2022年、気になる!「食」のキーワード|食の“今”と“未来”を、食に携わるプロが考察!
大切な人と集い、語らい、おいしい食事とお酒を楽しむ。あるいは、ひとりでゆっくり、心地いい空間で温かい食事を味わう。当たり前だと思っていたそんな時間や場所が、どれだけ大切なものだったのか。
レストランをはじめとする飲食店の存在、ステイホームが続くなか、自宅でどう食事を楽しむか、SDGs的視点から知る食資源の未来など、「食べる」ということについて、改めて考えてみた方も多かったのではないでしょうか。
今、「食」の世界は、大きな変化に直面しています。そこで、食の仕事に関わるプロの方5名に、2022年の「食」にまつわるキーワードをお聞きしました。五者五様の観点で語られる食の“今”と“未来”のお話には、厳しい現実と向き合う、「食」に携わるあらゆる方への深い愛情とリスペクト、応援のメッセージが込められているような気がしました。少しずつ、おいしい時間、楽しい空間を取り戻しつつある今こそ、「食べること」について、一緒に考えてみませんか。
今回は、コラムニスト・「世界ベストレストラン50」チェアマンである中村孝則さんに「リベンジ・ガストロノミー」をキーワードにお話しいただきました。
リベンジ・ガストロノミー ~ 中村孝則さん
世界中のレストランから、たった50軒だけが選ばれる「世界のベストレストラン50」。評価対象は、地球上すべてのレストランです(笑)。
26の国と地域にいる1040人が投票してランキングを決定します。投票者はシェフやレストラン関係者、ジャーナリスト、食通が1/3ずつ。
審査基準は「ジャンル、国を問わず、あなたにとってのベストレストランとは?」というシンプルなもの。とはいえ、評価ポイントは、味はもちろん、コンセプト、ホスピタリティ、内装、シェフの個性、アート性など、多岐にわたります。
世界中どこでも、エリアを限定しない代わりに、投票者は1年半の間に実際に足を運んだ店のなかから選ばなければいけません。最低でも年間で五大陸は巡っている方で、しかもノーギャラ、自腹という投票者たち。食に対する飽くなき探究心と使命感、プライドがなければ、続けられない仕組みです。だからこそ、2002年の創立以来、「レストランシーンの“最旬”が反映されている」と、年々注目度が高まっているアワードなんです。
コロナ禍の影響で“その場に足を運ぶ”ということができなかった時期を経て、2021年10月、2年3か月ぶりにようやく、ベルギー・アントワープで授賞式が開催されました。
チェアマンとして僕も参加しましたが、「世界はもう、動きだしている!」ことを痛感しました。もちろん、感染症対策はしっかりしたうえで、シェフとフーディも皆、やっぱり、旅や好奇心の原動力は“美食”であり“レストラン”だと確信しています。
ステイホームが続き、「日常に疲れてしまった」人々のムードをぶち破るには、不謹慎といわれるかもしれないけれど、ゴージャスでギラギラ、驚くほど大きな箱やスケール感、ド派手な演出でワクワクするようなライブ感、気持ちが晴れやかになる「非日常的な空間」としてのレストランが、今、求められていると肌で感じました。
だから、2022年のキーワードは、“リベンジ・ガストロノミー”としました。
「ファッション、アート、建築。レストランがトレンドを牽引する場所に返り咲きます」(中村孝則さん)
今こそ、レストランが、美食の世界が、人々をワクワクさせ、元気づけるとき。シェフや食の関係者からは、そんなポジティブな気概と使命感を感じたんです。
実際、2021年春にリニューアルした小林圭シェフ率いるパリの三つ星レストラン「レストラン ケイ」は、クリスタルと大理石、ガラスをふんだんに使った、キラキラと輝く華やかな内装に生まれ変わりました。時代に逆行しているという意見もあったようですが、ゲストが最も華やかに見えるよう計算し尽くされた演出だというシェフの話に、超、納得。
今や、レストランは美食シーンだけでなく、ファッション、アート、建築、エンターテインメントなど、あらゆるトレンドを牽引する場所です。同時に、多様性を受け入れ、幸せや喜び、感動をシェアする場所でもあります。なにより、ゲストがとびっきりおしゃれをして、ハレの空間で、非日常を味わい、楽しむ場所。
そんな使命感に燃えたガストロノミーおよびレストランのリベンジに、今からワクワクしています。
- ILLUSTRATION :
- Adrian Hogan
- EDIT&WRITING :
- 田中美保、古里典子(Precious)