スーパースポーツカーにも電動化の波は確実に押し寄せている。これは、地球温暖化を防止する観点からCO2排出量の削減が求められているためで、今後5年以内にスーパースポーツカーの大半はプラグイン・ハイブリッドになると予想されている。

これにいち早く対応したのがフェラーリだった。2019年にはSF90ストラダーレを発表。これまでフェラーリでもっともパフォーマンスの高いモデルはV12エンジン搭載車と決まっていたが、SF90ではこの禁を破り、V8エンジンとプラグイン・ハイブリッドシステムを組み合わせたロードカーがフェラーリ史上、初めて性能面で頂点に君臨することになった。そして昨年、マラネロは296GTBをリリース。V6エンジンとプラグイン・ハイブリッドシステムを組み合わせたこのモデルは、誇り高き“跳ね馬”の紋章がV6モデルに与えられた初のフェラーリ・ロードカーとなった。

先ごろ、私はスペイン・アンダルシア地方で開催されたフェラーリ296GTBの国際試乗会に参加し、サーキットとワインディングロードでその走りを堪能してきたので、ここでご紹介しよう。

重量のある電動システム搭載でも軽快感は随一

リアフェンダー手前の丸いエアインテークが、1960年代の名作250LMをほうふつさせる。その後ろの力強く盛り上がったリアフェンダー、そしてテールエンドが上向きに跳ね上がったダックテール形状なども250LMを思い起こさせる。
リアフェンダー手前の丸いエアインテークが、1960年代の名作250LMをほうふつさせる。その後ろの力強く盛り上がったリアフェンダー、そしてテールエンドが上向きに跳ね上がったダックテール形状なども250LMを思い起こさせる。
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昔作っていたV6エンジン搭載の206GTBや246GTBは、「ディーノ」ブランドで販売されていた。 ただし、レーシングカーはこのルール外で、F1やスポーツカーレーシングにV6エンジン搭載モデルはあった。V6エンジン搭載のロードカーが「フェラーリ」ブランド」で販売されるのは初となる。
昔作っていたV6エンジン搭載の206GTBや246GTBは、「ディーノ」ブランドで販売されていた。ただし、レーシングカーはこのルール外で、F1やスポーツカーレーシングにV6エンジン搭載モデルはあった。V6エンジン搭載のロードカーが「フェラーリ」ブランド」で販売されるのは初となる。
こちらのモデルはサーキットで試乗。アセット・フィオラーノというパッケージオプションを装着し、タイヤもサーキット専用のミシュラン・パイロット・スポーツ・カップ2 Rを装着(赤い外装の標準車はミシュラン・パイロット・スポーツ4Sを装着)。
こちらのモデルはサーキットで試乗。アセット・フィオラーノというパッケージオプションを装着し、タイヤもサーキット専用のミシュラン・パイロット・スポーツ・カップ2Rを装着(赤い外装の標準車はミシュラン・パイロット・スポーツ4Sを装着)。

排気量3リッターのV6ツインターボエンジンを搭載する296GTBは、ハイブリッドシステムの助けを借りて最高出力830psを絞り出す。これは4リッターV8ツインターボエンジンを積んでいたF8トリブートを110psも上回る数値。しかし、サーキットで全開走行を試みても扱いにくさは微塵も感じさせず、1周目から自信を持ってコーナーを攻めることができた。これはアクセル操作に対してパワートレインが的確に反応してくれるためだが、それとともにクルマが不安定な姿勢に陥るのを未然に防ぐ電子制御システムが極めて優秀なことも理由のひとつ。

試しに、エンジン出力を制御するトラクションコントロールをオフにしたところ、それまでは安定しきっていた低速コーナーでいきなり後輪が滑り出し、830psのパワーを私はまざまざと思い知らされることとなった。ただし、トラクションコントロールなどのシステムを動作させている限り、危険な状態にはまず陥らないはずなので、ご安心いただきたい。

続いて走ったワインディングロードでは、俊敏に反応するハンドリングにより次から次にやってくるコーナーをリズミカルにクリアすることができた。これはホイールベース(前後輪の間隔)を従来型より50mm短縮した恩恵。しかも、新開発のV6エンジンの発するサウンドは、従来型のV8よりもむしろ滑らかなうえに耳障りがよく、私の知る限り、ターボ系フェラーリ・エンジンのなかではもっとも美しい音色に思われた。

ステアリングやペダル類の操作力も軽く、これが走りの一層の軽快さに結びついていた296GTB。一般的に重いとされるプラグイン・ハイブリッドシステムを搭載していても、ここまで軽やかなドライビング・フィールを実現していることに、電動化時代に向けたフェラーリの本気を見たような気がした。

デジタルインターフェイスを取り入れた、最新世代のコクピット。
デジタルインターフェイスを取り入れた、最新世代のコクピット。
サーキットで試乗する大谷氏。公道はサーキット周辺の一般道やワインディングロードで試乗。交通量も少なく、見通しもよく、道幅も広かったので思いっきり走れたとか。
サーキットで試乗する大谷氏。公道はサーキット周辺の一般道やワインディングロードで試乗。交通量も少なく、見通しもよく、道幅も広かったので思いっきり走れたとか。
カーボンとレザーを使ったシートさえ美しいのがフェラーリ。
カーボンとレザーを使ったシートさえ美しいのがフェラーリだ。
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フェラーリ

この記事の執筆者
自動車専門誌で長らく編集業務に携わったのち、独立。ハイパフォーマンスカーを始め、国内外の注目モデルのステアリングをいち早く握り、わかりやすい言葉で解説する。