2014年にスタートした、パリ発のシューズブランド「SOLOVIÈRE(ソロヴィエール)」。中でもアッパーに一枚革を使い、甲部分を紐で一箇所締めただけのシンプルなデザインのモデル「MATTHIEU(マシュー)」は、現代のライフスタイルに合ったシック&イージーな靴のマスターピースとして、広く支持されている。昨年11月、トゥモローランドの丸の内店と京都店で開催されたパターンオーダー会のために来日したソロヴィエールのデザイナー、Alexia Aubert(アレクシア・オーベール)さんに、斬新なものづくりの裏側にあるデザイン哲学などについて、お話を伺った。
全く新しく、クラシックとして残る靴をつくりたい
──ブランドがスタートしてもう何シーズンが経過していますが、当初と比べて、変わったところはありますか?
「私は自分のつくる靴を、あまり変えたいと思っていません。クラシックとして残っていく靴をつくりたかったし、常にそれを心がけています。ただ改良はしなければいけないと思うので、細部に色々と変化を加えています。履くとわかると思いますが、当初の頃の靴と、今のモデルでは、中底のクッション性が全然違います。以前のものは少し硬いフィーリングだったので、より柔らかに、それでいて型崩れしにくい素材を選んでいます。
あとアウトソール(本底)のつくりに関しては。次の春夏のコレクションから、従来のセメンテッド製法からブレイク製法に変えています。ファクトリーで古いブレイクマシンを見つけたので、それで縫っています。ソールの薄さが重要なので、その点は留意しながら」
──製法の変化は大きいですね。
「そうですね、試しにつくってみて、なかなか良く仕上がったので採用しました。ちなみにマシューは最初から同じファクトリーでつくられています。イタリア・トスカーナにある小さなファクトリー。家族経営で、3兄弟が中心で、あとはその母親と、犬がいて(笑)。10人も働いていないんじゃないかしら。スニーカーソールのモデルはポルトガルの大きなファクトリーでつくっているのですが、マシューなどのモデルに関しては、私たちがイメージするテイストに仕上げるために、このトスカーナのファクトリーが必須なんです」
──ある靴職人が、マシューはシンプルな構造ゆえに、靴としてしっかりつくりすぎてもダメだし、といって柔らかすぎてもいい雰囲気には仕上がらない、絶妙なバランスだと言っていました。
「マシューは靴ではありますが、洋服みたいなところがあります。この質感を生み出すために、通常の靴づくりのような革を引っ張ったりする力仕事ではなく、出来上がったものをイメージする感性がないと、うまくいかないかもしれません」
──紳士靴の世界では、「シワ」を嫌う傾向がありますが、マシューほかソロヴィエールの靴には最初からシワがあります。靴にシワを入れるというアイデアは、どのように着想したのでしょうか。
「もともと、この靴をつくる上で、アッパーのステッチや切り返しを極力なくしたかったのです。紳士靴らしいローファーやダービー、ブーツなどをつくりたいわけではなくて、何か全く違った新しいものを生み出したかった。そのためにどうするか、スリッパ状のものなど、いろいろと考え、何度も試しにつくってみてこのデザインにたどり着きました。シワをどうするかは、実はあまり考えたわけではありません」
──そうして完成したマシューの次のモデル、次なる展開を考えるのはなかなか大変そうですね。
「このマシューはブランドのアイコンでもあります。そして、ここから派生したサテライトモデルという形で今後は展開していきたいですね。それはワンピースのアッパーという基本形を生かしていくということです。例えば次の春夏では、丸めて旅行に持っていけるようなやわらかいソールの、ポニー革のモデルを展開しています。あと、パリも含め相変わらずスニーカーが人気ですが、もうちょっと違ったオケージョンに向けた靴、例えばビジネスやフォーマルなシーンで使える靴も考えたいですね。それと、ウィメンズがスタートしたばかりなので、力を入れていきたい。ウィメンズはメンズとはまた違った考え方が必要なので」
──東京と京都でのパターンオーダー会では、多くの方とお会いになったと思いますが、日本の男性や女性の着こなしについてはどのような印象をお持ちですか。
「今朝もある男性のお客さまが来て、まずアッパーの革の色を決め、合わせるソールをどうしようかとご自身でしっかり選んでいました。例えばパリの男性の場合は、どちらかというとあるものをお買い求めいただく感じで、なかなか想像はしてくれません。日本の男性、女性もそうですが、皆それぞれの頭の中でイメージしてくださるので、デザイナーに近いなと思いました。そしてご自身のスタイルを持っています。
あと、通常は女性のファッションが男性より進んでいるといわれますが、私の印象では、日本の場合はむしろ逆で、男性のファッションから吸収するものがたくさんある、そちらのほうが時代を先取りしているかもしれないと思うことがありましたね」
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- TEXT :
- 菅原幸裕 編集者
- PHOTO :
- 太田隆生