1メートル走らなくても楽しめるクルマ。なんともユニークな特徴を持つのが、フォルクスワーゲン「ID.LIFE(アイディーライフ)」。2021年9月初旬にミュンヘンで開催された自動車ショーで発表された「IAAモビリティ2021」で発表され、話題を呼んでいる。
後席に座って映画を鑑賞できる“場”
ここで紹介したい特徴は、2つ。ひとつは、デザインだ。全長4メートル10センチの車体は、スポーティとかエレガントな雰囲気はあまりない。そのかわり、ルーフやボンネットの一部に、100%リサイクルされたPET ボトルからつくられたエアチャンバー テキスタイルを使っている。
ルーフは、しかも、ジッパーがついていて、交換可能。いまの段階ではプロトタイプなので、どんなルーフがオプションとして想定しているかは不明だけれど、素材や柄をいろいろ選べるようにしたい、とはフォルクスワーゲンの説明だ。
もうひとつの特徴は、インテリア。車内が映画館になる。停車してスイッチを入れると、ダッシュボードからするするとスクリーンが出現。そこにプロジェクターで映像を投影する。そのときは、後席で2人して座るといいそうだ。
フロントシートのデザインがちょっと変わっているなと思うのは、このときバックレストが倒れて、うまいぐあいにレッグレストに“変身”するから。ヘッドレストレイントなんて、フットレストだ。
「若いひとたちは、ドライブいがいの楽しみを見出しているんじゃないか。そう考えてコンセプトを作りました」。フォルスクワーゲンのヘッドオブデザイン(デザインのトップ)を務めるヨゼフ・カバン氏は、21年9月に開催されたオンラインでのインタビューで、そう教えてくれた。
「いまの若いひとたちにとって、大事なのは、ゲットトゥゲザー、ゲットコネクテッドではないか、とID.LIFEを担当したチームは考えました。そこでこのクルマのコンセプトを“場”としたのです」
新しいマーケットの開拓を目指すフォルクスワーゲン
コロナ禍をうけて、旅に行きにくくなった昨今。
「ID.LIFEに乗って、ほんのすこし走って、そこでコネクティビティを利用して、ビデオやゲームなどを楽しみ、ほかのひととつながるんです」
それがID.LIFEがもし世に出たとき創出できるかもしれない、あたらしいマーケットなのだという。かねてより、フォルクスワーゲンは自社のありかたについて「自動車メーカーではなく、サービスプロバイダーになる」と公言しているだけあって、デジタル化が進むなか、これまでにないコンセプトの実現を目指すのかもしれない。
ID.LIFEは、その名が示すとおり、プラットフォームはID.ファミリーで共用する電気自動車用「MEB」を使用。車体のフロントに172kWの電気モーターを搭載して、前輪を駆動する。
バッテリー容量は57キロワット時で、航続距離は400キロ(WLTP)。静止から時速100キロまでは6.9秒で加速と、出足のよさはさすが電気自動車だ。価格は「多くのひとが買いやすいように」(カバン氏)と、2万ユーロ(約260万円)が想定されている。
じっさいにこのクルマが生産されるのか。計画について訊ねられたカバン氏は「つねに可能性はあります」と答えた。ID.シリーズをライフスタイルプロダクトととられているフォルクスワーゲンでは、このさき、SUVのID.BUZZをはじめ、コンパクトなID.2やID.1の開発を進めているとか。ID.LIFEはそこにつながるコンセプトモデルなのかもしれない。
- TEXT :
- 小川フミオ ライフスタイルジャーナリスト