多彩なジャンルや業態の飲食店が無数に存在し、世界的に見てもエキサイティングな東京のフードシーン。そのなかでも、この連載ではニューオープンを中心に「今」行きたい、大切な「人」を連れていきたい、“大人のためのレストラン”にフォーカス。今回は2017年9月29日にオープンした赤坂の「アーティザンテーブル・ディーン&デルーカ」をご紹介します。

アニバーサリーを記念してついにレストランが誕生

NYに誕生して昨年で40周年、今年は日本上陸15周年を迎える「ディーン&デルーカ」。世界中から選りすぐった上質なフードがそろう食のセレクトショップです。イートインスペースをもつマーケットストアからカフェまで、日本国内に現在30以上の店舗を展開する「ディーン&デルーカ」が、本国と日本のアニバーサリーにあたってオープンしたのが「アーティザンテーブル・ディーン&デルーカ」。グループ初のレストランにして、唯一の物販を行わない新業態。場所も同時にオープンした複合型施設「赤坂インターシティAIR」内と、新たな場所から始まる新たな試みです。

緑化率(敷地面積に対する緑化施設の面積)が50%超と、都心にあって緑が豊かな「赤坂インターシティ AIR」に構えた店舗は、四季の移ろいを体感できるガラス張りのメゾネットタイプ。まず注目すべき点は、1階と2階で異なったスタイルをとっていること。1階は「ディーン&デルーカ」らしい、気の合う仲間たちと大皿をシェアして食事するようなイメージ。店頭でも人気のシャルキュトリーやチーズ、旬の食材をいかした料理をアラカルトで楽しむことができます。

1階はテーブル席に加え、キッチンに隣接したバーカウンター、カウンターテーブルも用意。バーには旬の食材を使ったシーズナルのオリジナルカクテル(¥1,400〜)もラインナップ。目の前に小川が流れ、桜が植栽されたテラス席は、暖かい季節が訪れたらプレミアムシートになりそうな予感。
1階はテーブル席に加え、キッチンに隣接したバーカウンター、カウンターテーブルも用意。バーには旬の食材を使ったシーズナルのオリジナルカクテル(¥1,400〜)もラインナップ。目の前に小川が流れ、桜が植栽されたテラス席は、暖かい季節が訪れたらプレミアムシートになりそうな予感。

2階は10品のコースメニューのみ。二十四節気にもとづいて2週間に1度メニューを更新する“旬を味わう”コースです。ハウスシェフとともに、「ディーン&デルーカの」各店を支えるシェフが3か月ごとに交代でメニューを考案するというのも大きな特徴。さらに、料理は1品ずつ店舗中央に位置するシェフズカウンターで仕上げるスタイル。「ディーン&デルーカ」のシェフたちにとっても大きな刺激や挑戦となる、新たな形のファインダイニングといえます。

2階でひときわ目を引く、大きなシェフズカウンター。シェフがゲストの前で料理を仕上げます。オープンキッチンともシェフズテーブルとも違う、静謐なライブ感はここにしかない魅力。
2階でひときわ目を引く、大きなシェフズカウンター。シェフがゲストの前で料理を仕上げます。オープンキッチンともシェフズテーブルとも違う、静謐なライブ感はここにしかない魅力。

「つくり手」と「食べ手」を最良のタイミングで繋げる料理

1階も2階も、料理に共通するのは「ディーン&デルーカ」が「アーティザン」と呼ぶさまざまなつくり手たちと、旬の食材に対する敬意。国内外のアーティザンによる優れた食材を、もっともベストなタイミングでメニューに仕立てます。なかでも、今回ご紹介するのは2階のコース。四季よりも細かな二十四節気にもとづいてメニューを構成するのは、そのときにしか味わうことができない繊細な旬のタイミングを逃さないため。10という品数は、ひと皿ずつ主役となる食材の味をしっかりと伝えるため。2週間ごとに変わる10品のコースは、シェフたちが旅のなかで出会った生産者、魅力を感じて訪ねた生産者など、「顔の見える」アーティザンたちがもたらす食材の魅力を最大限に活かすための周期と品数を探った結果なのでしょう。

大雪のメニューから、「平目/大根」。平目の昆布締めを紅くるり大根のマリネで包んで。添えたのは紅芯大根のすりおろしとラディッシュ、オリーブオイル。メニューには主役となる食材の名前がひとつかふたつ簡潔に書かれているだけ。自ずと意識もその食材に集中することになります。赤とのコントラストが美しい器は愛知・常滑で作陶する鶴見宗次さんによるもの。
大雪のメニューから、「平目/大根」。平目の昆布締めを紅くるり大根のマリネで包んで。添えたのは紅芯大根のすりおろしとラディッシュ、オリーブオイル。メニューには主役となる食材の名前がひとつかふたつ簡潔に書かれているだけ。自ずと意識もその食材に集中することになります。赤とのコントラストが美しい器は愛知・常滑で作陶する鶴見宗次さんによるもの。

