2021年9月6日(月)に発売した『MEN'S Precious秋冬号』はご覧になっていただけただろうか?
この秋冬号のP141にて、「赤峰幸生 かく語りき」と題し、モダン・ジェントルマンに近づくための心構えを聞いた。目指すべき男の資質について、8つの問いに込められた赤峰流の人生学をご覧あれ。
赤峰幸生が語る!モダン・ジェントルマンに近づく8つの解答
「真のジェントルマンになるには、10箇条なんかじゃ足りないよ」――当初、紳士になるための10箇条をいただこうと、赤峰さんが構えるサロン「めだか荘」を訪ねると、開口一番このように一喝いただいた。
さもありなん。一朝一夕で手に入れたわけではない「赤峰イズム」が、とある10箇条を弁えさえすれば、手にできると考えるのもおこがましいなと、取材班一同も自戒。
そこで、赤峰さんが実践する暮らし方、生き方から、モダン・ジェントルマンを志向する我々が、少しでも何か参考にできるヒントはないだろうかと問うたところ、急遽、赤峰さんのモダン・ジェントルマン講座が開講された!
「ジェントルマンに必要なのは、着ること、食べること、住むこと全部」と語る「赤峰先生」との対話のなかから、これからジェントルマンを目指す男たちに向けて、8つのQ&Aを導き出した。
Q1 クローゼットの中に10年着ている服はあるか?
赤峰「誇らしげに『ありますよ!』と言っている人の顔が目に浮かぶよね。今の人なら、それでも長いほうなのかもしれない。大抵は、2、3年着ていればいいほう。
それでも10年じゃまだまだ、と言いたい。僕のクローゼットに並ぶのは、大体30年以上の古参ばかり。でも、それがいい。ヴィンテージのウイスキーとかワイン並みにいい味を出してますよ(笑)。こういう味は、化学調味料じゃ出せない。何年も寝かせた味噌や、手間暇かけてとった出汁のように、時間をかけてこそ生まれるものなんですよ。
だから、時代を超えても変わらない魅力があるんです。着込んだからこそできるシワやアタリなんかもそう。もちろん、素材や縫製に関して言えば、長持ちする品質を備えている、という大前提がありますよ。50万円のスーツも30年着たらさすがに減価償却しますよね。決して高い買い物じゃない。量販店で買えるポリエステルの安物じゃあ、30年なんて着られませんから。
今、僕が作っている服はすべて、そうした30年選手の服と合わせても変わらない温度感のものばかり。新しいということが価値ではないんです。洋服ってのはね、30年着てからが本番。最低でも15年だ。それは、服にかかわらず、万年筆や箸、器といった道具にしても同じこと。気に入ったものを長く使うってことは大事なんです。
どうかな? そう、ジェントルマンへの道のりは長いんだ」
Q2 どこの何がどう美味いのか、こだわりの味覚を語れるか?
