挨拶状やスピーチで使われる「ご鞭撻」という言葉。そのほとんどが「ご指導ご鞭撻」と、「ご指導」とのセットで使われているため、「ご鞭撻」単体の意味は曖昧になっている人は多いのではないでしょうか。「ご鞭撻」の漢字をよく見ると、「ムチ」という字が使われています。つまり元々は【むちで打ってこらしめること】という意味だったのです! ご存知でしたか? 今回は、知っているようで知らない「ご鞭撻」を解説します。

【目次】

ご指導・ご鞭撻ってどんな意味?
ご指導・ご鞭撻ってどんな意味?

【ご鞭撻の「鞭撻」とは? 「読み方」と「意味」】

■「読み方」

「ご鞭撻」は「ごべんたつ」と読みます。

■「意味」

「鞭撻」の「鞭」の訓読みは「むち」。馬などを打って走らせる【鞭(むち)】を指します。そして「撻」は【うちのめす。むちうって励ます】という意味の漢字です。つまり、「鞭撻」の意味は、【むちで打ってこらしめること】。ここから現在、使われているような、【努力するように励ますこと】という意味に転じました。ですから「ご鞭撻」は、どちらかといえばスパルタ式。「頑張りを見守る」というよりも、「努力を怠るな、との厳しい励まし」と解釈するのが適切な言葉です。


【ビジネスでそのまま使える「例文」4選】

■1:〈新任の際の挨拶として〉

「ご指導ご鞭撻いただきますよう、なにとぞよろしくお願いいたします」

■2:〈プロジェクトの成功を報告する会で挨拶として〉

「弊社がこのような成果を上げられたのもみなさまのご指導ご鞭撻の賜物でございます」

■3:〈新たに担当する取引先へのメールの文末に〉

「不慣れな点が多くご迷惑をおかけすることもあるかと存じますが、ご指導ご鞭撻いただけますと幸いです」

■4:〈披露宴など、大勢の人が集まる場でのスピーチに〉

「今後とも大いに努力してまいる所存です。どうぞご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます」


【「ご鞭撻」使用上の「注意点」】

■「ご鞭撻」が使える「相手」は?

「ご鞭撻」の「ご」は、行為の主体を立てる接頭語。敬語表現となりますので、目上の方に対して使える言葉です。上記例文のほか、「賜りますよう」「くださいますよう」などの敬語表現と共に使いましょう。また、自分への励ましだけでなく、部下や身内に対する励ましというニュアンスでも使われます。

ただし、指導や励ましを受けるのはあくまで目下の人間であり、たとえ身内であっても親や上司など目上の人間を対象には使いません。また、自分を主語にして使うこともありません。従って、「今後、私からご指導ご鞭撻させていただくこともあるかと存じますが、よろしくお願いいたします」といった使い方は誤りです。

■使えそうで「使えないシーン」は?

「ご鞭撻」は、「努力を怠るな、という厳しい励まし」を意味します。重々しい言葉ですから、これを使用するのにふさわしいのは、ある程度の期間を要する指導・助言をお願いするときです。その場ですぐに習得できるような知識やテクニック、今この場での具体的な意見や指摘が欲しいときに使うには、少々大げさ過ぎます。

<NG>「イベント当日のタイムスケジュールを作成いたしました。修正点がございましたら、ご指導ご鞭撻のほど、お願いいたします」

<OK>「イベント当日のタイムスケジュールを作成いたしました。修正点がございましたら、ご指摘いただけますようお願いいたします」

■別れの場面で使用することに違和感をもつ人も…

上記にて、「ご鞭撻」を使った〈プロジェクトの成功を報告する会で挨拶として〉:「弊社がこのような成果を上げられたのもみなさまのご指導ご鞭撻の賜物でございます」を挙げましたが、基本的に「ご指導ご鞭撻〜」のフレーズは、「今後ともお付き合いが続くこと」を前提に、「これからもよろしくお願いします」という気持ちを込めて使う言葉です。ですから、プロジェクトの成功など、「区切り」のシーンで使用することはありますが、転勤時や退職時などの別れのタイミングで「今後とも、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」あるいは「今までのご鞭撻に感謝いたします」と挨拶することに違和感をもつ人もいるようです。「『ご鞭撻』は、これからも関係が続く人に使う」と、覚えておくとよいでしょう。


【同じ意味で使える「言い換え」表現】

■ご教授

「教授」は「学問や技芸を教え授けること」。茶道や陶芸なども含め継続的に教えを受けるときに使われます。

■お導き 

「ご指導ご鞭撻」とほぼ同じ意味で、やわらかな印象に。指導をお願いするときや、指導に対するお礼など、幅広く使うことができます。

■ご指南

「指南」は、囲碁や将棋、剣道など、主に芸事や武芸などを教えることを指します。ビジネスでは専門的な技術やビジネスのノウハウなどに使われることもあるようです。

■ご教示

「教示」は、簡単な知識や方法、手順などに対して使う言葉です。ビジネスでは、作業工程の手順やスケジュールの確認などに使うのが適切です。

■励まし  ■お力添え  ■激励  ■ご助力

***

「ご鞭撻」は、目上の方に対しへりくだりながらも、相手に「いっそうの引き立てや支援、助言や指導をお願いしたい」という希望を丁寧に伝えられる表現です。つまり、「謙遜」と同時に「依頼」も含んだ便利な言葉でもあるのです。改まった言葉のため、軽々しくは使えませんが、いざというときに、上手に活用したいですね。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『大人なら知っておきたいモノの言い方サクッとノート』(永岡書店) :