2022年、気になる!「食」のキーワード|食の“今”と“未来”を、食に携わるプロが考察!

「食」の世界は今、大きな変化に直面している
 

大切な人と集い、語らい、おいしい食事とお酒を楽しむ。あるいは、ひとりでゆっくり、心地いい空間で温かい食事を味わう。当たり前だと思っていたそんな時間や場所が、どれだけ大切なものだったのか。

レストランをはじめとする飲食店の存在、ステイホームが続くなか、自宅でどう食事を楽しむか、SDGs的視点から知る食資源の未来など、「食べる」ということについて、改めて考えてみた方も多かったのではないでしょうか。

今、「食」の世界は、大きな変化に直面しています。そこで、食の仕事に関わるプロの方5名に、2022年の「食」にまつわるキーワードをお聞きしました。五者五様の観点で語られる食の“今”と“未来”のお話には、厳しい現実と向き合う、「食」に携わるあらゆる方への深い愛情とリスペクト、応援のメッセージが込められているような気がしました。少しずつ、おいしい時間、楽しい空間を取り戻しつつある今こそ、「食べること」について、一緒に考えてみませんか。

今回は『dancyu』編集長である植野広生さんのキーワード、「常連、行きつけ、ひとりメシ」をお送りします。

植野広生さんの写真
 
植野 広生さん
『dancyu』編集長
(うえの こうせい)1962年生まれ。栃木県出身。大学時代から多数の飲食店でアルバイトを経験。卒業後、新聞記者、経済誌の編集担当を経て、2001年にプレジデント社ヘ入社。2017年より『dancyu』編集長に就任。趣味は料理と音楽。テレビやラジオなど多方面で活躍中。

常連、行きつけ、ひとりメシ~『dancyu』編集長・植野 広生さん

「あの店のあの味が食べたい」

そう思っても、営業自粛や時短営業などで、自由に飲み食いできない不自由さを、いやというほど味わったこの2年。本来の外食の楽しさやありがたさを実感した人は多かったのではないでしょうか。

それは、我々客側だけでなく、お店側も同じだったようで、営業ができないことによる生活や将来の不安だけでなく、料理をつくれない・お客さんに会えないことへの寂しさを痛感したと聞きました。

通常営業できないことは、お客側も店側も、これまで飲食店という場所で何を共有していたのか、これから何を大切にしなくてはいけないのかを、改めて考え合う機会になった気がしています。

つまり、お店とお客の関係が変わりつつある。

2022年はその変化がもっと濃くなり、加速するのではないかと思います。

料理店でひとり食事を楽しむ男性のイラスト
 

コロナ禍以前は、“情報バブル”が進んだこともあり、予約がとれない店や、“対価”として不当に高い店であっても話題になる店が人気を博し、ちょっとお祭り的な雰囲気があったように思います。そういう店は話題にはなるけれど、一部の人しか参加できません。そんなブームによるお店とお客の関係性にも少し違和感を抱いていました。

コロナ禍を経て、家にいる時間が長くなり、ふと「あぁ、恋しいなぁ」と思い出す店は、誰かの評価や世間の評判、点数や星の数などではなく、“自分にとって”本当に大切な、なくなってほしくない存在のお店だということに多くの人が気づきました。

有名だから、人気だから、予約がとれないから行ってみようではなくて、大切な人と、あるいは自分ひとりで訪れ、しみじみと居心地がよく、心底うまいなぁと感じる店。溢れかえる情報にまどわされることなく、自分の物差しで見て、自分にとって本当に“いい店”とは何か。

お店側にとっては本当の意味での“常連さん”、我々にとっては真の“行きつけ”が、お互いを大切に思い、切磋琢磨する。その間柄こそ本来の店と客の関係性であって、いい意味で、飲食店はシンプルに原点へ戻るような気がしています。また、店と客のそんなまっとうな関係性において、“ひとりメシ”や“ひとり飲み”は、より進化していくと思います。まぁ、僕自身がひとりメシ&ひとり飲みを愛してやまない、というのがありますが(笑)。

「星付きレストランもいいけれど、本当の“行きつけ”をもっているほうが素敵です」(植野広生さん)

しばらくは、席数を制限するとか、席と席との間隔をあけるとか、密を避ける行動様式は変わらないと思うし、むしろそれがニューノーマルになるなら、ひとりメシは最強です。

大勢で大皿料理がどんどん出てくるのとは違って、ひとりメシ・ひとり飲みは、食べたいものを食べたいタイミングで、食べたい量だけを注文できる。あったかいものはあったかい状態でおいしく味わえて、当然、残すこともありません。自分のペースで料理やお酒とじっくり向き合い、店主と会話を楽しんでもいいし、ひとり静かに過ごしてもいい。非常に健全です。

そして、こんなふうに店と客が高め合う好循環は、世の中の食いしん坊たちにとって、このうえなく幸せなことだと思うんです。

ILLUSTRATION :
Adrian Hogan
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)