長らく続いた日常生活におけるさまざまな制約が減りつつある昨今。急速に活動性を回復する中で、リモートワークに慣れてつい忘れがちな他者への意識、またはより新鮮な気持ちで行動するための契機として、香りを選ぶことは重要だ。それは自身にとってだけでなく、親しい人へのギフトとしても有効だろう。
インドの街を表現した、多元的な香り
インディー&ニッチフレグランスムーブメントの嚆矢として、世界的に高い評価を得た「BYREDO(バレード)」。近年ではメイクアッププロダクトやボディケア、スモールレザーグッズやアイウエアなども展開し、総合的なラグジュアリーブランドへと進化している。
『バレード』の創設者であり、現在クリエイティブ・ディレクターを務めるベン・ゴーラム氏。スウェーデン人で、ストックホルムのアートスクールでファインアートを学んだ彼は、同国出身のパフューマー、ピエール・ヴルフ氏と出会い、アートから香水の世界へと大きく舵を切った。そしてゴーラム氏31歳の時に、オリヴィア・ジャコベッティ氏とジェローム・エピネット氏という世界的にも知られるパフューマーの助力を得て、『バレード』をスタートしたのだった。
そんな『バレード』が10月に発表した新しい香り「Mumbai Noise(ムンバイ ノイズ)」。これはインド人の母とカナダ人の父との間に生まれたゴーラム氏にとって、幼い頃の記憶と繋がっているという。
『私は生まれてすぐにインドに渡り、ムンバイのチェンバーに住む祖母のもとでよく過ごしました。 祖母が亡くなった後、 20代になってから再訪したのですが、そのときの記憶はとても鮮明です。 今日では見違えるような光景が広がっていましたが、それでもとても親しみを感じ、Mumbai Noiseでは、 この体感を表現したいと思いました。つまり、過去の記憶に裏打ちされた現在の都市の探求です。』
「ムンバイ ノイズ」のプレスリリースには、こうしたゴーラム氏のコメントが寄せられていた。トップノートはフルーティな香りのインドのハーブ「ダバナ」、ミドルノートは甘みを感じさせるトンカビーンズやコーヒー、ベースノートは深みあるラブダナム、サンダルウッド(白檀)、アガーウッド(沈香)と、その要素を挙げただけでも多元性が伝わるだろう。甘さと苦み、エレガントとストリート、東洋と西洋、対照的な感性が入り混じったこの香りは、インドの街の豊かさやエネルギーを表現したものという。甘美さが際立つものの、単に女性向けともいえない、複雑な印象が魅力だ。
さらに「ムンバイ ノイズ」のキャンペーンヴィジュアルは、インド北部、ヒマラヤ山麓の町デラドゥーン出身の写真家、アシシュ・シャー氏がムンバイを訪れ、その街の人々を撮影した写真で構成されている。それらはゴーラム氏の記憶や感覚と、現代のインドの状況をリンクさせた表現とフォトグラファーはコメントしている。
抹茶の経験を香りで表現すると?
また、同じくこの10月には、フランス香水産業の中心地でもあるグラースを源流とする「LE LABO(ル ラボ)」からも新しい香り「THÉ MATCHA 26(マッチャ26)」が発売されている。2006年に創業し、メイド・トゥ・オーダー(MTO)で香りを調合する形式で人気を博した「ル ラボ」。現在もニューヨークや東京(代官山)、京都などのショップでMTOのサービスを行う一方、独自に調合されたさまざまな香りも提案されている。
「マッチャ 26」は、その名の通り「抹茶」から着想された香りで、「26」という数字が示す構成要素の中には抹茶も含まれている。ただ、実際は甘みあるフィグ(いちじく)の香りがまず感じられ、その後シダーウッドやビターオレンジが嗅覚を捉える。
それは抹茶そのものというよりは、ティーセレモニーの落ち着きと清浄感、そして静謐な華やかさを連想させるもの、といえるだろう。そして、かつて「ROSE 31」で、ユニセックスなバラの香りを提案した「ル ラボ」。今回の「マッチャ 26」もまた、性差を超越して親しめる香りになっている。
※価格はすべて税込です。
問い合わせ先
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
Faceboook へのリンク
Twitter へのリンク
- EDIT&WRITING :
- 菅原幸裕