雑誌『Precious』では「My Action for SDGs 続ける未来のために、私がしていること」と題して、持続可能なよりよい世界を目指す人たちの活動に注目し、連載しています。

今回は、獣医師・日本動物病院協会理事、吉田尚子さんの活動をご紹介します。

吉田 尚子さん
獣医師、日本動物病院協会理事
(よしだ なおこ)アメリカやカナダの獣医師が行う犬介在教育に感銘を受け’09年にNPO法人「CANBE」を共同設立。’12年より、児童精神科病棟より依頼を受け、ドッグセラピーを開始。’20年には法廷に付添犬を入れる日本初の試みを実現。

病棟や法廷に犬を介在させ、子供の心身を守る活動に邁進

獣医師をしながら、犬を介在させた教育を行うNPO活動をしていた吉田さん。ある日、彼女のもとにある小児病院から、病棟にセラピー犬を入れ、子供の心を癒す「犬介在療法」についての相談が寄せられた。

病院に犬を入れるという、日本にはあまり前例のない療法に医師や保育士らと慎重に取り組んだ結果、多くの子供たちから歓迎された。特に児童精神科病棟での効果は大きかった。

「親の虐待などで心に傷をもつ子が多く入院している精神科病棟では、大人への絶望感や不信感から、心を閉ざす子もいます。そんな彼らがドッグセラピー中は見たこともない優しい顔を犬に向けたり、ふだん落ち着きのない子が静かに順番を待ったりと、主治医も驚くような姿がありました」

犬には心の壁を下げる力があるのではとの医師の評価を受け、共同研究を開始。児童精神科は残念ながら、病棟内での喧嘩や暴力件数が格段に多いのが現状。ところが、その件数の推移を見ると、ドッグセラピーの日だけガクンと減ることがわかったのだ。この研究はパリの学会で発表し、注目を集めた。

この結果を受け、吉田さんは、シビアな虐待を受けた子供を加害者から守るため、法廷に犬を入れるという日本で初の「付添犬」(※)の導入を他職種連携で実現させた。

【SDGsの現場から】

●児童精神科病棟のドッグセラピー効果を海外での学会で発表

サステナブル_1
最近の研究ではセラピー中は子供と犬の双方からオキシトシン(幸せホルモン)の分泌があると判明。

●犬への接し方を丁寧に指導し安全を確保

サステナブル_2
動物との距離のとり方、接し方を指導するなかで自身が性被害にあっていたことに気付いた子も。

「付添犬を法廷に連れていくと、犬はいつもこの場にいる誰がいちばん傷ついているかがわかるかのように、被害にあった子のそばにすっと寄っていきます。

すると固く口を閉ざしていた子供が被害の状況などの証言を始める、そんな瞬間を何度も見てきました。私は、今後も犬の力を信じて活動を続けます」

※付添犬とは…法廷に同行し、証言する子供に寄り添う犬。検事や弁護士、医師、獣医師のチームで裁判に臨む。

PHOTO :
望月みちか
WRITING :
大庭典子
EDIT&WRITING :
大庭典子、喜多容子(Precious)