私たちの生活からスポーツがなくなったら……どんなに味気ない世のなかになるだろう。ことはクルマでもおなじ。スポーツカーがあるから、クルマは魅力的な存在であり続けるのではないか。
スバルが基本的な開発を担当し、トヨタ(トヨタ・ガズーレーシング)とともに作りあげた「スバルBRZ」と「トヨタGR86」の新型に接して、スポーツカーの楽しさを再確認することができた。
磨き上げられたスポーツカー・フィーリング
BRZとハチロクは、2012年に登場し、素性のいい後輪駆動の運動性能ととともに、比較的こなれた価格で、広い年齢層のクルマ好きの支持を集めてきた。
2021年夏から秋にかけて発表された(BRZは7月、GR86は10月)新型は、アルミニウムを多用した軽量ボディ、剛性をあげつつ応答性のいいシャシー、排気量が上がってトルクアップしたエンジン、反応が向上したオートマチックトランスミッションなど、期待される性能を多方面で磨きあげたとされる。
エンジンは、スバルが担当。水平対向4気筒という形式は踏襲しつつ、従来の2リッターにかわり2.4リッターへと排気量を拡大した。「徹底した吸排気性能の強化とフリクション低減によって、トルクを向上。レスポンスも早く、滑らかに高回転まで吹け上がるスポーツカーらしいフィーリング」が謳われる。
新型はそれぞれの個性がより明確になった
乗ると、じっさいに気持ちのいい仕上がりだ。ひとことで言って、無理をしているところがいっさいない印象。7000rpmで173kW(235ps)の最高出力をだす高回転型エンジンは、回せば回すほどパワーを出すフィールがまさにスポーツカー。
最大トルクは250Nmと、排気量からすると控えめだけれど、あえてターボチャージャーを採用していない自然吸気式へのこだわりも、私を含めてクルマ好きの心をくすぐる。
高回転型のエンジンなので、6段マニュアル変速機がとくに相性がいい。もちろんレスポンスがあがったオートマチック変速機も悪くないものの、ギアを2速で固定して6000rpmまで引っ張り、そこから3速へ、とあげていくようなドライブは、まさにマニュアル変速機の醍醐味だ。
シフトフィールはかちっかちっと節度があるし、ギアとギアの感覚も長すぎず、また(ミスシフトを防ぐためだろうか)短すぎない。ちょっと慣れれば、エンジン回転を合わせながら、すぱっとダウンシフトが決められるようになるはず。
スバルBRZと、トヨタGR86とは、かつては双子の姉妹だったものの、新型になって、いってみれば従姉妹のように違いが生まれた。トヨタが、リアサスペンションを自社開発したからだ。
はたして、GR86は、ステアリングホイールを切り込んだとき、間髪入れずにというかんじで、車体が反応して、ノーズがコーナーの内側を向いていくようだ。それに対して、BRZの動きはもうすこしゆるやか。じわっと車体がロールする、安定感の高い印象である。
SUBARUは、「ピュアスポーツカーならではの走りを最大限に愉しめるよう、安心・安全という付加価値にも磨きをかけました」とする。私が開発者に確認したときは、上の言葉の後半部分、安心して走れるのが同社のクルマづくりの核だと強調していたのが記憶に強く残っている。
ただし足まわりはスポーツカーらしくしっかり締め上げられているので、不整路面だと突き上げが大きい。BMWやアルファロメオぐらいのしなやかさがあると、長距離もがんがん使えるグランドツアラー的なキャラクターになるだろう。でも、やっぱりBRZとGR86はスポーツカーなのだと、私は思い直すことにした。
18インチ仕様はタイヤもこだわっている
18インチ径ホイールを履いた仕様(BRZは「S」。GR86は「RZ」)だと、タイヤも凝っている。グリップの高さで定評あるミシュラン製パイロットスポーツ4を履いているのだ。これも嬉しくなる点。ロードノイズはあいにく大きくなるが、さきの乗り心地とおなじで、こういうクルマに乗るのはスポーツを楽しむことと思えば、受け入れられると私は思う。
価格は、スバルBRZが「S」の308万円から、今回試乗した「R」が326万7000円から。トヨタGR86はオーナーがアフターマーケットのチューニングパーツを組み込める「RC」が279万9000円、「SZ」が303万6000円から、やはり今回乗った「RZ」が334万9000円からだ。
標準モデルと上級モデルとの差はそれほど大きくなく、タイヤのサイズと銘柄、シートヒーターの有無、そしてオーディオ用スピーカーの数など。
問い合わせ先
- スバル TEL:0120‐052215
- トヨタ TEL:0800-700-7700
- TEXT :
- 小川フミオ ライフスタイルジャーナリスト