1953年に初代モデルが登場して以来、アメリカを代表するスポーツカーとして輝き続けてきたシボレー・コルベット。強く、速く、そして美しくあることをつねに求めながら進化してきたスーパースポーツは、世界中に多くのファンを抱えている。その大きな理由が、大排気量のV型8気筒エンジンをフロントに搭載して、後輪で路面を駆動するFRレイアウトであった。ところが2019年に登場した8代目モデルは、70年近く守り続けてきたFRレイアウトから、ミッドシップへと一変した。
ノスタルジーに浸っていられない作り手の事情
ミッドシップとなったことで、「これはコルベットじゃない」とか、「いや、すでにFRでは限界。変化は当然」などなど賛否が渦巻き、世界中のスポーツカーファンをかなりざわつかせた。欧州や日本のスーパースポーツが、ミッドシップ・レイアウトや大出力をより安定して路面に伝えられる4WDを採用しても、コルベットはかたくなにFRという流儀を通してきた。それがいきなり、ミッドシップになったのだから賛否が渦巻くのも当然だ。では新世代のミッドシップ・コルベットは、どんな魅力を持って登場したのだろうか?
外観はフェラーリやランボルギーニなど、欧州のミッドシップスポーツのような出で立ちだ。伝統の「ロングノーズ・ショートデッキ」というエレガンスを感じさせるスタイルではない。だからと言ってカッコ悪いかと問われれば、まったくそんなことはない。挑戦的にして先鋭的なデザインには、これまでコルベットが守り続けてきた強い押し出し感が健在であり、ハイパフォーマンスであることを具現化していたのである。
さらに言えば、アメリカの代表としてスーパースポーツの世界で戦い続けるためには走行性能の向上は必須であり、より速く安定して走ることのできるミッドシップは必然だった。従来型は500馬力近いエンジンを搭載していたが、それをなんとか制御しながらFRで走らせていた。だが、世のスーパースポーツには500馬力以上がズラリと並んでいる。そんな大出力の世界でFRは、もはやノスタルジーでしかない、といわれても仕方がない状況だ。
速く走れと急かされることはない
コルベットをこの先も存続させるための決断がミッドシップだったともいえる。さっそく日本導入モデルの右ハンドルモデル(これもコルベット初)のエンジンに火を入れ、走り出してみる。ドライバーの背中でドロドロドロッと、ゆったり回るエンジンのフィーリングは相変わらずのアメリカンV8の味わい。高回転型のエンジンの神経質な味とは異質な感覚である。そしてトルクたっぷりの加速感は健在で、アクセルをグッと踏み込めば体がシートに埋まるほどの加速を見せる。
一方で不思議な感覚というか、どことなく懐かしい走りの味わいがある事に気が付く。快適で乗り心地がいいのである。アメリカ車といえばゆったりとした、おおらかな乗り味も特徴のひとつであり、コルベットからも等しく享受できた魅力だ。それがこのミッドシップカーでも味わえるのである。ヨーロッパのスーパースポーツのような“尖ったタイト感”ではなく、“少し緩めで心地よいフィット感”がシートだけでなく、コクピット全体から感じられる。
さらにスイッチの操作性やメーターの視認性といったインターフェイスのよさが、ドライバーの緊張をほぐしてくれる。程よいタイト感のシートを始め、インフォテイメントシステムやクルーズコントロールなどの快適装備に囲まれ、背中でゆったりと低回転で回っているV8エンジンの存在感を感じつつ、大陸的な走りにどっぷりと浸かっているのである。速く走れと急かされることもなく、強迫観念を抱かなくて済む仕立てなのだ。エンジンレイアウトを変更し、速く走ろうと思えばさらなる境地へと連れて行ってくれるだけの実力を持ちながら、どこかゆるくて寛容。アメリカ車ならではの独特の世界が、最新のコルベットには健在だった。もちろん「こいつをコルベットと呼べ」と言われれば、躊躇なくYES!である。
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- TEXT :
- 佐藤篤司 自動車ライター