みなさんは身の回りの人を「ほめて」いますか? いざ、ほめようとすると、なかなか難しいと感じる人が多いのではないでしょうか。「自分は人をほめるのは苦手だから……」と敬遠してしまう人が少なくないようです。

しかし、「正しいほめ方」を身につけることができれば、部下や子どもの成長を促すことができ、会社の業績・学校の成績が向上する。そして、良好な人間関係を築けるようになり、自分自身の心を穏やかにすることができます。そのような効果があるものであれば、ちょっとチャレンジしてみたくなりますよね。

もちろん、闇雲にほめても効果はありません。ましてや、良かれと思ってかけた言葉が、実は逆効果だった…となってしまうこともあるのです。そんなNGなほめ言葉とポイントについて、『結果を引き出す 大人のほめ言葉』の著者であり、一般社団法人日本ほめる達人協会理事長の、西村貴好さんに教えていただきました。

■1:「ネックレスが素敵ですね」

ネックレスだけ?
ネックレスだけ?

自分の持ち物をほめてもらうのは、自分のセンスのよさが認められたようで、どこか誇らしい気持ちになります。それに、「しっかりと自分を見てくれている」と感じることができて、うれしいものですよね。

自分が言われてうれしいことは、相手にもしてあげることが基本。そこで、身につけている小物、普段使用しているカバンなどをほめてみよう……と思った矢先に、落とし穴が。実は、上記の「ネックレスが素敵ですね」という言い方は、相手を不快にさせてしまうことがあるのだとか。

その理由は、ズバリ言われた側が「素敵なのはネックレスだけなの?」と感じてしまうからです。例えば「今日のネックレスも素敵ですね」とちょっと言い換えることで、いつも自分を見てくれていること、その中でも特に素敵であることが伝えられます。

さらに西村さんは「NGワードであっても一言付け加えるだけで、OKワードに変わることも覚えておいてほしい」とのこと。例えば「センスがいいですね」「よくお似合いです」など、選んだあなたが素敵、という気持ちが伝えられたら完璧ですね。

さらに「〇〇さんが言ってましたよ」と第三者がほめていたことを伝える。あるいは「私は~と思うんです」と自分の主観であることを伝えるのも効果的なのだそうです。

■2:「若いっていいよね」

自分がかつて持っていた、若さ。そんな若さを持っている年下の人に対して、つい使ってしまうフレーズではないでしょうか。この言葉は若者への羨ましいという気持ち、若さあふれる貴重な時間を有意義に過ごしてほしいという、ちょっとした老婆心からのもの。つまり、相手を不快にさせようとしているわけではありません。

しかし、人はカテゴライズされるのを嫌う生き物。自分が未熟であることを、暗に指摘されていると捉える人も。それでは、年下の人、部下や後輩へどのような声かけが効果的なのでしょうか。例えば「エネルギーにあふれているよね」「発想がフレッシュだよね」といった前向きな声かけをしてみるとよいそうです。

このような相手の雰囲気をほめることが、「場」の雰囲気を明るく、楽しいものにしてくれます。話しやすい、仕事がしやすい環境づくりのために使わない手はないですね。

また、女性に対して「お若いですね」とほめる場合には、気をつけたほうがいいと言う西村さん。

「『お若いですね』と言っている時点で、その人のことを本当に若いと思っていない。もし、そう思っていなくても、そのような印象を与えてしまいます。これは気をつけなければいけませんね。相手がお子さんがいらっしゃる女性の場合、この言い換えとして『とてもお子さんがいるように見えないですね』とほめてみるのがいいでしょう。どちらも若々しいということをほめていますが、受ける印象が違いますよね」(西村さん)

■3:「勉強になります」

何が勉強になった?
何が勉強になった?

仕事をしていれば、ミスをすることもあります。そして、ミスをしたことで上司から厳しい指摘をもらうことも。そんな指摘は身になるアドバイスも多いですし、厳しい指摘はあなたへの期待の裏返し。そのため、「怒られた」とイライラするのではなく、「指摘をしてくれてありがたい」と思いたいもの。

そんな上司の期待に応えるためにも、「すみませんでした」とただ謝るだけでは不十分。上司の期待に応えるという気概を見せたいものです。そんな時、つい口にしてしまうNGワードが「勉強になります」という一言。一見、問題ないフレーズのように感じますが、「何が勉強になったのか」「ミスした箇所をどのように改善するのか」が伝わりません。

「具体的に何が勉強になったのかを伝えることができれば、『勉強になります』というフレーズはNGになりません。ほめるときには、事実を伝えるようにすることが基本ですね」と西村さん。

