私は葉巻の輸入販売をはじめとする事業に携わっていますが、その原点は20代の頃に勤めていたフランス料理店にあります。フレンチやワインに興味があり、ウェイターになったものの、サービスの定義はないし、さりとてシェフでもないので、お客様と料理について言葉を交わしても説得力がありません。そこで、仕事のモチベーションを高めるための武器を身につけようと、一念発起してまずソムリエの資格をとり、次に葉巻の勉強をしました。洋書を手に入れて、葉巻を片っ端から買い、生産国にも行き、その成果を本にまとめ、やがて独立して現在に至るわけですが、自分が経営者になって初めて、事業を営んでいくことの責任、大変さを知ったしだいです。

男の貌は葉巻が育てる

タバコ葉の生育から製造まで、すべて人の手だけでつくられる、贅沢な嗜好品。

なぜこんなことを話したかというと、葉巻を愛好される方は、企業のオーナーや役員など、責任ある立場に就いているケースが多いんですね。当然、年齢も50〜60代が中心で、そこに至るまでの、仕事を含めた人生経験は豊富だし、常識があり、立ち振る舞いもスマート。そのうえ大勢の人と会う立場上、ライフスタイル全般に気を配っているから、お洒落です。そういう方が葉巻を吸うと、やはりとても様になる。私たちがチャーチルやカストロといった男たちの写真を見て、葉巻が似合うなあと思うのは、そこに不屈の意志で困難に立ち向かう、責任ある男の深みを感じているからだと思います。

葉巻が似合う日本の有名人で記憶に新しいのは、自動車評論家の徳大寺有恒さんですね。自動車メーカーにおもねることなく、消費者目線でクルマを語るその姿勢に多くの人が共感したことでしょう。もしかしたら多少は間違いもあったかもしれないけど、恰幅がよくてひげを生やし、葉巻を手にしたその姿には、大局を見据えてものを言う男の格好よさがありました。私が探究を始めた頃に比べて、日本で手に入る葉巻の銘柄は格段に増えました。シガーバーなどの環境も整ってきていますし、ジェントルマンのコミュニケーション・ツールとして、ぜひ活用していただきたいと思います。

もっとも、煙を口に入れたときの、甘味、辛味、酸味のバランスをしっかりと感じられるようになるには、相応の経験が必要です。所作もしかり。刃物で切って火をつける一連の行為も含めて、自分のものにできるまでには、20〜30年くらいはかかります。そうして葉巻をくゆらせながら積み重ねていく時間が男を磨き、皆いい貌に育っていくのではないでしょうか

この記事の執筆者
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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2018年秋号より
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談 :
広見 護(シガーショップ&バーオーナー)