いい服はいい。だからこそ、着続けている。もちろん何着も袖を通しては失敗し、現在の「スタイルめいたもの」にたどり着いた感はある。「男の定番」的文言に滅法弱い我々のことだ。冒険する機会も減少気味である。これは、発信側の自戒も込めつつも。それでも進化は必要だ。
今までのベーシックを改めて見直す
きっかけは、とある撮影の場。スタイリストが用意してくれた服について、仔細な説明がなされる。それは、雑誌メンズプレシャスでは見かけないブランドだった。いい服だった。着心地やデザインにいたるまで。はたと振り返る。これまで「定番」「ベーシック」という言葉に縛られて見落としてきたものはなかっただろうか。
ベーシックを見直そう。必要なのは、これまでの伝統や実績ではない。今、ここで、思いの込められた服作りがなされているかどうかだ。
軽さの表現が様々なレザーブルゾン
スエードやヌバックのスポーティなレザーブルゾンは爽やかな装いをしたい時に、うってつけのアイテムだ。色・素材・デザインで、軽快な印象を表現した一着を手にしていただきたい。
■1:ゆとりのあるシルエットが若々しい雰囲気を演出
フランス製のベジタブルタンニンレザーを使用した「ビズビム」のブルゾン。高級感のある柔らかな手触りが最大の魅力だが、加えて今の気分にマッチするゆとりあるシルエットや、アワードジャケットのようなデザインから漂うラフなイメージにも注目したい。つまり、大人らしさと若々しさが同居したレザーブルゾンだということ。インナーにはリネンのプルオーバーシャツをチョイスし、落ち着いた品のよさを演出したい。
■2:王道スエードブルゾンの新しい楽しみ方
柔らかさと軽さを誇るゴートスエードのブルゾンを得意とするイタリアブランド「ルッフォ」の新作。王道のデザインだが、フロントジッパーの開き具合で印象に新味を出すこともできる。上まで締めれば精悍に、大きく開ければ抜け感を出せる。ブルゾンとは逆にインナーのニットポロのボタンは上まできっちり留めることで、メリハリのきいた胸元に仕上がる。スラックス的デザインのパンツは、スエードと相性のいいデニム素材だ。
■3:レザーパーカで新しいアスレチックスタイルを
パーカやジャージーパンツ、ランニングシューズを用いたアスレチックな着こなしは今や休日の定番だ。そんなスタイルを上質なレザーブルゾンで表現したのがこちら。主役はシャツのように柔らかいヤギ革で仕立てたフード付きブルゾン。手掛けたのは、ラグジュアリーかつスポーティなレザーアウターで知られるイタリアブランド「エンメティ」である。発色のいいブルーを生かすために、色使いは極力抑えてコーディネート。
■4:Gジャン的デザインでカジュアル感をプラス
柔らかく上質なスエードを用いながらも、馴染み深いトラッカージャケット=Gジャンライクなデザインに仕立てた「エンメティ」のブルゾン。カジュアルさと大人らしさが見事に融合している。インナーにはハイネックの半袖ニットを、ボトムスは2タックパンツを。上半身はすっきりと、逆に下半身はやや太めのシルエットにして、適度な対比をきかせるとバランスがいい。
ネイビージャケットを味方にし、スタイルの変化を楽しむ
定義されたフォーマットにさえ則れば、シルエットや素材の大きな変化やディテールの小さな変化を受け止めてくれる。それがネイビージャケットだ。普通のスタイリングでも様になるが、時には冒険する心も必要だ。
■5:着て、見て、この紺ジャケットが長く愛される理由がわかる
「食わず嫌い」こそ、最大の悪である。プリーツでお馴染みのブランドだが、着て納得とはこのこと。ビジュアルのためのデザインではないことがよくわかる。ポリエステルの編み生地がもたらすストレッチ性と軽量感が心地よく、プリーツと相まって自然と美しいシルエットを形成。ブランドの定番と聞くが、なるほど、長く愛されている理由がわかる。
■6:端正な佇まいのダブルブレステッド
日本人のもつ奥深くて、はかり知れない美を追求する、2019年にローンチした「ユーゲン」による一着。デザイナー小山雅人氏が佇まいを大事にし、豊富なドレス知識を武器に日本人に似合うよう素材・パターン・縫製にこだわる。数奇者たちが集う名店「レショップ」別注というダブルブレストのジャケットは、ボタンを留めても外してもキマる絶妙なさじ加減のシルエット。今ならボタンを外して、ばさっと羽織るような感覚で着こなしたい。
■7:袖を通すと実感する細部のアップデート
定番として語られることの多いイタリアンブランドも進化を繰り返している。「ラルディーニ」のジャケットは、季節素材のシアサッカーを1色使いにして、遠目に無地、近づくとシボの凹凸がわかる奥ゆかしい仕立て。パッドや副資材、見返しの構成も簡略化している。カーゴパンツとシルクスカーフを投入し、嫌味のない色気を演出。
■8:トラッドの王道こそ進化を繰り返す
メジャーブランドの小さな変化もまた、進化への一歩だ。アメリカントラッドの代名詞的存在である「ブルックス ブラザーズ」の、ブランドを象徴するボクシーな3Bというプロトコルはそのままに、パッドや副資材を薄くした非構築的なモデル「ブルックスクラウド」の仕立て。また、オーストラリア産の上質ウール、ミラクルクリンプにより軽やかさが増幅。ブルーグラデがいっそう爽やかに見える。
