1メートル走らなくても楽しめるクルマ。なんともユニークな特徴を持つのが、フォルクスワーゲン「ID.LIFE(アイディーライフ)」。2021年9月初旬にミュンヘンで開催された自動車ショーで発表された「IAAモビリティ2021」で発表され、話題を呼んでいる。

後席に座って映画を鑑賞できる“場”

都会のモビリティにおける次世代の電気自動車に関するビジョンという。
都会のモビリティにおける次世代の電気自動車に関するビジョンだという。
容量57kWhのバッテリーは約400キロ(WLTP)の航続距離の想定。
容量57kWhのバッテリーは約400キロ(WLTP)の航続距離の想定。

ここで紹介したい特徴は、2つ。ひとつは、デザインだ。全長4メートル10センチの車体は、スポーティとかエレガントな雰囲気はあまりない。そのかわり、ルーフやボンネットの一部に、100%リサイクルされたPET ボトルからつくられたエアチャンバー テキスタイルを使っている。

ルーフは、しかも、ジッパーがついていて、交換可能。いまの段階ではプロトタイプなので、どんなルーフがオプションとして想定しているかは不明だけれど、素材や柄をいろいろ選べるようにしたい、とはフォルクスワーゲンの説明だ。

もうひとつの特徴は、インテリア。車内が映画館になる。停車してスイッチを入れると、ダッシュボードからするするとスクリーンが出現。そこにプロジェクターで映像を投影する。そのときは、後席で2人して座るといいそうだ。

フロントシートのデザインがちょっと変わっているなと思うのは、このときバックレストが倒れて、うまいぐあいにレッグレストに“変身”するから。ヘッドレストレイントなんて、フットレストだ。

「若いひとたちは、ドライブいがいの楽しみを見出しているんじゃないか。そう考えてコンセプトを作りました」。フォルスクワーゲンのヘッドオブデザイン(デザインのトップ)を務めるヨゼフ・カバン氏は、21年9月に開催されたオンラインでのインタビューで、そう教えてくれた。

「いまの若いひとたちにとって、大事なのは、ゲットトゥゲザー、ゲットコネクテッドではないか、とID.LIFEを担当したチームは考えました。そこでこのクルマのコンセプトを“場”としたのです」

新しいマーケットの開拓を目指すフォルクスワーゲン

基本的な運転機能は六角形のオープントップ・ステアリングホイールのタッチパネルを介して操作。
基本的な運転機能は六角形のオープントップ・ステアリングホイールのタッチパネルを介して操作。
フロントシートのバックレストを倒して後席からスクリーンの動画を鑑賞するコンセプト。
フロントシートのバックレストを倒して後席からスクリーンの動画を鑑賞するコンセプト。

コロナ禍をうけて、旅に行きにくくなった昨今。

「ID.LIFEに乗って、ほんのすこし走って、そこでコネクティビティを利用して、ビデオやゲームなどを楽しみ、ほかのひととつながるんです」

それがID.LIFEがもし世に出たとき創出できるかもしれない、あたらしいマーケットなのだという。かねてより、フォルクスワーゲンは自社のありかたについて「自動車メーカーではなく、サービスプロバイダーになる」と公言しているだけあって、デジタル化が進むなか、これまでにないコンセプトの実現を目指すのかもしれない。

ID.LIFEは、その名が示すとおり、プラットフォームはID.ファミリーで共用する電気自動車用「MEB」を使用。車体のフロントに172kWの電気モーターを搭載して、前輪を駆動する。

バッテリー容量は57キロワット時で、航続距離は400キロ(WLTP)。静止から時速100キロまでは6.9秒で加速と、出足のよさはさすが電気自動車だ。価格は「多くのひとが買いやすいように」(カバン氏)と、2万ユーロ(約260万円)が想定されている。

じっさいにこのクルマが生産されるのか。計画について訊ねられたカバン氏は「つねに可能性はあります」と答えた。ID.シリーズをライフスタイルプロダクトととられているフォルクスワーゲンでは、このさき、SUVのID.BUZZをはじめ、コンパクトなID.2やID.1の開発を進めているとか。ID.LIFEはそこにつながるコンセプトモデルなのかもしれない。

ボディのクリアコートにはバイオベースの硬化剤とともに木材チップを使用した天然着色剤を使用。
ボディのクリアコートにはバイオベースの硬化剤とともに木材チップを使用した天然着色剤を使用。
IAAモビリティ2021での発表風景(右から二人目がヨゼフ・カバン氏)。
IAAモビリティ2021での発表風景(右から二人目がヨゼフ・カバン氏)。
この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。
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