『Precious』9月号の連載『現代の紳士たち』に、松坂桃李さんが登場!
8月20日(金)からは新作映画『孤狼の血 LEVEL2』が全国公開。さらに、9月には映画『空白』、2022年には『流浪の月』が公開待機中と、話題作への出演が引きも切りません。
そんな松坂さんが抱いていた危機感とは? 役者として作品へどう向き合っているのか? 今回は松坂さんの心の内や、新作映画への想いを語っていただきました。
このままでは消えていくと初めて危機感を抱いて
作品のために身体を絞ったという、松坂桃李。カメラの中で儚げにも、強靭そうにも見える表情に、役柄に徹しようとする、ストイックさが垣間見える。所謂(いわゆる)「戦隊モノ」でデビューして12年。キラキラした20代前半の青年だった彼は、今、あらゆる光と影を演じられる俳優となった。
「12年、そんなに経つんですね(と、はにかむ)。なかなかに苦しかったですけど」
誰から見ても爽やかな好青年 ――。そのイメージに縛られて身動きができなくなりつつある自分に、あるとき気づいたという。
「どうしても役柄と僕とを重ねられてしまうから、僕自身も『求められているものはこういうものですよね』というような、甘えが出始めていたのかもしれない。若いころはちやほやもされるし、じゃあ、このままでいいか、と。でも変化のない、俳優としての向上心もない生活で本当にいいのか?と、不安を感じるようになりました。このままだと、飽きられて、すーっと消えていくぞと」
危機感を抱いた。
「この先、ずっと仕事を続けていくため、食べていくためには、留まらず違う場を踏んでいかなくてはならない、あえてハードルを高く掲げて、自分のお尻を叩かなきゃいけないと思ったんです。考え抜いたあげく、事務所の方に『ガラッと毛色の違う作品、ジャンルもバラバラなものをやっていきましょう』と、相談しました」
試行錯誤の日々が始まった。
「これが30代、40代につながっていくと信じて、必死に、がむしゃらに、いろんな役に挑んでいきました」
ぐんぐん役の幅を広げ、特に近年は『彼女がその名を知らない鳥たち』でのダメ男っぷりや、性を売る青年を描いた衝撃作『娼年』の映画と舞台に主演。大きな話題となった。
「『娼年』はかなり迷いましたけど、変われるこれ以上ないチャンス、と飛び込みました。映画よりも、濡れ場をナマで演じなければならない舞台は、役者以前に人としての葛藤もあり、苦しみましたが……。でも女性の心理を炙り出すあの作品を乗り越えて、またひとつ大きく変われて今がある、と思っています」
『新聞記者』(2019)では、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を手にした。記者と共に政界の闇に挑んでいくエリート官僚役については、その重いテーマゆえに「【あれに出るの?】と出演を懸念される声もあった」というが、やはり自らの意志で決めている。
「政治批判というより、僕が脚本の底流に感じたものは、自分の目で見て聞いて、感じたことを、自分の意志で選択、決断していこうよというメッセージでした。それは人生にとって重要なこと。そこを伝えられたらと」
希林さんから教えられた、心を伝えるという仕事
新しい作品に入る前は、「脚本を徹底的に読み込むことから始めます」と話す。
「俳優は目立ってナンボという考えもありますが、僕はまずその作品全体が何を伝えたいのか、をものすごく考えます。そのためにこの役はどう動けばいいのだろう……と入っていく。まずは作品ありきです」
作品に向かう姿勢は、これまでの共演者からも影響を受けたといい、「特に」と、『ツナグ』での樹木希林さんの名を挙げた。
「作品づくり、ものづくり、そして役づくりということにおいて、あのすごい姿を目の当たりにできた。人の心に何かを伝えていく、この仕事の魅力、深さを教えられた気がします」
今月、新作映画『孤狼の血 LEVEL2』が公開される。1作目に続く警察とヤクザの抗争ものだが、松坂演ずる刑事・日岡秀一が、バディを組んでいた先輩、大上(役所広司)の理不尽な死のあと、再び勃発した抗争を治めようと、孤軍奮闘する姿が描かれる。
「役所さんからも俳優として、人として多くを学びました。『今、日本映画はおとなしすぎる。こういう男と男の熱いぶつかり合い、人間くさいドラマがあってもいい』というようなことを話されていて、その言葉を胸に、現場に立ちました。日岡の信念を貫こうとあがく感じ、人に頼れず、ひとりで頑張ってしまう感じは、ちょっと僕自身に通じるものがあります」
「大きな責任を背負う主演」として「クランクイン前夜はいつも眠れないです」と言うが、ひとりの刑事の、正と悪との狭間に生きる葛藤と孤独とを、白石和彌監督は再び衝撃的なエンターテインメント作に仕立て上げた。
「最終日に白石さんが号泣したんです。コロナでの撮影の中断、最悪、中止されるかもしれないという状況で……。映画を撮れるという日常がどれほどうれしいものか、僕も噛みしめました」
「あの数か月、日岡と共に生き抜きました」と言い切る。これからも、この国の映像界を確実に担っていくであろう、唯一無二の俳優だ。
※掲載した商品はすべて税込み価格です。
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- PHOTO :
- 秦 淳司(Cyaan)
- STYLIST :
- 丸山 晃
- HAIR MAKE :
- AZUMA(M-rep)
- WRITING :
- 水田静子
- EDIT&WRITING :
- 小林桐子(Precious)