多彩なジャンルや業態の飲食店が無数に存在し、世界的に見てもエキサイティングな東京のフードシーン。そのなかでも、この連載ではニューオープンを中心に「今」行きたい、「人」を連れていきたい、“大人のためのレストラン”にフォーカス。第8回は、2017年1月7日にオープンした渋谷の「ふた味(ふたあじ)」をご紹介します。

店のスタイルを変えた、衝撃的な出会い

料理に合わせた飲み物を提供するペアリング。料理ならフレンチから和食や中華、飲み物なら酒類からノンアルコールまでと、さまざまなスタイルを提案する店が増えつつある昨今。なかでも和食と日本酒のペアリングについて、今もっとも注目したいのが「ふた味」です。その理由は、料理と酒、それぞれのエキスパートがぶつかりあって生まれる非常に精度の高いペアリングが味わえるから。料理長を務める西山道泰さんは、18歳から和食一筋。銀座の老舗料亭「花蝶」で修業を始め、スイスのオーベルジュ「兎山」の懐石レストランでミシュランの星を獲得。帰国後も「西麻布 いちの」にて4年連続で星を得た、輝かしい経歴をもつ料理人です。

「ふた味をオープンするにあたって、当初は日本酒とのペアリングを考えていなかったのですが、赤星さんとの出会いで一変しました。優秀な唎酒師が海外から帰国したと噂を聞いて気になっていたのですが、実際に彼のお店に伺って日本酒のペアリングに衝撃を受けたんです。“これだ!”と思い、即その場でお願いしました。この出会いがなかったら、打ち出し方のまったく違う、料理主体の店にしていたと思います」(西山さん)。

西山さんの故郷、愛媛県の檜を使ったカウンターが目を引く店内。右側に飾られた作品は愛媛県・五十崎の和紙産業の活性化を目指す気鋭の手工業所「五十崎社中」によるもの。凛とした清潔感と温かみが共存する空間です。
西山さんの故郷、愛媛県の檜を使ったカウンターが目を引く店内。右側に飾られた作品は愛媛県・五十崎の和紙産業の活性化を目指す気鋭の手工業所「五十崎社中」によるもの。凛とした清潔感と温かみが共存する空間です。
店内奥には2名から利用できる個室を用意。4名、6名向けを備え、扉を開放すれば最大12名まで対応可能。裏口から出入りすることもできるので、プライバシーを重視する方との会食や接待にもぴったりです。
店内奥には2名から利用できる個室を用意。4名、6名向けを備え、扉を開放すれば最大12名まで対応可能。裏口から出入りすることもできるので、プライバシーを重視する方との会食や接待にもぴったりです。

緊張感のある切磋琢磨から生まれるペアリング

かくして「ふた味」の核となった日本酒とのペアリング。このキーパーソンとなるのが、日本酒のセレクトを担当する赤星慶太さんです。16年間NYで「日本酒のソムリエ」として活躍してきた唎酒師の赤星さん。帰国後は、料理とのペアリングを提案する日本酒バー「赤星とくまがい」をオープン。このバーこそ、西山さんが衝撃を受けたお店。熟練の料理人の申し出を二つ返事で快諾した酒の目利きは、現在「ふた味」で開催される月2回の試作会に参加し、料理に合う日本酒を練り上げています。

「事前にメニューを伺い、1回目で大まかな提案をし、2回目で料理、酒ともに最終決定します。NY時代から現在まで長く日本酒のコンサルティングをしていますが、この試作会はこれまでにないほど緊張感のある場です。自身の店で提供しているのは洋の要素をいかした料理。クリームやチーズなども取り入れています。醸造の過程で乳酸菌が欠かせない日本酒と、こういった料理は相性がよく、合わせやすいんです。対して、出汁をベースにした料理にどう合わせていくか。コースという流れのなかで日本酒の役割をどう捉えるか。しかも合わせるのは多彩な食材を使い、アイディアあふれる西山さんの料理。プレッシャーも大きいですが、素晴らしい勉強をさせていただいているという気持ちが強いですね。回を追うごとにこちらのスキルも磨かれてきて、今まで経験したことのないペアリングをつくり上げているという実感があります」(赤星さん)。

「相性のよい組み合わせでも、料理にどこかブレがあると、同じ酒がまったく合わなくなってしまうんです。完璧な味付けを目指していますが、酒と合わせることで綻びが明確になり、精度があがります」(西山さん)。

料理と酒、それぞれのエキスパートが切磋琢磨して生まれるのは、全10皿ほどからなる月替りのコースと、ひと皿ずつ料理に合わせた日本酒を提案するペアリングコース。今回はそのなかから、季節のお料理とスペシャリテをご紹介します。

