不思議なことに、上等な香りには手触りというものがある。例えば官能的ななめらかさや野性味溢れる粗さ。硬質な反発であったり柔らかな弾力であったり、まるで実際に手で触れたり視覚でとらえたりしたような鮮明さでテクスチャーを感じ取れる香りが存在するのだ。つまりそれは香りに立体感や奥行き、陰影があることを意味し、才能ある調香師が上質な香料を組み合わせ、時間をかけて紡ぎ出されるもの。平板で画一的な香りとは別次元の、本物の証なのだ。
その香りには手触りがある
エルメスのメンズフレグランス『H24』
エルメスから実に15年ぶりの登場となるメンズフレグランス『H24』の手触りには、だれもが心を揺さぶられるだろう。2016年にエルメスの香水クリエーション・ディレクターに就任したクリスティーヌ・ナジェルにとってメンズは初めての挑戦。彼女はプレタポルテのコレクションに触発され、革新的で自由な魂をもつ“エルメスの男”を香りに描きたいと考える。極上の生地がもつ、緻密で端正で表情豊かな織りが人々を惹きつけてやまないように、香りの素材感にこだわることからクリエーションをスタートした。
自然界の素材の力強さと繊細さを尊重しつつ、環境に配慮した先進のテクノロジーによって香りの魅力を引き出していくという試みが、かつてないフレグランスの仕立てを成功させる。基調はアロマティックなハーブノートで、その主役は胸がすくほどに清冽な香りを放つクラリセージ。そこにクラシカルでエレガンスな光沢を添えるのがスイセンの花であり、希少なローズウッドのエッセンスとスクラレンという香料。それらが織りなす複雑なテクスチャーによって、「都会の中に芽吹いた自然」のような躍動感と洗練を、品格とカジュアルさを併せ持つ稀有な香りが誕生したのである。
『H24』のHはHERMÈS、HUMAN、HOURを、24はパリ第一号店の番地であり、24時間を表す。新しい日常に24時間寄り添い、心地よい聖域を作り出してくれる香り。どんな状況にあっても自分らしいスタイルを守り抜くために今をこの香りと共に生きるべきだ。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2021年春号より
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- PHOTO :
- 戸田嘉昭(パイルドライバー)
- WRITING :
- 松澤章子