さらに「〇〇さんが言ってましたよ」と第三者がほめていたことを伝える。あるいは「私は~と思うんです」と、自分の主観であることを伝えるのも効果的なのだとか。

■4:「〇〇さん、字はきれいだよね」

ここまで読んでいただいた方の中には、「部下や子どもをほめたいのは山々だけど、どこをほめていいかわからない……」と思う方がいるかもしれません。そんなときは「すごいことをほめる」から、「普通のことを認めてあげる」というマインドに切り替えてみましょう。普段は見逃してしまうことも、よく見てみれば、よいところがたくさんあるはずです。

しかし、せっかく見つけたいいポイントも、これまで同様、言い方ひとつで台なしに。例えば、部下がつくった資料に目を通していたら、雑な箇所はあるけれども、字はきれいであることを発見。そんな時「〇〇さん、字はきれいだよね」と悪気をなく言ってしまうと、逆効果に。細かな部分ですが、「字もきれいだよね」と言い換えれば、「ほかもよくできているけれども、特によい」というニュアンスで相手に伝えることができます。

そして「認めてあげる」という観点から、西村さんからワンポイントアドバイス。「子どもに対しては『頑張れ』じゃなくて、『頑張ってるね』と声をかけてあげるのがいいです」とのこと。今の姿をしっかりほめてあげれば、次も頑張ろうと自然に思えるはず。ちなみに旦那さんには「頑張り過ぎないでね」と声をかけてあげるといいそうです。

■5:「いつもおいしそうなもの食べてらっしゃいますよね」

いつも?
いつも?

SNSが普及し、利用している人が多くなったこともあり、個人名を検索すれば本人のオフィシャルな生活やプライベートな生活も知ることができるようになりました。例えば、仕事で初めて会う人の名前や所属がわかっていれば、事前にどのような仕事をしているのか、どのような人物なのかを理解してから会うことができます。

少しでもその人のことを知っていれば、初対面の人でもわずかながら安心できますし、SNSの情報を会話に盛り込むことも可能です。共通の話題があれば、一気に距離が縮まる可能性も。

しかし、そんなSNS隆盛の時代であるからこそ、守らなければならない一線は常に考えなければいけません。あまりにもパーソナルな部分に踏み込んで話をしてしまうと「何か探られている」と相手が不快に感じてしまうこともあります。その一例が、上記の「いつもおいしそうなものを食べてらっしゃいますね」。話題にするのは出身地や出身大学、スポーツ歴など、共通の話題で盛り上がれるものに限ったほうがよさそうです。

「SNSをプライベートで使っている人の中には、自分がやっていることを見せびらかしたい人もいるでしょう。そういう人は詳細にほめてあげても大丈夫です。友達同士、ビジネス関係かによっても言うべきか、言わぬべきか判断してください」(西村さん)

またSNSの記事に対する投稿は、ほめる練習にも使えるそうです。是非とも有効活用したいですね。

■6:「さすがプロですね」

プログラマーや伝統工芸品を生み出す職人さん、料理人といったプロフェッショナルな仕事をしている方々。普段、彼らは社外の人と接点を持つことがないため、直接、自分の仕事をほめられることが少ない人でもあります。そんな時に、精一杯ほめて、日ごろの感謝や敬意を伝えたいものです。

そこで「さすがプロですね」という言葉は要注意。こちらも、あまり問題ないように見えますが、「当たり前だ。素人と比較するの?」と受け取られてしまうかもしれません。そのため、もっと相手の自尊心に配慮した言い方が好ましいでしょう。例えば、「素人の私には思いもしない発想です!」など、自分が相手に抱いている信頼が伝わるフレーズがより、心に響くはずです。

また西村さんは目上・年上の人に対しても、意外なほめ言葉を使って敬意を伝えることができると言います。それは相手に質問するということ。

「イメージはヒーローインタビューです。ヒーローインタビューは、質問の形をとった称賛。これを意識することで、質問をして相手へのリスペクトを伝えることができるんですよ」(西村さん)

最後に、人をほめるためのコツを西村さんに聞いてみました。「本心でないことは言わない、ほめて相手を動かそうとしないことが大切です。ほめ言葉は相手のためにもなりますが、自分の心が整う効果もあります」とのこと。

心に余裕がない人は、人のいい部分に目はいかないもの。自分の心の余裕を持つためにも、まずは身近な家族・同僚のよいところを探してほめて、伝えてみませんか?

PROFILE
西村貴好(にしむら たかよし)さん
一般社団法人日本ほめる達人協会理事長。5年連続年間200回以上の講演・セミナーを続けており、NHKをはじめテレビ出演多数。『ほめる生き方』(マガジン社)など著書多数。
『結果を引き出す 大人のほめ言葉』西村貴好・著 同文舘出版刊
この記事の執筆者
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WRITING :
冴島友貴