柚子を器代わりにして、白味噌ベースのスープに白子、牡蠣を入れて蒸し上げた一品。コースのなかで前菜2品に続く酒肴として登場します。魚介は築地のほか、旬に合わせて直送で仕入れるものも多いとか。「ふぐは福岡、甘鯛は愛媛、天然の鰻なら徳島など、月ごとのメニューを考える際にどこから入れるかも決めます」(西山さん)。
柚子を器代わりにして、白味噌ベースのスープに白子、牡蠣を入れて蒸し上げた一品。コースのなかで前菜2品に続く酒肴として登場します。魚介は築地のほか、旬に合わせて直送で仕入れるものも多いとか。「ふぐは福岡、甘鯛は愛媛、天然の鰻なら徳島など、月ごとのメニューを考える際にどこから入れるかも決めます」(西山さん)。

12月のメニューから、視覚や香りからも季節を感じられる「柚子釜蒸し」に合わせたのは「原田 純米吟醸 おりがらみ生原酒」。醸造の際に米や酵母から生じる固形物=澱を除かず瓶詰めしたこの酒は、やわらかい旨みとふわっとした甘さが特徴。「ふた味」のおすすめは、まずひとくち酒を飲み、料理を食べ、また酒を飲んでみること。この段階を追うごとに、まるで魔法のように酒と料理の味が変化します。文字通り澱が絡んだ酒による米の旨みが白味噌、白子、牡蠣それぞれの濃厚な旨みを包み込んで生まれる、驚くような一体感。また、酒の甘みが食材の塩気を嫌味なく引き立てます。爽やかな柚子の香りと少しパイナップルを彷彿とさせる酒の香りも好相性。

何とも贅沢なフカヒレの天ぷらに、しっかり味のしみた大根とフカヒレを炊いたスープでつくった餡かけを添えて。コースの後半、食事の前に進肴(強肴)としてこの天ぷらか和牛の炭火焼きのどちらかを選ぶことができます。21時以降はアラカルトでも注文可能(¥2,000)。このほか、「鴨の朴葉味噌焼き」(¥1,800)や「天然鰻の筒焼き トリュフがけ」(¥2,400/季節限定)も人気の料理。
何とも贅沢なフカヒレの天ぷらに、しっかり味のしみた大根とフカヒレを炊いたスープでつくった餡かけを添えて。コースの後半、食事の前に進肴(強肴)としてこの天ぷらか和牛の炭火焼きのどちらかを選ぶことができます。21時以降はアラカルトでも注文可能(¥2,000)。このほか、「鴨の朴葉味噌焼き」(¥1,800)や「天然鰻の筒焼き トリュフがけ」(¥2,400/季節限定)も人気の料理。

続いて、スペシャリテの「フカヒレの天ぷら餡かけ」に合わせたのは「奥能登の白菊 本醸造原酒」。このペアリングのカギになるのがワイングラス。絞った酒に加水しないので、アルコール度が通常よりも高くなる原酒。アルコール度を下げ、また酒質を引き締めるために燗ロックで提供しているのだとか。香りがしっかり感じられるブルゴーニュタイプのグラスに氷を入れ、80度まで燗付けした酒を注ぎ、氷が溶けた頃には40度に。まずはフカヒレを口に含むと……これだけでも旨みの塊! ですが、続いて酒を飲むとその甘さがフカヒレの旨みをぐっと引き立てるから不思議。完成形だと思っていた料理が、酒によってさらに次の領域に到達するような感覚があります。「ペアリングの世界を知って、ある程度キャリアを積んできた自分がここにきてどんどん成長できるということに喜びを感じています。長いお客様たちからも“進化している”とありがたい言葉がいただけて、幸せですね」(西山さん)。

「ふた味」を拠点に、料理×日本酒の魅力をより広い世界へ

そのままでも完成された料理を、その先にある未知の高みへと導く日本酒。これまでにおふたりがいちばん衝撃を受けたのはどんなペアリングなのでしょう?

「以前お口直しに出した柑橘のシャーベットと『山本 純米吟醸 ピュアブラック』です。フレッシュで、交互に口に含んでいるとどちらがどちらかわからなくなるくらい(笑)。こういう体験は日本酒やペアリングに馴染みがないお客様をぐっと引き込みますね。“合わせるってこういうことなんだ”と驚かれます」(西山さん)。

「一度提供したことがある、出汁と『一本義 大吟醸熟成酒 一朋』。自分としても出汁そのものに酒を合わせることが斬新で……ほかの店ではまずできない組み合わせですね。歴史も浅く、雑多な状態にある日本酒のペアリング。まだまだこれからの世界だと思っていますが、現在ここまで踏み込んでいる店は見つからないでしょう」(赤星さん)。