赤峰「今、食べログだぁなんだってあるじゃないですか。本当は、味覚っていうのは、人それぞれ。自分が美味いと思うものに対して、自分の言葉でその理由が語れるってことが大事だと思うんですよ。
たとえば、ジョエル・ロブションだから美味い、っていうのは、おかしいでしょ。ジョエル・ロブションが●●だから美味い、って言えないと。その●●こそ、自分の価値観。もちろん、近所の定食屋だっていいんです。お袋が作ってくれた味噌汁と同じ味、っていうのが理由だって構わない。自分の価値観をきちんと言葉にできるってことが肝要だと思いますよ」
Q3 死ぬまでにあと何回ネクタイを結べるかを考えたことがあるか
赤峰「やっぱり男の装いに不可欠なのは、タイドアップですよね。堅苦しいとか、窮屈だとか言って嫌がる男性も多いのかな。昔でいう袴じゃないけれど、ビシッと引き締まる。背筋が伸びるんだ。いわば、男の儀式だよ。
当時環境相だった小池(百合子)さんが始めた、クール・ビズが元凶じゃないかと思いますが、男が嫌がる所作になってしまったのは、残念です。1年は365日しかない。僕なんかは、残りの人生で、あと何回ネクタイが結べるんだ、って惜しくてしょうがないよ。Vゾーンを考えることは楽しいことなんだ。ネクタイってのは、締めれば締めるほどうまくなっていくものですしね。
今日は、ポロシャツだからネクタイは締めていませんよね。締めないこともVゾーンを考える上で選択肢に入ります。僕なんかはね、締めていなくても締めているように過ごせるんですよ(笑)。
実はこれが、僕がよく口にする『ドレスマインド』のこと。服の選びにも関わってきます。例えば今日着ているこのポロシャツ、台襟が高いんですよ。それは、ジャケットを上に羽織ったときに、きちんとVゾーンの中で襟が主張するわけです。普通のポロシャツだと、ジャケットのラペルに負けて沈んでしまいますから。
服というのは、ジャケット、インナー、トラウザーズ、そしてチーフやホーズも含めてワンセット。今日はシャンブレーのジャケットにイエローのポロシャツをインしましたが、チーフも色を合わせています。
お盆の上に並んだご飯もそうでしょ? ご飯と味噌汁、突き出しなどがひと通りきちんと並んで初めて、『美味そうだ』となる。このトータルのバランスが考えられるようになったら、『ドレスマインド』への入り口に立ったも同然です」
Q4 旧暦を知っているか?
赤峰「9月は和名で言えば長月。24節気72候をすべて言えますか、という話。旧暦を馬鹿にしちゃダメだよ。
僕が大事にしている言葉は、『一日一生、一日一着』。一日一生というのは、仏教用語で、一生のように一日を大事に生きるということ。そして、一日一着は、僕が作った言葉(笑)。まあ、その備忘録としてインスタグラムにその日の服装を投稿しているけどね。そんな大事な一日に着られる服は、概ね一着しかないわけだ。だからこそ、その日に何を着るかというのが非常に大事ってこと。
そういう暮らし方をするには、リズムや、季節の変化を感じとることも欠かせないわけですよ。旧暦がわかっていると、そういう季節のリズムにも敏感になってくる。
例えば、夏。終わってしまったけれど、土用の丑の日ってあるじゃないですか。なんでうなぎ食べるかわかりますか? 土用は季節の変わり目の約18日間、これが実は年に4回あります。体力が衰えるこの時期に、うなぎを食べて精をつけましょうって話で。
今はクリスマスだ、ハロウィンだってあるけれど、違うんだよ(笑)。旧暦のリズムを体で感じておくことは、衣食住すべてにおいて重要なんですよ」
Q5 モノの良し悪しをラベルで決めていないか?
赤峰「この話はQ2に近いですね。つまりは、自分の価値観で服を選べているか、ということ。自分自身の価値観に自信をもつことは並大抵ではありません。
『赤信号、みんなで渡れば怖くない』なんていうけれど、どうしても、皆がいいというものを選んでしまいがち。そうなると、多数決で支持されるような人気ブランドに手が出てしまうのも致し方ないのかな。有名セレクトショップのものだから、とか、人気スタイリストが勧めているから、とかね。
でも、それじゃあジェントルマンへの道は遠い。自分の価値観や好みは自分で培っていくものなんだ。
そうは言っても、人ってなかなか自分に似合うものを自分ではわかっていないんですよね。お客さんにもいらっしゃる。それには、経験が必要。『めだか荘』に来れば、僕が見立てるし、もちろんウチでなくても、仕立て屋で服を作ろうとすれば、アドバイスしてくれるもの。人の意見も参考にしながら、経験を積み重ねていくことで、自分のスタイルってものが骨太に仕上がっていくんだと思いますよ」
Q6 先祖の命日を覚えているか?
