小型車の金字塔、クラシックミニは多くのバリエーションが存在していた。ミニをベースにしたモデルでもっとも有名なのは、むき出しのキャビンを持つミニモーク。抜け感どころではないキャラクターは、世の洒落者の所有欲を大いにくすぐる。そして電動化著しい今、ついにこの超個性派もEVに生まれ変わるという。

車名の由来はロバにあり

後輪をモーターで駆動するというEVのモーク。
後輪をモーターで駆動するというEVのモーク。
ボディ構造はオリジナルに近いが新設計という。
ボディ構造はオリジナルに近いが新設計という。

ボンドカーといえば、アストンマーティンDB5が通り相場。でも、「リブ・アンド・レット・ダイ」(1973年)でロジャー・ムーア扮するボンドが運転していた「ミニモーク」だって、ボンドカーといってもいいような。

ミニをベースに、可能なかぎりボディパーツを削ぎ落としたミニモーク。オリジナル・ミニが発表されたのと同じ1959年に、サー・アレック・イシゴニスの手によって、英国軍のために設計された。このときはまだモークの名はない。

軍の条件は、飛行機で前線まで運べる軽量で簡素な車両。米国ジープがおなじ目的で設計した総アルミボディの軽量ジープ「M422」、いわゆる「マイティマイト」とちょっと似ている。

ミニモークは、そのときは、グラウンドクリアランスが低すぎると、0.8リッターのエンジンでは非力すぎるという理由で、制式採用にはならなかった。それでも当時ミニなどを作っていたBMCは諦めず、古語でロバを意味するモークの名称とともに、改良版を62年に再び軍にプレゼンテーション。

残念ながら、モークはこのときも不採用の憂き目に。BMCはそれまでの開発コストを回収するために、ミニモークの量産を決定したのだった。オースティン・ミニモークとして正式に発表されたのは、64年1月だ。

生産中止→ピュアEVになって新登場!

外板色や内装や幌色などバリエーションは豊富という。
外板色や内装や幌色などバリエーションは豊富という。
耐候性の高い内装を備えた現在のモーク。
耐候性の高い内装を備えた現在のモーク。

ミニモークは、英国や欧州のみならず、北米や豪州でも販売された。エンジンは強力なものが搭載されるようになったものの、乗り心地は硬くて、ソフトトップの耐候性はゴルフカート並み。そのため、たくさん売れないと聞いても驚かなかった。シトロエン・メアリやルノーR4Lプレネールのように、リゾート地で楽しむビーチカーとしては、それなりに人気があったようだけれど。

日本では80年代にイタリアのカジバ製のミニモークが販売されていた。じっさいに私が乗ったとき、大雨に遭遇したことがある。シャワーカーテンのような幌のすきまから雨が吹き込んできて、まるで風呂桶に浸かったままのドライブという希有な体験になった。

でも、ミニモークってなんだか憎めない。そう思っているひとは多いようで、いまも作られている。英国のモーク・インターナショナル社が、2017年に権利関係を買い取り、現在、50kW(67ps)の1089cc4気筒エンジンを載っけて、英国でパーツを作り、フランスで最終組立てを行っているのだ。

2021年10月、モーク・インターナショナル社は、内燃機関を載せた「モーク」の生産を中止すると発表。かわりに22年1月から、すべてのモデルがピュアEVとなることに。いまのところ、満充電での走行可能距離は144キロで、充電時間は4時間。つまり小型バッテリーを使っているのだろう。

モーターの出力は44kW。車体設計はゼロから始めて、たとえば軽量化のためにアルミニウムを多用。環境規制が厳しくなってもモークはずっと走れるように、がんばっていくようだ。英国のクルマ人の努力に拍手を送りたい。

必要最低限の計器とオーディオをそなえる。
必要最低限の計器とオーディオをそなえる。
この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。