働き方、食べ方、暮らし方、学び方、生き方。コロナ禍により、さまざまな価値観が激変していくなかで、「お金の使い方」もすでに、大きく変わっています。自分のためにお金を使う「自利」から、ほかの人のためにお金を役立てる「利他」の発想へ。社会に貢献したい、誰かを応援したい、という想いが、今、日本中にものすごいスピードで広がっているのです。

今回は「投資ファンドで貢献する」をテーマに、「カタリスト投資顧問」取締役副社長COOの小野塚惠美さんにお話しを伺いました。

小野塚惠美さん
「カタリスト投資顧問」取締役副社長COO
’00年よりゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントにおいて多岐にわたる資産運用業務に従事。’20年5月より現職。マネックスグループではESG推進事務局に参画。

「SDGsはやはり最重要のキーワード。金融投資の世界にも転換期となる新潮流が」

実際に、金融投資の世界にも新潮流がきています。

SDGsに詳しい「カタリスト投資顧問」小野塚惠美さんは、「投資=お金儲け、という意識が、サステナブルな方向にガラッと変わったのがここ5年くらいのこと。コロナ禍によって、ますますその傾向は顕著になりました。今は、社会への貢献と、財務リターンの両方を追求する時代」だと力説します。

マネーゲーム的な金融投資ではなく、日本の、世界の数十年後を見据えた投資方法が注目を集め、お金のよい循環を生もうとしているのだとか。


【Action 01】「投資ファンド」で貢献する

 

さまざまな企業が今、積極的に取り組んでいるSDGsは、投資の世界にも変化を起こしていると小野塚さん。

「SDGsが掲げられた背景には、これまでの民間企業の短期利益を優先する経営姿勢がありました。環境負荷軽減に取り組まず、安く、使い捨てのモノを大量につくったり、スタッフの労働環境に配慮せず、対価が不十分と思われるケースがあったりしたのです。その結果、環境負荷の増加から温暖化が加速し、自然災害が爆発的に増えたり、貧困や格差問題が途上国のみならず先進国でも起こったりと、社会の基盤を揺るがすほどのリスクを生みました。このままでは大変な未来になると、投資家の間で始まったのが、SDGsのような国際的な合意を軸に、『社会や環境に配慮した企業にお金を集め、そうでない会社からはお金が引き上げられるような世界にしよう』という風潮。それが現実となったのが現状です。 

そうなると、企業は投資対象に選ばれるためにもSDGsの取り組みを積極的に行います。それがブランディングや競争力となり、ひいては業績につながるわけです。そんな世界的な動きに対応して、今、さまざまな投資運用会社から、環境やエネルギー分野に特化したファンドや、女性の活躍に着目したファンドなどが、誰でも、数百円単位からでも購入できる個人向けに、設定されています。私たちも、日本企業に焦点を当て、SDGsと親和性の高いファンドの運用に関わっています。そういうファンドに投資をすること自体が、サステナブルな社会への後押しになるのです」(小野塚さん)

企業の成長を長い目で見る「サステナブル投資

最近、「インパクト投資」や「ESG投資」といった用語をよく目にしますが…。

「いろいろな専門用語がありますが、大きく分けると、企業や社会の持続可能性に注目した投資はすべて『サステナブル投資』といわれます。そのなかに『インパクト投資』や『ESG投資』『エンゲージメント投資』という3つのカテゴリーがあります。ひとまず、このカテゴリー分けを把握しておくと、イメージしやすくなると思います。

サステナブル投資』では、目先のことではなく、5年後10年後に企業がどう成長するかを想像する視点が大切です。最近は、投資後も企業に自分の声を届け、日本の未来をよりよく変えたいという人が増えています。その理由は、円の貨幣価値が下がっているから。今の日本では、働き続けたとしても以前のような給与アップを期待することは難しい状況です。富を増やす意味でも、投資をしながら社会のウェルビーイング(幸福)を追求する意味でも、無理のない範囲で『お金に働いてもらう』投資活動は、今後ますます広がるのではないでしょうか」(小野塚さん)

Keyword 1 ▶︎ サステナブル投資

世界中で投資額が急増中!
企業のサステナブルな取り組みに注目が集まる

企業の経済や環境、社会的な持続性に配慮した投資手法。世界中でサステナブル投資額は急増していて、’16年〜’18年の間にヨーロッパで17%増、アメリカでは38%増、日本ではなんと360%増=約5倍になったという統計も。実際に、コロナ禍では、サステナビリティを重視する企業の株価のパフォーマンスが優勢であったという研究結果も。サステナブルな企業が利益をより上げていく世界が現実化しつつある。

Keyword 2 ▶︎ インパクト投資

投資行動によって環境や社会の課題解決を目指す

環境や社会に対するインパクト=影響を追求し、投資を通して、社会課題の解決を目指すことを目的にした投資手法。これまでの「リスク」と「リターン」の2軸に「インパクト」を加えた3つの軸で、投資する企業を選定する。財務リターンへの追求については市場での投資成績(パフォーマンス)と同等以上、とするレベルで、投資で稼ぎたい人向けというよりは、寄付やボランティアなどに興味があり、社会問題への関心が高い人に親和性が高いともいわれている。

Keyword 3 ▶︎ ESG投資

本業を通じて、環境や社会問題に取り組んでいるかを見極め、投資する

環境(Environment→「E」)、社会(Social→「S」)、ガバナンス(Governance→「G」/統治)を考慮した投資のこと。

「特に重要なのがG。会社をどの方向に進めるかの舵取りを間違えるのは致命的。おむつや女性向け商品を扱う会社の取締役の顔ぶれが、全員中高年男性だったら…それは正しい監督体制とはいえませんよね」(小野塚さん)

例えば自動車メーカーなら、水素で走る燃料電池車を開発するなど、自社の本業の範囲でEやSに取り組むことが重要。

Keyword 4 ▶︎ エンゲージメント投資

対話をしながら、企業にESG問題への取り組みを直接的に促す

「対話すること」「関わること」を意味する「エンゲージメント」。エンゲージメント投資とは、投資先企業と対話をすることで、稼ぐ力をアップさせ、投資のリターンにつなげる利点のある投資法のこと。株の投資家はその企業のオーナーとして、経営陣に働きかけることもある。

「情報が溢れている社会では投資家の間で情報格差が生まれないため、『エンゲージメント投資』のように個別に対話をすることで、企業の成長を図ることができるという利点もあります」(小野塚さん)

WRITING :
大庭典子
EDIT :
剣持亜弥(HATSU)、喜多容子(Precious)
TAGS: