「料理人が選ぶおろし金/銅のおろし金の歴史は古く、『和漢三才図会』という1712年に編纂された江戸時代の百科事典にもすでに現在と同じ形状のものが描かれています。錫(すず)メッキを施した硬質な純銅の板に、鏨(たがね)と呼ばれる道具と金槌を使って、職人が一目一目、丁寧に刃を立てていきます。この古くから受け継がれてきた製法にこそ、今日も変わらず銅のおろし金が選ばれ続ける理由があります」
これは、“大矢製作所”が製造する銅の『おろし金』のパンフレットにあるコピー。同製作所は1928年に東京浅草で創業、現在は埼玉県和光市に工房を構える。
『おろし金』といえば、アルミに始まり、プラスチックにステンレス、セラミックと素材はさまざまだが、大矢製作所の『おろし金』は、純銅製の羽子板型の板に、錫メッキを施したもの。プロの料理人も認める、伝統に支えられた銅の『おろし金』とはどういうものなのか。特徴を挙げてみよう。
口当たりがまろやか。大根の風味も損なうことがない
現在、大矢製作所にはキャリア25年と23年という熟練のふたりの職人がいる。前述のコピーのようにして、彼らが使い込んだ鏨と金槌を使って刃を立てた『おろし金』は、大根の細胞を潰さないので、水と繊維が分離しない。そのため、時間を置いても水分をたっぷり含んだふわっとした大根おろしが出来る。また、繊維を細かく切るため、口当たりがまろやかで、風味を損なうことがない。
軽い力でスムーズにおろすことができる
羽子板状のその『おろし金』を初めて見たときには、きっとため息が出るだろう。それは、しろがね色の板に、純銅の赤みを帯びた微細な刃が一面に並ぶ姿に、凛とした美しさがあるからだ。
その刃は、一見するときれいに揃っているように見えるが、実は間隔や高さが微妙に不揃いになっている。そうした刃の形状の微妙な違いを施すことにより、刃が大根の様々な面に当たる。結果、大根の向きを何度も変えることなく、軽い力でスムーズにおろすことができる。
また、手にしたときには意外なほどずっしりとした重みを感じるが、この適度な重量感が安定感をもたらしてくれる。
目立て直しをして長く使う
吟味した素材で丹念につくられたこの『おろし金』は、耐久性にも優れている。しかし、長年使用していると、さすがに切れ味は悪くなってくる。その時には、古い刃を削り落として新しく刃を立て直す「目立て直し」が可能(有料)。
加えて、銅には抗菌効果という調理器具の素材として最適な性質がある。「料理人が選ぶおろし金」という冒頭のコピーは、これらの優れた特徴によって認められた事実を謳ったものなのだ。
おろす素材によって使い分けをする
職人が一目一目立てた刃には、粗目と細目の二種類がある。大根おろしに適したのは粗目で、りんごのすり下ろしにも向いている。一方の細目は主に薬味用で、しょうがやわさび、ゆず、にんにくをおろすのに向いている。
大矢製作所のホームページをのぞいてみると、羽子板型の銅おろし金は、粗目の大根用のほか、一枚で粗目・細目を両面使用ができるもの、しょうが用、薬味用の卓上おろし金など、4タイプを展開。さらに、サイズもバリエーションが熟考されているため、使いやすさや好みに沿って選んでいけば、愛用の一品と巡り会うことができる。
純銅製おろし金は、使い終わったら変色を抑えるために、すぐにブラシ類ですすぎ洗いをして野菜の繊維を取り除き、乾いた布で水気を取る。そして、完全に乾かしてから保管をする。そのほかにも、“仕事”の後にやるべきことがいくつかあるが、こうした手間も、使い込んでいくうちにきっと愉しみになるはず。なにしろ、そのおかげで美味しい大根おろしや薬味を頂くことができるのだから!
※価格はすべて税込です。
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- TEXT :
- 堀 けいこ ライター
- PHOTO :
- 島本一男(BAARL)