転機となった作品の前と後、自分の気持ちは何も変わっていないと思う。まだまだ足りていないと思うし、“守る”ところには至っていない(田中 圭さん)
『Precious』11月号の連載『現代の紳士たち』に、俳優・田中 圭さんが登場!
テレビで見ない日はないほど大活躍中の田中 圭さん。2021年10月から新たに主演するドラマ『らせんの迷宮~DNA科学捜査~』では、天才科学者役を演じられます。田中さんが俳優を目指すきっかけとなった出来事や、主演ドラマについてお話を伺いました。
キャラクターは撮影現場で初めて生まれていく
華美なオーラを放つわけではない。だが田中 圭は常に、どこか気になる俳優だった。わずかな役であっても、何かしらの印象を残す人……。デビューして20年が経とうとする頃、突如といった感じでブレイクした。
「転機はやっぱり『おっさんずラブ』ですね。ストレートに感情をさらけ出して、お芝居ってこういうふうにやっていいんだ、ということを僕に納得させてくれ、礎を築くことができた作品でした。経験した前と後では、現場に立つ意識が絶対的に違うものがあります」
男性同士の恋を描いたドラマは、可笑しみや愛おしさがあり、人が人を恋うこと―を伝えた物語で、大きな話題となった。俳優としては、いわゆる遅咲きといわれることについて尋ねると、少しだけうつむいた。
「自分の中で何か変わったかというと、正直、あまりなく。もちろん主演作という心構えはありますが、ようやく自分もここまで来たかとか、まったくなくて。どちらかというと、まだまだ足りていないという思いが強いかもしれない。『守る』ところには至っていないというか」
気どりのない朴訥とした話し方。「うーん」と、深く考え込んだかと思うと、急に子供のようにくしゃっと笑ったりする。
「役づくりについてよく聞かれますが、いまだによくわからないんです。たとえば体を鍛える。でもそれって『見た目をつくる』ということで、その人の内面に入り込むこととは違う。僕は、すべては現場で生まれると思っていて。自分のイメージするキャラクターと、皆のイメージするキャラクターとを現場で重ねてみることで初めて役が生まれ、それが回を重ねるごとに馴染んでいく」
演技の難しさや、面白さをとことん植えつけられて
俳優への道は「落ちこぼれた」ことから始まったらしい。中高一貫の進学校に通っていたが、中3のときに部活のバスケで靭帯にケガを負った。部活をやめ、成績も落ち始める。
「ちょっと逸れ始めたんです(笑)。といっても、学校帰りに買い食いするくらいのことです。殴ったことも殴られたこともない世界で育ったから、自分はちょっと不良かななんて思って、いざ外に出てみると、ただただ『いい子ちゃん』でしたけど(笑)」
思春期の鬱屈が重なった。持て余している息子に映画作品へのオーディションを勧めたのは、女手ひとつで育ててくれた母だった。合格はしなかったが、応募数1万7000人のうちの20人に残り、現在の事務所から声をかけられる。
「俳優になろうなんて思ってもみなかったのですが、試しに、事務所が紹介してくれた方の演技レッスンを受けに行ってみたんです」
そこで、信頼のおける師に出会った。人生が変わった。
「芝居の難しさや面白さを、とことん植えつけられて。この道にどっぷりはまりました。今でも、あのレッスンがすべてだったと思います」
大学進学をやめ、高校在学中の16歳でデビューする。しかしなかなか芽が出ず、同年代の活躍を、悔しい思いで見る日々が続いた。26歳の頃にはやめることも考えたという。
「でも……結局は、僕は俳優しかできないので。世の中に上手に沿って、器用に生きられるような人間ではなくて」
終始、穏やかな雰囲気を感じさせるが、「たぶん欲は強いほうです」と言う。
「ただ欲といっても、欲の方向が違うと自分で感じます。うまく言えないけど、何か怒りに近いっていうのかな。『抗えない何か』と葛藤している感覚は常にありますね。社会全体のことでいえば、自分の子供たちの未来は、果たして明るいのだろうか……とかね。常に頭の中にいろいろ交錯しています」
いつも自分の中に怒りのような感情がある。社会とか、未来に対してとか
そんなふうに抱える数々の感情が、表現へと向かわせるのだろう。10月からスタートするドラマ『らせんの迷宮~DNA科学捜査~』(テレビ東京系)では安田顕演じる熱血刑事と共に難事件に挑む、天才科学者を演ずる。
「神保仁(役名)は、本心が見えないやつ。最終話まで脚本を読んでも、真面目なのかボケで喋っているのかわからない(笑)。でもこのドラマの要は安田さんとの絶妙な距離感にあると思う。すでに通じ合っていて、もうそこでひとつ成立しているなと思っています」
市井に生きる「普通」の人々を演ずることが多い田中が見せる、天才科学者という、キャラクターが際立つ役柄は興味深い。本人は「ただ向き合うだけ」と笑うが、また新たな側面を見せてくれることだろう。
田中圭。どこにでもいるようで、どこにもいない。極めて稀有な存在感を放つ俳優だ。
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- 水田静子
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- 小林桐子(Precious)