「不徳の致すところ」というフレーズは、失敗や不都合に対する謝罪や反省の意を強く表するための言葉です。政治家の不祥事や芸能人のスキャンダルなどが起こった際に、謝罪会見の映像で見聞きした人も多いのではないでしょうか。では実際のビジネスの場では、どんなとき、どのように使われる言葉なのでしょうか。言い換え表現などもご紹介します。
【目次】
【「不徳の致すところ」を徹底分析】
■「不徳」の「意味」
『デジタル大辞泉』によれば、「徳」とは【精神の修養によってその身に得たすぐれた品性。人徳】。「不徳」は、文字通り、【身に徳の備わっていないこと】。そのほか、【人の行うべき道に反すること。また、そのさま。不道徳】といった意味もあります。つまり「不徳」は、「人の道に背いた行動の総称」と言うこともできます。
■「不徳の致すところ」を簡単に説明すると?
「不徳の致(いた)すところ」とは、「失敗や不都合が起こったとき、その原因は自分が至らなかったことにある」として、反省の意を表する際に使われる慣用句です。迷惑を被った関係者に謝罪するときに使われます。
「致すところ」は、「する」の謙譲語「致す」と、「ところ」から成る言葉です。「致す」は「引き起こす」という意味の動詞。「ところ」は「事柄」を意味する名詞で、「内容」「場面」などを指します。つまり「致すところ」=「引き起こしてしまった事柄」となります。
ポイントは、失敗の直接的な原因が謝罪している人自身にはなく、部下や教え子にあった場合にも、このフレーズが使われること。自分が監督・指導の立場にあったにもかかわらず、監督力不足・指導力不足のために不都合が生じてしまい、申し訳なかったという気持ちを表現するときにも使われます。
【ビジネスでそのまま使える「例文」3選】
「不徳の致すところ」は、書き言葉としてメールや手紙に記すことはもちろん、口頭でも使用できる言葉です。文語的でかしこまった表現のため、自分よりも立場が上の人に謝罪をする際にも使えます。「責任者」の立場で謝罪する場合には幅広く使える言葉です。
ただし、「不徳の致すところです」だけでは、「失敗の原因は私です」と表明しているにすぎず、謝罪していることにはなりません。必ず「申し訳ございません」など、謝罪の言葉と共に使うことが基本です。
■1:「今回の件につきましては、当社の不徳の致すところでございます。改めてお詫び申し上げます」
■2:「このたびは、わたくしの不徳の致すところで多大なご迷惑をおかけいたしました。大変申し訳ございません」
■3:「議題になっておりますトラブルは、弊社の不徳の致すところでございます。二度とこのようなことがないようフローの見直しを行い、改善に努めます」
【「不徳」の「類語」は?】
■不義 ■不正 ■悪徳 ■不道徳
「不徳」そのものの類語としては、【人として守るべき道にはずれること。また、その行い】を意味する「不義」や、【道徳にそむいた悪い行い、または、悪い心】を意味する「悪徳」などがあります。いずれも「不徳」と言い換えるには直接的で強すぎる言葉で、そもそも「不徳の致すところ」は慣用句であるため、これらの言葉を「〜の致すところ」としては使用しません。
【「不徳の致すところ」を言い換えると?】
「不徳の致すところ」は、自分の品性や人徳が欠けていたために引き起こした失敗や不都合に対して使う言葉であり、それなりに深刻な事態に対して使われます。
そのため、日常的なちょっとしたミスに関するお詫びとして使うには大げさすぎて、かえって反省の意が伝わりにくくなってしまいます。また、誰がどう判断しても「自分が悪い」と明確にわかるトラブルについて使用すると、白々しい他人事めいた言い訳に聞こえてしまう可能性もあります。ミスの程度に合わせて正しい表現を選びましょう。
■「(私の・当社の)せいで」
ややカジュアルな印象で、口頭での謝罪に適した言葉です。ビジネスシーンで使えるのは、親しい関係の上司や同僚・部下に対して。社外の方に対しては適切ではありません。
■「(私の・当社の)責任で」
「不徳の致すところ」ほど大袈裟な表現でなく、「私のせいで」ほどフランクな表現ではないため、幅広いシーンで使用できる無難なフレーズです。
■「不徳の極み」
「極み」とは、【物事の行きつくところ。極限】を指します。ですから「不徳の極み」は「不徳の致すところ」よりもさらに強い反省の意を表した言葉となります。
***
「不徳の致すところ」は、自分が原因で生じたミスや失敗について謝罪する際に使う慣用句です。自分の「品性や人徳」に関わるような謝罪ですから、日常的なミスに使うべき言葉ではありません。この点をしっかり認識していないと、心からの謝罪も単なるパフォーマンスと捉えられてしまい、誠意が伝わりません。謝罪の言葉は、その責任の重さにふさわしい言葉を選び、心からの反省を伝えましょう。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂) :