ブロードウェイをはじめとするニューヨークの劇場街は、新型コロナウイルスの影響で昨年の春以降、完全に幕を下ろした。リンカーン・センター内にあるオペラの殿堂メトロポリタン歌劇場も例外ではなく、2020/2021シーズンはMET(メトロポリタン・オペラ)の全演目がキャンセルに。が、行政の的確な措置と住民の粘り強い努力により今年に入ってから街の感染状況が改善され、いよいよこの秋、再始動する。
2021/2022シーズンのMETのスタートは9月27日。スパイク・リー監督の映画音楽でも知られるジャズ・ミュージシャン、テレンス・ブランチャード作曲の新作オペラ「Fire Shut Up In My Bones」が皮切りだが、再開に向けてのプレ・イヴェントとして、9月の4日と5日にリンカーン・センター内ダムロッシュ・パークでのMETオーケストラの無料コンサートが予定されている。指揮はもちろんMET音楽監督ヤニック・ネゼ=セガン。そして、そんなMET再開を祝うように、日本では9月3日から『METライブビューイング アンコール2021』が始まる。
『METライブビューイング』は、METの舞台で上演される世界最高峰のオペラを映画館の大型スクリーンで上映するエンターテインメントで、日本をはじめ世界70カ国2,200か所以上で実施されている。5.1chサラウンドの音響と10台以上のカメラを駆使したダイナミックなライブ撮影の効果により、METの特等席にいるような気分で鑑賞できるのが魅力だ。このほどスタートする『METライブビューイング アンコール2021』の上映作品は、東銀座の東劇で13本、池袋のシネ・リーブル池袋で10本。その内4本は両館共通での上映なので2館合計19本。ヴァラエティ豊かな名作が揃った。
初心者にも身近な有名作から重量級〈ニーベルングの指環〉4部作まで19作品がズラリ
今回初開催となるシネ・リーブル池袋のラインナップには、ヴェルディ「椿姫」、ロッシーニ「セヴィリャの理髪師」、ビゼー「カルメン」、レハール「メリー・ウィドウ」、プッチーニ「蝶々夫人」、モーツァルト「魔笛」「フィガロの結婚」、ガーシュウィン「ポーギーとベス」など、オペラ初心者でもタイトルを聞いたことのある有名作品が並ぶ。いずれも一度は観ておきたい作品ばかりだが、オペラは全く初めてという方にオススメなのが、ミュージカル「ライオン・キング」で知られるジュリー・テイモア演出の「魔笛」。奇抜なアイディアに満ちた凝りに凝った衣装や美しい舞台装置は、観ているだけで楽しくなること請け合い。また、「ポーギーとベス」は「2019/2020シーズン最高の人気作」として紹介したことのあるソールドアウト公演で、2021/2022シーズンの上演も決まっている。観逃せない作品だ。
一方、東劇には、ワーグナーの〈ニーベルングの指環〉4部作「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」が出揃う他、ヴェルディの「リゴレット」「ドン・カルロ」「ナブッコ」、ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」、モーツァルト「魔笛」(同演出/別配役)などの充実作が登場する。〈指環〉4部作はシルク・ドゥ・ソレイユでも知られるロベール・ルパージュ演出版で、ジュリー・テイモアの「魔笛」とはまた違った趣向による、驚きのヴィジュアルが楽しめる。この機会に全4部を制覇しておきたい。また、同作のメイキング・ドキュメンタリー『ワーグナーの夢~メトロポリタン・オペラの挑戦~〈ニーベルングの指環〉の舞台裏』も9月3日から配信される予定(詳細はMETライブビューイング公式サイトで)。
先に触れた「ポーギーとベス」「フィガロの結婚」、そして、ロッシーニ「ラ・チェネレントラ」、グノー「ロメオとジュリエット」の4本が両館共通上映になる。「ロメオとジュリエット」は、しっとりとした美しい舞台作りで定評のあるバートレット・シャー演出の2017年版。ヴィットーリオ・グリゴーロのロメオ、ディアナ・ダムラウのジュリエットで堪能したい。
なお、リピーターには「METライブビューイング アンコール2021」の鑑賞済み座席指定券提示による割引もある。上映スケジュールおよび作品の詳細と併せて、下記METライブビューイング公式ホームページでご確認ください。
※新型コロナウイルスの影響により一部情報が変更となる可能性があります。最新情報は公式HPなどでご確認ください。
- TEXT :
- 水口正裕 ミュージカル研究家
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」