取材時の月替りコースに合わせるべく、赤星さんが全国から選りすぐった10本はこちら。それぞれ20ml程度と少量での提供なので飲み過ぎる心配もありません。これだけの種類が少しずつ飲めるなんて、貴重な体験ですよね。季節限定の酒や海外から人気に火がついた“逆輸入”酒、入手困難な酒など、説明を聞くのも楽しいラインナップです。ペアリングのほか、好みの酒と料理を楽しむことも可能。ソムリエが在籍しており、日本酒のほかにワインや焼酎、こだわりのソフトドリンクもそろいます。
取材時の月替りコースに合わせるべく、赤星さんが全国から選りすぐった10本はこちら。それぞれ20ml程度と少量での提供なので飲み過ぎる心配もありません。これだけの種類が少しずつ飲めるなんて、貴重な体験ですよね。季節限定の酒や海外から人気に火がついた“逆輸入”酒、入手困難な酒など、説明を聞くのも楽しいラインナップです。ペアリングのほか、好みの酒と料理を楽しむことも可能。ソムリエが在籍しており、日本酒のほかにワインや焼酎、こだわりのソフトドリンクもそろいます。
左から赤星さん、西山さん、店長の田中隆太さん。田中さんがこれまでにいちばん衝撃を受けたペアリングは先にご紹介した「フカヒレの天ぷら餡かけ」×「奥能登の白菊 本醸造原酒」の燗ロックだそう。フカヒレの天ぷら、燗ロックとそれぞれ単品でも衝撃的な組み合わせ。ぜひ実際にお試しを!
左から赤星さん、西山さん、店長の田中隆太さん。田中さんがこれまでにいちばん衝撃を受けたペアリングは先にご紹介した「フカヒレの天ぷら餡かけ」×「奥能登の白菊 本醸造原酒」の燗ロックだそう。フカヒレの天ぷら、燗ロックとそれぞれ単品でも衝撃的な組み合わせ。ぜひ実際にお試しを!

それでは最後に、日本酒ペアリングの最先端を走る「ふた味」をつくる人たちに「これから」を伺いましょう。

「料理長が衝撃を受けたように、自分も赤星さんを通して初めて日本酒のペアリングに出合いました。驚くほど多様性のある日本酒の世界を、より多くの方々により深くご紹介したいですね」(田中さん)。

「国内はもちろん、このペアリングの素晴らしさをゆくゆくは海外にも伝えられたらと思います」(西山さん)。

「ここは今後、日本酒ペアリングの中心になりうる場所。中心であり続けるためには、常に新しいことを発信しなければなりません。たとえば、これから推したいと思っているのが日本酒の水割り。酒を仕込み水で割って自分好みのアルコール度数に調整して、さらにその地方の料理とともに味わう……。こんな風に、日本酒はまだまだ可能性があります。その未来を切り拓くことができるのが『ふた味』だと考えています」(赤星さん)。

「ふた味」という名前に込められた意味もふたつ。ひとつは、西山さんが修業時代に師匠から教わった煮炊きものの極意「味のなかに味を見つけろ」という言葉から。もうひとつは、料理の味と日本酒の味。ーーふたつの味をかけ合わせれば、そのなかにそれぞれを超えた味が見つかるーー。店名に宿るふたつの意味は、まるで料理と日本酒の“ふた味”が出合った先に得られる味覚を指すようでもあります。私たちが「日本酒」「ペアリング」にもつイメージを軽やかに超えて、まだ知らぬ高みへと導いてくれる「ふた味」。まずは何も考えず、ひとくち、ふたくち。やがて舌に広がる味に、心から湧き上がるような驚きと喜びを感じるはずです。

問い合わせ先

  • ふた味 
  • 営業時間/17:30〜24:00(料理22:00LO、ドリンク23:00LO)
    定休日/日曜
    料理と日本酒のペアリングコース¥17,000
    (料理は約10皿、それぞれに日本酒がつく。料理のみは¥12,000)
    21:00以降はアラカルトメニューあり
    カウンター6席、個室(2〜12名まで対応 ※2名の場合は個室料あり)
  • TEL:03-6427-9316
    住所/東京都渋谷区渋谷2-2-2 青山lula1階

この記事の執筆者
早稲田大学卒業後、アシェット(現ハースト)婦人画報社に入社。『エル・ジャポン』、『エル・ガール』、「エル・オンライン」編集部を経て独立。現在はフリーランスのエディター、ライターとして紙/Webの両媒体を中心に、主にファッション、フード、ライフスタイルのジャンルで活動。セレクトショップ「ドローイングナンバーズ」ではワイン&フードのセレクトも担当。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
PHOTO :
長田朋子
EDIT&WRITING :
門前直子