取材時の二十四節気は大雪。霜柱や雪、氷が見られるようになるころ。冬の漁が盛んになり、熊も冬眠に入り美味とされるころです。今回のメニューを考案したのは、フレンチのキャリアをもつ「アーティザンテーブル・ディーン&デルーカ」ハウスシェフの秋山直宏さん。「コースは品数があるので、前菜からメイン料理という洋食の流れではなく、日本料理の献立になぞらえた構成を考えました。『平目/大根』は向付など前半に登場する料理を、『東京軍鶏/下仁田ネギ』は終盤、食事の前の料理をイメージしています。また、酒を楽しむために生まれた会席料理のように、酸味や塩の効かせ方など酒の肴になる味つけを意識しています」(秋山さん)。お酒はコースに合わせたワインペアリング(3杯¥3,000〜、4杯¥5,000)を用意しているほか、グラスやボトルのワイン、1階のドリンクメニューからオリジナルカクテルなどを注文することができます。

「旬の食材を味わうための料理なので、まずコースで使用するメインの食材を数点決めて、旬から膨らませたキーワードをいくつか考え、食材を組み合わせていきます。今回のメインは大根と軍鶏。大根は三浦大根を見に現地へ行ったのがきっかけです。生産者に話を伺って、大根にフォーカスした料理をつくりたくなったんです。そこに向付のイメージを重ねて、旬の平目になますを合わせるような感覚で3種類の大根を使った『平目/大根』が生まれました。軍鶏は、東京生まれの優れた食材をお客様に紹介したくて選んだ食材。都内で4軒の生産者がつくるブランド鶏『東京しゃも』を使っています」(秋山さん)。

大雪のメニューから「東京軍鶏/下仁田ネギ」。軍鶏のレタス蒸しに下仁田ネギのソースを合わせたもの。しゃりしゃり、コリコリとした軍鶏の食感をいかすため、繊維に沿って切ったさまざまな部位の肉をやわらかなレタスで巻いて。ソースはネギの甘みを引き出した緑、焦がして香ばしさを出した黒の2種類。器は富士山麓に工房を構える吉田直嗣さん作。
大雪のメニューから「東京軍鶏/下仁田ネギ」。軍鶏のレタス蒸しに下仁田ネギのソースを合わせたもの。しゃりしゃり、コリコリとした軍鶏の食感をいかすため、繊維に沿って切ったさまざまな部位の肉をやわらかなレタスで巻いて。ソースはネギの甘みを引き出した緑、焦がして香ばしさを出した黒の2種類。器は富士山麓に工房を構える吉田直嗣さん作。

メニューを考案する際に、軍鶏の生産者を訪ねたという秋山さん。「日本にはおいしいものがたくさんあります。この店では、そのなかでもつくり手との縁を大事にしていきたいですね。つくり手の思いやこだわりをお客様に届けて、逆にお客様の声や反応をつくり手に伝えて、双方を繋ぐことができたら。さらにはつくり手に『ディーン&デルーカ』が求めていることを伝えて、お互いに理解を深めて成長していけたら最高ですね」(秋山さん)。

「アーティザンテーブル」のオープン前は「ディーン&デルーカ」国内のフラッグシップストアとなる六本木店の料理長を務めていた秋山さん。今後は、3か月ごとに交代で着任する各店舗のシェフとともにこのレストランを創っていくとのこと。
「アーティザンテーブル」のオープン前は「ディーン&デルーカ」国内のフラッグシップストアとなる六本木店の料理長を務めていた秋山さん。今後は、3か月ごとに交代で着任する各店舗のシェフとともにこのレストランを創っていくとのこと。

「ディーン&デルーカ」だからこそできる、挑戦と実験

「つくり手と食べ手をつなげること」、「旬を味わうこと」に加えて「ディーン&デルーカ」が掲げる、「フードラボラトリーレストラン」というコンセプト。そこには、「新しい食の喜びを探求し、継続的に挑戦していく場」という意味が込められています。各店舗で腕を振るうシェフが3か月ごとにシーズナルシェフを務め、自分の経験とセンスをいかしてメニューを考案していくというユニークなスタイルこそ、大きな挑戦のひとつ。「フレンチやイタリアンなどジャンルやバックボーンを含め、シェフたちの個性もさまざま。今後はそれぞれのシェフの色が出た多彩なメニューが登場するでしょうね」(秋山さん)。今後、関西や九州のシェフが着任する可能性もあるかも……? これも全国に店舗をもつ「ディーン&デルーカ」ならではですよね。

