ベルギーワッフル、生チョコ、マカロン、パンケーキ……、現代まで連綿と続く「スイーツブーム」。その流行の変遷をたどっていくと、実はティラミスにたどり着くことをご存知でしょうか?
コンビニやスーパーのスイーツコーナーで見かけない日はないというくらい身近になったデザート「ティラミス」。マスカルポーネチーズのやわらかな甘みに、エスプレッソの染み込んだスポンジ、ほろ苦いココアが一体となり、甘いものがお好きでない方でも食べられる大人のスイーツの代表格です。
今回は、そんなティラミスがここまで日本に定着するようになった理由を紐解いていきます。
■バブル景気時のティラミスブーム。火付け役は女性誌だった
ティラミスが日本中を席巻したのは、遡ること今から約27年前の1990年。その当時、世の中はバブル景気の真っ只中でした。若者たちは日夜グルメを探し求め、なかでもイタリア料理は「イタメシ」と呼ばれるほどに流行していました。そこでデザートとして用意されていたのがティラミスだったのです。
イタメシ屋の定番デザート・ティラミスの流行に拍車をかけたのが、マガジンハウス刊行の雑誌『Hanako』。その1990年4月12日号特集記事に取り上げられたティラミスですが、見出しには「イタリアン・デザートの新しい女王、ティラミスの緊急大情報 今都会的な女性は、おいしいティラミスを食べさせる店すべてを知らなければならない」と書かれ、当時の女性たちの関心を集めていたことがうかがえます。
■ティラミスを幅広い層に届けた影の立役者はあのファミレスチェーン
雑誌という一大メディアの後押しもあり若い女性から注目を浴びたティラミスでしたが、さらに子供からお年寄りまで幅広い層に愛されるようになったヒットの要因にはファミリーレストランの存在がありました。
数ある大手ファミレスチェーンのなかでも、いち早くティラミスを取り入れたのが「デニーズ」。運営会社セブン&アイ・フードシステムズの販売促進部・宮本奈津子さんに伺ったところ、デニーズの初代ティラミス提供が始まったのは、ブームより4年早い1986年だったそうです。
さらに意外なことに、1986 年から販売した初代ティラミスは、現在親しまれているティラミスとは異なっていたそう。
「初代はスポンジケーキをアイスコーヒーに浸し、バニラアイス、カスタードソースを合わせ、 オレンジリキュールで風味をつけたものでした」(宮本さん)
下記がデニーズ初代のティラミス。確かに現在の層状のティラミスとは異なり、どちらかといえばパフェやサンデーを思い浮かべます。
そして、ブームが起こった1990 年。この年の5月に販売スタートしたのが、現在の形に近いティラミスでした。当時のメニューに「卵黄を混ぜた泡のような口あたりの生クリームチーズとエスプレッソに浸したスポンジを重ね、イタリアで親しまれているケーキ。」とあるとおり、より本場に近い形のティラミスが提供されるようになったのです。
「ティラミス導入のきっかけは、当時の開発担当者が航空会社のキャビンアテンダントさんから『イタリアで流行っている』と聞きつけたことにあります。専門店でしか味わえなかったデザートを、より多くのお客様にお召し上がりいただきたいという思いから販売に至りました。また、'80年代、'90年代は、 単体のデザート『ティラミス』として販売していましたが、そのおいしさをさらに引き立てるよう、他の素材と組み合わせて仕立てたり、“ティラミス風味”として味のバリエーションを展開したり、今も進化を遂げています」と宮本さん。
老若男女が集うファミリーレストランは、スイーツの流行と定着の影の立役者だったのですね。
■ティラミスは「ちょっとセクシー」なスイーツ?!
イタリア生まれのティラミスを日本語に訳すと、「私を引っ張り上げて」「私を元気にして」。その意味は様々に解釈できますが、スポンジに染み込ませたエスプレッソで目を覚まし、夜の街に繰り出す若者たちの姿も思い浮かんできますね。夜の高揚感を表現したちょっとセクシーな雰囲気を持つスイーツと言えるのかもしれません。
以上、バブルの好景気に加えて、「イタメシ」「女性誌」「ファミレス」の3要素の相乗効果もあり日本全国でブームになったティラミスを紐解いてきました。ブームから27年後の今も私たちの舌を楽しませてくれているこのスイーツ。
ぜひ、お近くのコンビニやケーキ店で購入するか、「イタメシ屋」で注文してみてくださいね!
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- COOPERATION :
- セブン&アイ・フードシステムズ
- EDIT&WRITING :
- 青山 梓(東京通信社)