノリティな部分があったためか、説得力があります。

終盤に催すパーティ“家族の夕べ”も印象的。お互いの処し方がうまくなっているんです。他者とは、それぞれに独立した離れ小島。それを自覚しつつ小舟で気軽に行き来できたらいいな、と今は感じています」

美村 里江さん
女優
(みむら りえ)’03年女優デビューして以来、ドラマ、映画などで活躍しながら、エッセイも執筆。エッセイ『文集』(SDP)をはじめ、’20年には初となる歌集『たん・たんか・たん』(青土社)を上梓。

※掲載した商品はすべて税込です。

PHOTO :
唐澤光也(RED POINT)
WRITING :
本庄真穂
EDIT&WRITING :
剣持亜弥(HATSU)、喜多容子(Precious)
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