世代を超えたPreiousライフなストーリー『ワンダーカクテル』を発表しつづけるイラストレーターのわたせせいぞうと、ソロデビューから25周年を迎えてた最新アルバム『SONG BOOK』を引っ提げてコンサートツアー中のバイオリニスト・葉加瀬太郎。
ギョーカイきっての伊達男ふたりは「不思議な縁」で結ばれていた。クラシック音楽をめぐる「話のハーモニー」を響かせる…スペシャルな対談をお届けしよう。
葉加瀬太郎×わたせせいぞうのスペシャル対談が実現!
わたせせいぞう(以下、わたせ) クラシック音楽に傾倒していったきっかけは、作曲家の三枝成彰さんが主宰する合唱団に入ったことでした。『ハートカクテル』のサウンドトラックを作ってくださったことがきっかけでご縁ができましてね。
葉加瀬太郎(以下、葉加瀬) わたせさん、それでいうと僕は18歳のとき、『ハートカクテル』コンサートでバイオリンを弾いていたんですよ。三枝先生にお世話になっていたので。だから、その合唱団は僕も名前だけは入っていますよ(笑)。
わたせ だとしたら、僕らは同じ合唱団ですね(笑)。あるとき、欧州公演をして、ウィーンの学友教会で歌ったんです。「小澤征爾さんが振った舞台で僕が歌ってもいいんだろうか?」と思いながら。あのブラームスが会長をしていた伝説のホールでね。音響がとてもよかったですね。
葉加瀬 それはそれは、いい舞台にお立ちになりましたね。
わたせ その後には、夏のトッレ・デル・ラーゴのプッチーニ音楽祭に出たんです。三枝さんが発表した新作オペラの舞台に。野外劇場で、月が大きくなって行くのを見ながら歌ったのは本当に感動しました。
葉加瀬 おお、素晴らしいです。本物の本物ですからね。僕はオペラ座や、お城や、京都のお寺やさまざまな場所で演奏をしてきましたけれど、本物の場所にはいつも、“してやられます”。大阪は吹田のニュータウンの団地育ちのせいか、こと、特別な場所には感性が刺激されやすくて。バイオリンという楽器のおかげでいろんな街を旅しました。
わたせ そう、クラシック音楽が好きになると、色々なところに連れて行ってくれるんですよね。
伊達男たちの話をバイオリンがつなぐ
わたせ いま、ビッグコミックで『なつのの京』という作品を描いていますが、主人公は祇園のお茶屋さんのおかあさん。プラスαの色をつけたくて、京都に来る前は、イタリアのクレモナでバイオリンを作っていたという設定にしました。クラシック好きが高じて、ひとつ噛ませてみようと思いましてね。
葉加瀬 クレモナ! ィッタァーーーリァのロンバルディア州ですよね。…僕はイタリアのことを「ィッタァーーーリァ」と呼ぶことにしているんです。それだけで楽しくなってきますから(笑)。ともかく、クレモナはバイオリン好きにはたまらない街です。僕にとっては聖地です。300~400年前からずっとバイオリン作りの伝統が続いているところです。
わたせ なぜあの町にバイオリン工房は集まるのですか。日本人のバイオリン技術者も多くいますね。
葉加瀬 あの地で活躍したストラディバリとグァルネリの名前が大きく轟いていますが、ストラディバリの師匠であるアマティさんの一家がクレモナの嚆矢といっていいですね。現在では職人学校があって、世界中から人が集まります。
わたせ バイオリンの三大名器を作った名匠たちですね。
葉加瀬 クレモナは木が集まってくるんです。バイオリンは削り出す前に乾燥する時間が大事で。最低50年は乾かす。100年乾かすともっといい。となると師匠の木を使うわけですね。
わたせ 1700年代に作られたものがいまだに鳴るし、音がいいといって億を超える額で取引されているんですもんね。
葉加瀬 ええ。よくいうのは「150年経って、音が調う」と。そして「150年鳴っている楽器はその後、300年、400年はもつ」と。
わたせ スケール感がすごいね。
葉加瀬 雑に弾いてしまうと楽器がへこたれてしまうのですが、名器は皆が代々丁寧に扱います。温度と湿度を管理してね。僕もバイオリンケースには温度計と湿度計を入れています。日本だと、夏場はとにかく乾燥させて、冬場は湿気を入れてあげて。
わたせ 愛を注いであげるわけですね。
葉加瀬 僕が4歳からバイオリンを弾いていて、いまだに飽きない第一の理由は、形が美しすぎることなんです。奇跡的な美術品だと思います。他の楽器はもう少し進化しているんですよね。
わたせ 17世紀から変わってないんですか。
葉加瀬 はい。さっき出てきたアマティのときにほぼ完成。ストラディバリの頃に会場が大きくなり演奏が派手になったので、大きな音が欲しくなってちょっと改良。そこから変わらない。
わたせ 変えるところがないデザインなんですね。
葉加瀬 あの曲面で構成された形をクリエイトできるのは、ひとりの天才を讃える文化があるからです。ランボルギーニやフェラーリもそうですけれど、多数決や合議制ではああはならない。「何のために?」という人がいないから、ああいう形ができるんですよね。これがィッタァーーーリァらしさです。
わたせ 僕から見ると、イタリアは「一回、栄えちゃったところ」がいいですね。
葉加瀬 おっしゃる通りです。何百年か前に一回栄えたことを知っている人たちが住んでいるというか、「もうオレら、終わってっし。楽しむべきっしょ」みたいな感じはあります。「よし、享楽と快楽だな」ってところ(笑)
わたせ そうそう。そういうところは、京都に似ています。葉加瀬さんは、それだけイタリアを愛しておられながら、どうしてロンドンに住んでいるの?
葉加瀬 ははは。それはですね、たとえば、ローマの街を好きなコートを着て、襟を立ててバイオリンケースを持って歩いていたら…ですよ? それだけで上手くなった気がしちゃうじゃないですか。間違いないです。練習なんてしなくなります!
わたせ 確かに。僕だったらキャンバスを持って歩きたいですよ。でも、歩いただけで上手くなった気になってしまいそうですね。われわれには危険な街だね(笑)。
※このふたりの対談アナザーストーリーは、単行本『なつのの京 〜父のソナタ〜』単行本にも収録しています。
通常盤¥3,300(税込)
葉加瀬太郎オフィシャルウェブサイト
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- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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- PHOTO :
- 黒石あみ
- HAIR MAKE :
- 藤川美沙(Alpha Knot/葉加瀬太郎)
- EDIT&WRITING :
- 輔老 心