赤峰「今、自分が生きているのは、誰のおかげか。親、そして、先祖のおかげですよ。今の人たちは、先祖を敬えているのかな。
まず、命日には墓参りに行きなさいと。父母がご健在ならば、祖父母の命日に。今、仏壇を持っている人は少ないかもしれませんが、毎日、仏さんにご飯を持ってチーンとやる。これができれば、満点。
なかなかそうしたことができないよ。という人は、家族の写真や、先祖の写真を家に飾っておくだけでもいいと思います。
生活感が出ちゃって嫌だ? とんでもない。僕はむしろ生活感が滲み出ている男のほうが素敵だと思う。ときとして生活感を感じないことをよしとする風潮もありますが、僕は逆の考え。生きるということは、そんなに格好いいことばかりじゃないですよ。
先祖を敬って、今を生きるんです」
Q7 健康のために、進んで取り組んでいることはあるか?
赤峰「健康は、生きていくうえでの基本の“き”。同じリズムの毎日を暮らすためにも、常に健康でいたいですよね。
大体皆さんは、夜何時に寝て、朝何時に起きてますか? 僕は、22時には何があっても床に入って、朝4時半には起床します。そして、ラジオ体操第一、第二をやる。これがリズム。第三もあるけど、それはやりません(笑)。人間というのは、暗くなったら寝て、明るくなったら起きる生き物。自然のリズムを体で感じていくために非常に大切なんです。
なかには、不摂生や徹夜を自慢して、働く自分に酔ってしまう人も見受けますが。お話にならない。
これは、いつもの自分でいるために必要。必ずしも太っている、痩せているということではなくて、変わらない自分をキープする。いつもの服が似合っている。という状態を維持するためにも、それは、服を20年、30年と着続けるためにも大事なことだと思います」
Q8 河原に転がる石を見て、色使いを学んだことはあるか?
赤峰「僕には、色使いの規範にしている“学習帳”がいくつもあります。それは、ときに、多摩川に転がっている石だったり、陶器だったり、アートだったりするんです。
そもそも『汚い色』なんて、この世にはない。あるのは、組み合わせの良し悪し。それによっては見栄えが悪くも美しくもなる。その配色の妙というのを、僕はさまざまなものから学んでいるんです。
例えば、この応接間に並べているのは、人間国宝、濱田庄司さんのお孫さんが作る益子焼だとか、大分の小鹿田焼だとか、僕の気に入った色味の陶器。あるいは、優れた油彩画家でスペインに長く住んだ、織田広喜の作品。柳 宗悦が進めた民藝運動と展示する日本民藝館は、僕の庭みたいなもので、何百回と通ったものです。そういうものが“配色の師匠”。
もちろん、映画だってそうですよ。ちなみに、この書斎にあるのは、大体そうした映画関係の本。そうした文化の奥行きを知っておくことは、会話の深みにもつながりますね。国際社会では、映画の好みの話は大いに盛り上がります。それもクラシカルなもの。俳優ではなくて監督についてですね。少し脱線してしまいました(笑)。
好きなものに囲まれていることで目を養う。反対に、つまらない物を見て、目を疲れさせたくないんですよ(笑)」
一歩一歩、着実に歩んでいきたい。自分なりのジェントルマン道
今回の取材を機に、急遽開講された赤峰幸生先生によるモダン・ジェントルマン講座。そこで、真のジェントルマンになるためのヒントを、8つのQ&Aとともにご解説いただいたわけだが、読者の皆様はどのように読んでくださったであろうか?
我々は今回の取材を終えて、冒頭にもご紹介した「10箇条なんかじゃ足りないよ」という言葉に、改めて感じ入った。ジェントルマンへの道は、長く険しいのだ。
装うこと、食べること、住むこと。ジェントルマンであろうとすることは、そのすべてに対して、自分の言葉で語れる哲学を持って実践していなければならない。当たり前であるが、それは服装術という枠組みの中だけで語れるものではない。もはやそれは男のしかるべき暮らし方であり、生き方に他ならないのだ。
だからこそ、赤峰幸生先生の言葉をしっかりと胸に刻もう。そして一歩一歩、自分なりの歩みで前に進んでいくことこそが、真のジェントルマンへの近道なのだ!
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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- PHOTO :
- 太田泰輔
- WRITING :
- 高村将司