男たちを輝かせる超一流ブランドの“夢”と“現実”
アートとしての革新性と衣服としてのリアリティを創造する一流ブランド。我々はランウェイ越しに見る夢の世界と、そこから地続きとなるクローゼットに並ぶ現実を同時に享受する。
エルメス|新生活に寄り添う越境的クリエイション
世界的な災禍のなか、我々のライフスタイルが変更を余儀なくされた。いよいよ、食住だけでなく、衣に対するマインドセットの変化も顕著になりそうな予感である。
今季の「エルメス」が、まさにその象徴といえるだろう。内や外、フォーマルやインフォーマルといった境界をあえて曖昧にし、大胆な色彩を用いる手法で、新たな価値観で服装の表現を行っているように映る。コレクションで披露したのが、リラックス感やエレガンスを漂わせるディテールのミクスチャー、あるいは、個性を強調する大胆で鮮烈な色使いだ。さりとて、奇抜というわけではなく、フランネルなどのベーシックな素材選びや快適性を生むイージー仕様など、極めて実用的でもある。
リモートワークや二拠点生活といったニューライフを生き抜く「個」に向けて、より自由で、多様な生き方を肯定する。「エルメス」の服こそ、そうした気分に寄り添い、際立たせる、そんな存在なのだ。
プラダ|再生素材こそクールという新しい時代の旗頭
アイコニックな素材であるナイロンに大鉈を振るった「プラダ」。2021年末には、そのすべてを再生素材にするという宣言は話題を呼んだ。とりわけ、産業界においてファッション界が遅れをとっていると指摘されるSDGs対策として一歩前に出た格好だ。
「プラダ」のもの作りを見れば、その信念や覚悟が伝わってくる。「プラダ リナイロン」と呼ばれるエコニールを用いた素材は、原料調達まで掘り下げると、その意義深さを知ることができるのだ。
埋め立てに使用される廃棄カーペットや、海や河川に残される魚網、工場から排出される繊維クズ。自然分解されることのないナイロンを、ペレット状に再生して繊維として改めて紡ぎ出しているのだ。
新たな資源の濫用を抑え、廃棄物がもたらす汚染を減らし、持続可能にする。この思いきった舵取りが、後続する者にも勇気を与えてくれる。そうしたリーダーのひとつに、「プラダ」ならなりえるはずだ。
ジョルジオ アルマーニ|カシミアを当たり前に、倣いたい帝王の姿
あまりにも有名すぎる話だが、改めて。帝王、ジョルジオ・アルマーニ氏が最も愛する素材のひとつがカシミアだ。今でこそ、玉石混淆だが、やはり至高のブランドにおいて使用されるのは世界でも最高品質のカシミアヤーンにほかならない。だからこそ、帝王が認めたそのクオリティを享受せずにはいられないのだ。
極細繊維がもたらす優雅な着心地は特別なもの、まさに夢見心地だ。当然コレクションにもラインナップされている。加えて今季は、日本限定のカシミアコレクションが登場。ブルゾン以外にも、ニットやフーディ、イージーパンツなど、多彩な品揃えとなっている点もうれしい。実際、そのラグジュアリー感とリラックス感を両得したアイテム群はデイリーに使いたいものばかり。これには、ひとえに感謝したい。
彼がTシャツとして愛用しているように、極上素材をさらりと当たり前に着る。それこそ、モダン・ジェントルマンの手本たる姿だろう。
ボッテガ・ヴェネタ|旧来の発想を刷新する独自のスタンス
ファッションを字義どおり捉えるなら、流行そのもの。シーズンが変われば、廃れるものも生まれてくる。
この循環構造に懐疑的な視線を投げているととれるのが、若きクリエイティブ・ディレクター、ダニエル・リー率いる「ボッテガ・ヴェネタ」だ。その新たな試みは、昨年から始めた独自カレンダーによる発表だけにあらず。メインコレクションを「サロン」、プレコレクションを「ワードローブ」と位置づけ、衣服の本質を追求して展開。ときには、旧シーズンに使用したモチーフさえ引用し、安易に過去を切り捨てない。
これは、思考停止せず、新しい形を模索した賜物と見る。ユーザーにとっては、去年の服に新作を混ぜるなど日常茶飯事。ブランドが一例を示せば、旧作を恥ずことなく着回せて、満足度も高まることだろう。
今季の「ワードローブ02」では、ジェンダーの縛りを越えたラインナップに。衣服の本質と向き合いながら、未来を見据える姿勢を感じる。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2021年秋冬号
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- PHOTO :
- 金谷章平
- STYLIST :
- 菊池陽之介
- HAIR MAKE :
- NORI
- MODEL :
- Daisuke
- WRITING :
- 髙村将司
- EDIT :
- 安部 毅(MEN'S Precious)