ブランディングディレクターとして活躍中の行方ひさこさんに、日本各地で出会った趣のある品や、その作り手たちをご紹介いただく連載企画「行方ひさこの合縁奇縁」。第2回目の今回は、昆布のロマネコンティとも言われる礼文島 山本商店の利尻昆布です。

自然に敬意を払い、本当の「良さ」にこだわった最高品質の利尻昆布

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礼文島 山本商店の利尻昆布

北海道で獲れていた昆布は江戸時代に北前船で運ばれ、大阪、京都などを経て鹿児島や沖縄まで届けられていました。実は縄文時代から食べられていたという昆布。昆布が日本各地の食文化に与えた影響はかなり大きいのです。

昆布は、軽い、腐らない、料理の奥行きが広がる魔法の食材です。出汁をとった後でも佃煮などにすることができる捨てるところのないサステナブル・フード。そんな昆布の中でも最高級と言われている利尻昆布の中から、東京の3つ星フレンチでも使われている、昔ながらの方法で丁寧に作られている礼文島 山本商店の昆布をご紹介します。

花の浮島、礼文島とは

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向こうに見えるのは利尻島の利尻富士。天気が良い日にはくっきりとその姿を見ることができます。まだストーブが必要な6月が花の見頃だそう。

礼文島は人口2500人ほどの小さな島です。名前の由来は、アイヌ語ででは「沖の・島」を表す「レプンシㇼ(repun-sir)」と呼ばれ、日本語名はこの「レプン」に字を当てたものだそう。

日本最北端の宗谷地方は北洋の気候ですが、日本海側のため対馬暖流の影響を受け内陸の気候と比べると比較的温暖です。オホーツク海から流入する流氷の影響もほとんどなく、夏期は冷涼で冬期は温暖となり本州ほど四季の区別のない気候になります。

夏は「花の浮島」と言われているほど、貴重な高山性の約300種の花々が咲き乱れ、数々の美しい礼文固有種も。

冷夏も多く、9月は比較的天候が安定しますが、10月以降は大陸の高気圧に支配され気温が低くなり、12月に入ると雪の降る日がしだいに多くなり年内には根雪に。1月から2月にかけては大陸性の高気圧の影響を受け、北西の季節風が大変強くなり、内陸ほど気温は下降しませんが積雪は多く、強風の厳しい季節を迎えます。

未来へ繋ぐ海

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漁師の朝は早い! 夏は日の出が4時半の礼文島ですが、まだ暗いうちから船を出す準備をします。

友人シェフにご紹介いただき、お取り寄せさせていただいた山本さんの昆布は、日常的にスーパーで購入しているものと全く違い、驚くほど上品で奥深い味でした。それもそのはず、礼文島の南で取れる昆布は昆布のロマネコンティと言われるほど特別なものです。

日本の昆布生産量の9割を占める北海道ですが、道南の真昆布、道北の利尻昆布、日高昆布、そして羅臼昆布の主に4種に分けられます。それぞれに味や濃度に特徴があり、さらに漁師さんによっても違いが出ます。

昆布漁は夏に行われるのですが、礼文島の夏は1.5ヶ月と驚きの短さ。その1.5ヶ月の中でも漁に出られるのは多くて10回とのこと。しかも、最近では緩和されたものの、近年まで漁ができるのは漁業組合で決まった時間のみ、とかなり限定されているのです。

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どうバランスをとってるの?と思うくらい無理な体勢でも、しっかり海の中を覗きながら漁をするのです。

山本さんが行っているのは、利尻・礼文に伝わる昔ながらの鎌を使う漁法で、鎌苅(かまがり)といいます。岩に根を張り付かせ海の中でゆらゆら波でたゆたう昆布たちの中から、肉厚でいい感じに育ったものを見極め、掴み、鎌で刈る。公園のボートが少し大きくなったくらいの小舟に乗り、海中を覗きながら一つ一つ行うので、良い昆布を見極めてとることはできますが、効率はあまりよくありません。

山本さんが丁寧に鎌で刈るのは、昔ながらの方法を守っているからというだけではありません。「海は未来に繋いでいく大切なものだから。目先の利益を得るために、まだ育ちきっていない昆布や海産物をとることはしたくない。自然と生きることは、未来の子供達にバトンを渡していくものだよね」と。

良い昆布とは?

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家族総出で昆布を天日干し。子供たちも文句は言うものの、手は休めません。
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砂利を敷いているのは、昆布は土がつかないようにするのと、砂利自体が太陽に熱されて暑くなり乾燥が進むため。丁寧に1枚1枚広げて重ならないように干します。

丁寧に鎌で刈った昆布を家族総出で天日干し。十分に乾くまでに8時間以上かかるので、日が陰ってしまったらまた翌日干します。昔は晴れた日に恵まれていたそうですが、このところ湿度が高くなったり、雨が多くなったりと自然環境の変化はここにも現れています。

山本さんも昆布をなるべく伸ばして平らにしていました。なぜなら、昆布の等級は幅と長さでが決まるから。組合で決まった昆布の優劣は、肉厚で幅と長さのある立派なもので何段階かのランクが定められており、測定により買取の値段が決められています。

幅を広くするためにアイロンのようなものを当てているところも多い。天日干しではなく乾燥古屋の中で、熱風を当てて乾燥させている漁師さんの方が多いのだそう。

山本さんは「見た目のいい昆布が良い昆布とされているけれど、熱を加えすぎると風味が落ちるし、無理に伸ばしたりしない方が絶対に美味しいはずでしょ」と笑って言いました。「本当に美味しい昆布は幅と長さでは測れない。1度最高の長さになった後に縮むその時なんだ。高く組合に買い取ってもらうより、お客様に本当に美味しいものを届けたい」

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短い滞在を終えて、礼文島から稚内に帰りのフェリーから。

この日、周りの漁師さんたちが次々と戻ってくる中、山本さんはなかなか海から帰ってきませんでした。なぜなのか理由を尋ねてみると、「まだ小さい子供の雲丹も採っちゃったから、それを選別して海に返していた」と言うのです。「選別しきれなくて沖まで持ってきてしまったものも、後できちんと海に返しにいく」とも。

命をいただき、命を繋ぐ。自然への敬意を大切に、必要以上はいただかない。自然の中で真っ直ぐに生きている山本さんが、自分と自然と向き合い真っ直ぐに届けてくれる昆布をぜひ味わっていただけたらと思います。

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自らデザインして1つ1つ刷って作る力強い版画のパッケージにも利尻富士が。これは家の窓から見える景色なんだそうです。

問い合わせ先

礼文島 山本商店

この記事の執筆者
「ブランドのDNA」=「ブランドらしさ」を築くため、ストーリーやデザインなどの一貫したコンセプトワークを行い、トータルでブランドの向かうべき方向を示す。アパレルブランド経営、デザイナーなどの経験を活かして、食や工芸、地域創生などローカルに通じる幅広い分野で活動中。
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WRITING :
行方ひさこ
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