多彩なアーティザンの器と出合えるのもこのレストランの魅力。六本木と福岡のマーケットストアで2年に1回大規模な器のエキシビションを行うなど、作家と密に関わりをもっている「ディーン&デルーカ」だからこそのラインナップです。

レストランで使用されている器たち。左上から時計回りに寒川義雄さん(白いボウル)、吉田直嗣さん(黒い小皿、その下の平皿)、「スエキ セラミックス」(クリーム色の大皿)、森山硝子店による「モリヤマ」(白い小皿)、鶴見宗次さん(黒い小皿)、「フレスコ」(ガラスの器)、小野象平さん(青い飯碗)、「スエキ セラミックス」(白い平皿)。気に入った器はつくり手を聞いてみるのも楽しいですね。
レストランで使用されている器たち。左上から時計回りに寒川義雄さん(白いボウル)、吉田直嗣さん(黒い小皿、その下の平皿)、「スエキ セラミックス」(クリーム色の大皿)、森山硝子店による「モリヤマ」(白い小皿)、鶴見宗次さん(黒い小皿)、「フレスコ」(ガラスの器)、小野象平さん(青い飯碗)、「スエキ セラミックス」(白い平皿)。気に入った器はつくり手を聞いてみるのも楽しいですね。

実験の場「ラボラトリー」として、今後はさらに立体的な取り組みも予定されているとか。2018年1月28日には、レストランでも器を愛用している作家、小野象平さんを招いたディナーイベントが開催されます(※満席のため、予約は締め切り済み)。作家を囲む会は他にもあるかもしれません。ここで驚くべきは、この日使用する器はすべてこのディナーのために小野さんが焼き上げたものだということ。作家を囲み、このためにつくられた器でこのためにつくられた旬の料理を味わう……。まさに、一期一会のひとときがこの場所に生まれます。

イベントとして、つくり手=アーティザンとの出会いの場をうむメーカーズディナーやシェフによるクッキングクラスも随時開催予定。料理だけでなく、体験、学び、すべての新しい出合いを生む場所が「アーティザンテーブル・ディーン&デルーカ」。「ラボラトリー」なので、1階や2階で生まれた料理やドリンク、好評を得た器が全国の店頭に並ぶこともあるかもしれません。好評を得たイベントやサービスが各店頭まで波及することもあるかもしれません。「何かが生まれる瞬間に立ち会っているかもしれない」……そんなワクワク感や楽しみも味わえる場所なのです。

「スタートしたばかりなので、完成形が見えるのはまだまだ先だと思っています。こちらも何が起こるか分からない楽しみがありますし、オープンから数か月の間でも、お客様が期待してくださっているという実感があります。その気持ちに応えていきたいですね」(秋山さん)。

食に関わるすべてのつくり手を「アーティザン」と呼ぶ「ディーン&デルーカ」。野菜や果物の生産者、漁師、畜産農家、料理人、チーズ生産者、ワインやビールの醸造家、器の作家など、そこにはさまざまな「アーティザン」が含まれます。店名に表されているように、「アーティザン」と直接的に、または間接的に出会うことができるのがこのお店。1階でわいわい楽しむもよし、2階でゆっくり特別なひとときを過ごすもよし。気分やメンバーに合わせて利用できるのも大きな魅力です。さあ、次はいつ、誰とこの暖かなテーブルを囲みましょうか。

2階奥には最大8名まで対応可能な個室も用意。1階、2階ともに貸し切り可能なので、プライベートダイニングや小規模なイベントなども相談することができます。
2階奥には最大8名まで対応可能な個室も用意。1階、2階ともに貸し切り可能なので、プライベートダイニングや小規模なイベントなども相談することができます。

問い合わせ先

  • アーティザンテーブル・ディーン&デルーカ 
  • 営業時間/17:30〜24:00(月曜〜土曜/料理22:30LO、ドリンク23:00LO)、
    17:30〜23:00(日曜、祝日/料理21:30LO、ドリンク22:00LO)
    ※2018年春より1Fはランチ営業スタート
    定休日/日曜(2018年3月より無休)
    1Fはアラカルトのみ、2Fはコース(10品)¥12,000〜のみ
    1Fは49席、2Fは34席。2Fに個室あり(2〜8名まで対応)
    TEL:03-4578-5882
    住所/東京都港区赤坂1-8-1 赤坂インターシティAIR1階

この記事の執筆者
早稲田大学卒業後、アシェット(現ハースト)婦人画報社に入社。『エル・ジャポン』、『エル・ガール』、「エル・オンライン」編集部を経て独立。現在はフリーランスのエディター、ライターとして紙/Webの両媒体を中心に、主にファッション、フード、ライフスタイルのジャンルで活動。セレクトショップ「ドローイングナンバーズ」ではワイン&フードのセレクトも担当。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
PHOTO :
竹之内祐幸
EDIT&WRITING :
門前直子