今、世界の女性リーダーが注目され、国内でもその数の増加が叫ばれています。そこで、『Precious』8月号では、各分野で活躍する女性に「決断」をテーマにインタビュー。「女性リーダーのYesの包容力、Noの決断力」と題して掲載しています。

その中から今回は、建築家・吉田愛さんのインタビューをお届けします。話題の建築物の設計を手掛け、代表を務める建築事務所でも新しい試みに挑戦する吉田さんにとって「決断」とは?

吉田 愛さん
建築家、「SUPPOSE DESIGN OFFICE」代表
(よしだ・あい)1974年生まれ、広島県出身。1994年穴吹デザイン専門学校を卒業後、2001年から「suppose design office」にて谷尻誠と共に建築設計業務に携わり、2014年共同主宰に。現在は東京と広島に事務所を構え、36名の従業員とともに膨大なプロジェクトを手掛ける。まるでホテルのようだと評判の千駄ヶ谷駅前公衆トイレやsequence MIYASHITA PARK内のカフェなど話題の建物を設計。SUPPOSE DESIGN OFFICE

Women leaders2 ■ 吉田 愛さん[建築家、「SUPPOSE DESIGN OFFICE」代表]

決断には、常識やルール、成功体験をいっさいもち込まない。過去を捨て続けることが「新しい価値のデザイン」につながる

キャリア_1,インタビュー_1

吉田さんが共同代表を務める、建築事務所「SUPPOSE DESIGN OFFICE」は、話題の建築物の設計を手掛けたり、自分たちのオフィス内に一般の人でも入れるレストラン「社食堂」をオープンするなど常に新しいことに挑み、注目を集めている。

「26歳のころから設計の仕事をしていましたが、7年前に、共同代表という形で経営者という立場になりました。もともとは、優柔不断な性格でリーダーに向いているとは到底思えませんでしたが、いざやってみれば【立場が人をつくる】とはそのとおりだと感じましたね。リーダーの立場になって、決断に迷いがなくなりました」(吉田さん、以下同様)      

以前は、どうすればもっといい空間がつくれるのか、時間の許す限り悩み、考え、徹夜も当たり前という働き方をしていた吉田さん。社長となり、意識改革したという。

「私が決断までに時間がかかれば、スタッフは待たされるわけです。彼らの時間をむだにしないことも私の仕事。そのためにも決断のスピードを上げようと思いました。そこで決断の大もととなる本質的な考えをはっきりさせ、自分はどう生きたいのかを決めました。『仕事も生活の一部と考えて生きよう。そのためには好きな人たちとやりがいのある仕事ができる環境をつくる』。源となるその考えと照らし合わせることで、日々の小さな決断も迷わなくなりました。決断ってまるでトーナメント表のようじゃないですか? いちばん上に大きなビジョンがあって、1回戦、2回戦とすべての判断はそこに向かって取捨選択していくイメージです」 

決断の際、気をつけていることは意識をフラットにすること。たとえNOを出すにしても【前例がないから】【常識的には】【ルールが】などの言葉は極力使わない。

「ある日スタッフから、南国で仕事をしたい、でも会社は辞めたくないと言われたんです(笑)。ルール的にダメだとは言いたくないけれど、社長として即刻YESとも言えない。そこで『それを企画書にしたら? 社員が海外で働くことで会社にどんなメリットがあるのか考えて、スタッフ皆も納得すれば行っていいよ』と答えました。彼は今、タイで楽しく暮らしていますよ、もちろん社員として(笑)」 

クライアントにもスタッフにもできる限り【YES】と言いたいと話す吉田さんらしい決断。この柔軟性と好奇心で、これからも新しい価値を生み出していくのだろう。

 

WRITING :
大庭典子
EDIT :
喜多容子(Precious)