上品な着こなしは、上品に見えるデニムを合わせる
デニムパンツはカジュアルの基本。ゆえにその点検こそが、ベーシックを進化させる正攻法にしていちばんの近道だ。装いのエレガンスを高めるための手練手管をここで紹介する。
■9:馴染みの顔ぶれではなくニューフェイスに期待して
目の肥えた大人のデニム好きが、絶賛するのは「トリプル ダブル」。デニムパンツを熟知したマイスターが日本人のためにデザイン&パターンを引き、生産はビッグメゾンも信頼する岡山の工場が担当。写真のスリムストレート型はスラックス作りのノウハウを用いており、ジャケットやシャツとも好相性。風合いはヴィンテージライクにして、伸縮性にも優れはき心地は良好だ。
■10:クリーンな印象を作るホワイトデニムパンツの力
5ポケットパンツの永遠のスタンダードである『501』も、インディゴではなくホワイトデニムパンツを選ぶことで断然クリーンな雰囲気へと様変わり。若い頃に親しんだそれとは違い、リニューアルを経た現行モデルはグッと洗練されたシルエットへと生まれ変わっている。トップス&足元にはネイビーやブラックといったダークトーンを合わせてメリハリを。デニムパンツのラフなイメージはきっとこれで覆るはずだ。
■11:スラックス感覚で遊び心あるデザインを
ブルーデニムパンツなら色落ちタイプではなく、リジッドやワンウォッシュといった濃紺をセレクトするのが大人っぽさをキープする秘訣だ。着用したのは、ヴィンテージのセーラーパンツの仕様を取り入れた玄人好みなデザイン。スタイリッシュなシルエットに加え、センタークリースや両脇のスラッシュポケットなど大人見えするディテールがてんこ盛り。上半身は淡いニットとシャツを重ね着することで、こなれ感を演出した。
■12:ブラックデニムパンツのモードな薫りを生かして
モードな装いを好む向きには、スリムフィットのブラックデニムパンツを推薦したい。ありたがいことに近頃はストレッチのきいたタイプが主流ゆえ、細身のモデルでもストレスなく取り入れられる。さらにこちらはウォッシュ加工が施されており、いっそうソフトなはき心地だ。ほかのアイテムでも黒を多用してつなぐことで、モードなフレイバーが漂う装いに仕上がる。
クラシックとモダンが行き交う新時代のスラックス
ルーズシルエットの台頭によりがぜん注目を浴びるボトムスといえば、タック入りのスラックスが最有力。新時代のためのクラシカルなスラックスを紹介する。
■13:クラシックを徹底して今改めて新しいムードに
ベルトレス、インタック、長い持ち出しというクラシックなディテールをもつ「ラルフ ローレン パープル レーベル」のスラックス。独特のタンカラーもどこか懐かしい雰囲気を感じさせる。そんないい意味での古さを尊重して裾丈は短め、ダブルの折り返し幅もやや広めに設定。リネン素材のダブルのジャケットを羽織り、インナーのプルオーバーシャツはタックイン。今改めて新鮮な印象のコーディネートの完成だ。
■14:シルエットの妙と独特の色で個性を発揮
ボリュームのあるワタリから裾にかけてテーパードする、緩急のきいたシルエットがおもしろい。細番手のトロピカルウールを使いクラシックな顔つきに仕上げているが、タック入りのスラックスとしては珍しいオリーブカラー。となればやはり、この色を生かしたコーディネートに挑戦すべき。スエード素材の茶のシャツジャケットに金茶のニットポロを合わせた、大人らしい色使いだ。
■15:素材が生み出す美しいドレープ
レーヨンとリネンを混紡したベージュカラーのスラックス。フランスが誇るパンツ専業ブランド「ベルナールザンス」が手掛けたものだ。その魅力はもちろん生地の質感にある。美しいドレープとシワ感をアピールするためアウターは羽織らず、シャツはタックインがおすすめ。ボトムスのリラックスした雰囲気に合わせて、シャツのボタンを大きく開けるのもいい。
■16:ワードローブに迎えたい洒脱なテラコッタ色
ブランド名を刷新し、イタリアを代表するパンツブランドとしてさらに人気を高めている「ピーティー トリノ」のスラックス。コットンとリネンを混紡した、さらりとした感触と軽さに秀でた生地を使用する。定番色よりも洒脱に見えるテラコッタ色のスラックスは季節によって合わせる服の色を変えるとその存在感が生きてくる。例えば秋冬にはネイビーやダークグリーンなど濃い色のものを。一方春夏は写真のように、白やベージュといった淡い色を合わせるといい。
モードの中にある永遠の定番 極めて現代的なシャツの実力
立ち止まることなく、次代への創造を続けるモードファッション。ベーシックとは相容れぬ、ともすると刹那的なその世界でたどり着いた永遠の定番シャツ。その格好よさは1枚だけで様になるというものだ。
■17:変わらぬことが何よりも高い完成度の証
