2021-22年、装いのアップデートを指南する、秋冬リアルクローズの実例集
服装を楽しみながら出かけるシーンのバリエーションは減少する一途。それでも、ファッションの力を信じて進むブランドの妙案。我々は、日常に不可欠なリアルクローズとしてそれを享受し、堪能したい。
グッチ|個性を放つムートンコート、その向こう側に透けるストーリーを感じて
カーリーな襟ファーが付くリアルムートンで仕立てた一着はランチコート風。どことなく漂うセブンティーズの香りを、シャープにまとめたグラフチェックシャツとサージのスラックスに羽織れば、骨太な色気が匂い立つ。ウェブ ストライプで飾られたホースビット ローファーはスパイス役。昨年、アレッサンドロ・ミケーレがガス・ヴァン・サントと製作した映画で見せた「オーバーチュア」コレクションからのコートは、それぞれの人生の中にある服のストーリーをほんのりとうかがわせる。
ルイ・ヴィトン|表情の違いで立体感を醸し出す、飾らないスタイル
ブラックとネイビーのシックな2色からなるミニマリズム。周囲の光によってその美しいシルエットが浮き彫りに。光沢のあるウール混素材による黒のフーデッドブルゾンは、シンプルな無地。背面にはLVMの刺繡があしらわれたり、胸元にピンバッジがついたりと、ささやかな飾り気を感じさせる。同色のタートルネックニットをインして、その精悍な印象をさらに引き締めて。合わせたネイビーパンツの、LVイニシャルと小紋柄を彷彿させる独自の柄が、ミニマルな着こなしに奥行きをもたらしてくれる。
ジル サンダー|柔と硬、相反するものの共存に身を任せて
相反するものの共存が、ルーシー&ルーク・メイヤーのデザイン規範。ここから、新たなフォルムやシルエットを構築していく。トップスに選んだボクシーシルエットのニットは、メランジ調の多色使いによる繊細なジャカード織のランダム柄が美しく、ボリューム感だけでなく、インパクトも強調。サイドジップを備えたテーパードスラックスを合わせ、逆三角形のシルエットに。柔らかな編みと緻密な織り、この両者のミクスチャーが奏功し、シンプルな装いのなかにオリジナリティを作り上げているのだ。
サンローラン|既存のサウンドに風穴を開けた名盤に想いを馳せて
コーデュロイシェルにグースフェザーを詰め込んだダウンジャケット。ハイネックかつビッグシルエット、そしてクロップ丈がモダンとレトロを同時に想起させる。それもそのはず、このジャケットは、2021秋冬で掲げられたテーマのひとつロンドン コーリングにインスピレーションを得ているという。確かに既存のパンクに斬新なスパイスを混ぜ合わせたクラッシュの名盤に重なる強さも感じ取れる。温故知新的装いをドライブしてくれるのが、クラシカルなポーチだ。この邂逅がスタイルを彩っている。
ブリオーニ|色と色の𨻶間、繊細な感性を写したカラーパレットを纏う
ジェントルマンに不可欠な名門。紳士的で自信に満ちた男=“ブリオーニ・マン”と自称するにふさわしいワードローブメイクによる、見事なニュアンスカラー使いが目を引く。ダブルフェイス生地を一枚仕立てに仕上げた革新的なウールカシミアのコートはトープカラー。ドレープの美しいシルクシャツはダスティピンク、そして、ムダのないシルエットのウールトラウザーズはブラウン。高いテーラリング技術に裏打ちされた、3者が見事に溶け合うことで“ブリオーニ・マン”を形作っている。
ベルルッティ|パンチある素材をバランスよくリミックス、その手腕を愛でつ惜しみつ
ひと目でわかる最上級の素材使い。ラムシアリングの襟、シカ革のパッチ、そしてグースダウンを封入したナイロンシェルをリミックスし、繊細なグラファイトカラーにまとめ上げたボマーデザインのブルゾン。素材感の違いが同じトーンのなかに微差を生み、着こなしに表情を与えている。ロゴTシャツにスリムパンツといった、アーティスティックディレクターのクリス・ヴァン・アッシュらしいスタイルにもフィット。ゴージャスな本作で、彼のラストコレクションを堪能したい。
ブルネロ クチネリ|本質的な服で昨日と明日とを統合、変わらない日常を
男の定番、ネイビーのワントーンコーデ。これが巧みにキマるのは、今季「ルネロ クチネリ」が「昨日と明日との統合」を掲げて、より本質的なスタイル、ニュートラルなカラーを意識していることにも起因する。カシミアの新作生地が奥深い色調を与える美しいコートに、繊細な素材感をもつウールコットンのストレッチパンツ、ここに同系色のヴァージンウール×カシミアのニットをインしてグラデーションを崩さない程度のアクセント役に。素材の魅力を引き立てる、実にこのブランドらしい装い。
ロロ・ピアーナ|天然の風合いがダイレクトに伝わる極上の素材にひたる
天然素材を生かした機能性ファブリック使いは、ブランドの本懐とするところで、ラグジュアリーなリアルクローズそのものだ。キャメルカラーのジャケットは、キャメルとアルビーノキャメル(白)を表裏で使用した無染色ゆえの優しい色合い。加えてレインシステムによる撥水加工を施す優れた機能性にも注目したい。軽さも申し分ないアウターに、ウール&カシミアフランネルのイージーパンツをセット。そこに、繊細なカシミア糸を先染めして織り上げたマドラスチェックのマフラーが美しく調和している。
ディオール|ニューアート、ニュールックで日常を際立たせる
世界的災禍のなか、本質を追求する者があれば、日常の特別性に着目する者も。キム・ジョーンズは後者かもしれない。「日常の儀式」に着想を得て、儀式的な服装のディテールをデフォルメしたコレクションでは、現代アーティスト、ピーター・ドイグとコラボレーションしている。コートに備わる大きな襟は、アスコットのようにも結べる特徴的なパーツ。フォーマルなディテールの側章が付くパンツと、ドイグの絵画をモチーフにした柄を配した「サドル」バッグで、日常の儀式性をいっそう高めている。
フェンディ|ファッションがもつオプティミズム。その再確認として
改めて服を着る喜び、快楽を思い起こさせてくれる「フェンディ」のコート。今季テーマとして掲げるオプティミズムに則り、キャメル素材とハウンドトゥース柄からなるダブルフェイス生地のリバーシブルに仕上がっている。写真では、あえて裏面となるハウンドトゥースを表にして着用。合わせの部分にキャメルをブロック使いしている遊び心が見える。また袖を裏返すとキャメルが覗き、着こなしそのものの楽しさが増す。こうした些細な遊び心によって、ファッションの魅力を再発見することができるコートなのだ。
※価格はすべて税込です。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2021年秋冬号
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- PHOTO :
- 金谷章平
- STYLIST :
- 菊池陽之介
- HAIR MAKE :
- NORI
- MODEL :
- Daisuke
- WRITING :
- 髙村将司
- EDIT :
- 安部 毅(MEN'S Precious)