「コム デ ギャルソン・シャツ」は、その名のとおり、シャツをメインにしたフランス生産のトータルブランドだ。2008年にスタートした『フォーエバー』ラインは、継続して展開される定番シャツだけで構成される。全部で6 型あるモデルの中で、コットンポプリンで仕立てた写真のタイプは広い身幅の「ワイドクラシック」。ゆったりした着用感が、ジャストフィットのそれにはない、大人のための美しいシャツのあり方を伝えている。
レイドバックな感覚で着る最高品質のカシミヤニット
素材の品質が高いニットほど、肩の力を抜いて着たい。優しくて柔らかいカシミヤ製であればなおさらであろう。このレイドバックな感覚こそ、本質的で今日的であるからだ。
■18:特級素材とLAの気風が丁寧に編み込まれている
2007年に設立されたカリフォニア発のラグジュアリーライフスタイルブランド「ジ エルダー ステイツマン」。看板商品は、紡績や染色からLAの自社工場で作り込まれる最高品質のカシミアニットだ。極上の肌触り、ざっくり編みの豊かな表情や程よくゆったりとしたフィット感など、クラシカルなハイゲージニットにはないエフォートレスな魅力がある。そこにはウエストコーストのレイドバックなムードが漂うのだ。
穏やかな春の陽気になびく、男のための外套
コートは一義的には防寒着だが、その面積からシルエットや佇まいに影響を及ぼす。新感覚をもたらすコートは、そのあり様が熟慮されており、動的な要素にエレガンスの真髄を秘める。
■19:コットンギャバを活用した絶対的Aライン
トレンチコートの原型ともいわれるボタンレスコートが基となる『コットンギャバ タイロッケンコート』。時代に左右されない服作りを旨とするブランドの再解釈により導き出されたAラインは、クラシカルでありながら現代的。朴訥とした佇まいには普遍的な美観さえ感じる。インナーとパンツはシンプルに。コートの味付けだけでスタイルが決まりそうだ。
■20:2Bダブルブレストの新たな発見
ダブルブレストのコートと聞くと重厚だと思いが ちだが、さにあらず。合わせの生地量が多いぶん だけ、ボタンを外したときに広がりを見せるのだ。 留めずにキマるパターンと、横に並ぶ2 Bがなせ る業。広がりを収束させるようなテーパードパン ツもポイントだ。シャリ感のあるポリコットンが 見せる光沢あるグリーンに合わせて、渋みのある カラーコーディネートで仕上げた。
■21:わかる人にわかるという“違い”
ゆったり感こそ今風だが、デザインはまさにベーシックなバルマカーンコート。それでもコレを推す理由。それは、袖を通した人がわかる「おさまりのよさ」にある。裁断士を意味するブランド名のとおり、立体的なラグランスリーブの卓越したパターンが勘所。目に留まらない点であっても、いいものはいい。ここを認めるのもベーシックを進化させる鍵なのだ。
■22:ドレープが揺れるニットコートの妙
ソフトコートと呼ばれるその名のとおり、イタリア製ウォッシュドウールニットで仕立てたロング丈コート。布帛に比べると多少のずっしり感こそあるが、その質感ゆえに生まれるドレープは優雅な印象そのもの。ユニセックス展開というのもうなずける。着こなしは動的効果を生かすべくシンプルに、またコートを主役に全身が調和する色使いがおすすめ。ナチュラルブラウンのリネンシャツ程度に濃淡をつけて。
ドレスとカジュアルの境界を自由に往来する新たな革靴の流儀
スーツにはストレートチップを、デニムにはブーツを。間違いではないが、固定観念にとらわれるのはもったいない。もっと自由に革靴を楽しむのが新時代の流儀だ。
■23:大定番ローファーの履き心地をアップデート
1950年の発売以来、そのシンプルなデザインであらゆる世代に支持されている「ジョンロブ」のローファー『ロペス』。何も変える必要のない大定番モデルのひとつだが、こんなライトウェイトウォーキングソールを装着したタイプをご存じか。軽量で歩きやすく、一度足を入れたら虜になる。スーツにはもちろん、デニムとの相性も抜群なのだ。
■24:頼もしく、美しいサイドゴアブーツの実力
『シグニチャーローファー』『ゴルフ』など、世界中で愛され続ける名作を擁する「ジェイエムウエストン」。今回は『サイドゴアブーツ #705』に光を当てる。アッパーのレザーは縫い目のない一枚仕立て。甲から履き口にかけてのクリースラインは卓越した職人の手により形作られる。スーツに色気を添え、カジュアルに洗練を与える頼もしい逸品だ。
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2022年春夏号より
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- PHOTO :
- 金谷章平
- STYLIST :
- 菊池陽之介
- HAIR MAKE :
- 竹井 温(&'s management)
- MODEL :
- Calvin城、Soche
- WRITING :
- 髙村将司、加瀬友重、いくら直幸
- EDIT :
- 安部 毅(MEN'S Precious)