「常に負荷をかけて挑みたい。見逃し三振するより、思いきり空振りするほうがいい」山下 智久さん
孤独な少年期 遠い世界に行きたかった
青年から大人の男性へと変わっていく、美しい時期だ。1年半ほど前、約四半世紀所属していた事務所から独立、ひとりで走り始めた。目標として抱き続けてきた海外の作品への出演も、この間、すでに4本を数える。
「多民族と多様な文化の中で、すごい荒波にもまれています」と語るその日々が、以前よりも大人の翳りを持つ、魅力的な表情に表れているようだ。
「慣れない土地で、ひとりで何か月も生活して、芝居もして……めちゃくちゃ大変です。日本の慣れ親しんだ環境にいれば、安心して仕事ができるけれど、海外ではまったくの無名俳優。でもどれだけつらくてもやり遂げたあとには、確実に心が強くなっている。出会ったクルーたちと心を通わせられた喜びも含めて、すべてが財産になっています」
驚くことに、20代前半から海外作品のオーディションを受け続けていたという。
「今(その時のビデオを)見返すと、ひどいものなんですけど(笑)。でも積み重ねる大切さということも学んできたと思っています」
今、機が熟した、ということだろうか。グローバルな活動に挑み続ける理由を尋ねると、穏やかながら真っ直ぐな目で答える。
「この仕事をしている限り、一人でも多くの人に届いてくれることを願いながら、やっていますし、どうやって世界中に届くシステム、環境をつくっているのかを勉強したい。学んだことを、いつかどこかの国の作品で還元できることもあるかもしれないですから」
もちろん国内の作品にも全力であたる。久々に出演したドラマ『正直不動産』(NHK)では、祟りで嘘がつけなくなってしまった、不動産会社の営業マンをコミカルに演じて、大きな話題に。新境地を開いたといわれる。
「約3年ぶりの現場でしたけど、作品との出合いってすべてご縁だと思っています。よいキャスト、スタッフに恵まれたことの感謝を噛みしめつつ、演じていました」
11歳で芸能界へ。
「遠い世界に行きたいという気持ち。それだけでした。その頃のいちばん遠い世界が、僕にとってはテレビの中だったんですよね」
“ここではないどこかへ”。その強烈な思いが起点となった。
「なんでしょう……相当、孤独な少年だったと思います。生まれながらの性質か、いろんなことに違和感があって納得できなくて、ハングリーで。自分と人生とがしっくりこないというのか、恐らくこれからもそうなんじゃないかな。現状に満足することがなくて」
常に「モチベーションを刺激してくれる環境が必要」と語り、それが表現世界に身を置く、原動力となっているようだ。なかなかデビューに至らなかった7年間のうちには、「このままではメシが食えないぞと不安になって」、大学進学を目標とし入学したというが、グループとしてデビュー後は華のある存在として、一躍、トップアイドルとなった。
だがそこに安住はせず、たえず自身に課題を突きつけ上を目指してきた。演技者としても「演出家に自分の意見を伝えることは、常に心がけてきました」と、芯がある。
とにかく、諦めない。しつこく粘る。すごくシンプルです
現状に甘んじず、常に負荷をかけて成長したい
「意外と頑固なところがあるんですよ。子供っぽく見えるかもしれませんが、上質なものを目指して、曲げられないところは曲げられない。妥協したくないんです。だから、周囲とぶつかったことも何度もあります。でもそれは変化の時というか、ある意味、成長のチャンスだと僕は捉えています。諦めないし、しつこく粘る。すごくシンプルです」
そう笑いながら「要は、本気ってことですかね」と、サラリと話す。まるで台詞のごときひと言も、山下が言うと嫌みがない。そして見えないところで、きっちりと努力を重ねる。たとえばトレーニング。「どんな状況でも闘える身体とメンタルを持っていたいから」と、徹底してプロフェッショナルだ。
だがこれまでには、「たくさんの挫折も経験してきました」と、来た道も隠さない。
「折れては立ち上がって、の繰り返しでした。でも、ものすごくしんどい、つらいことって忘れるようにできているんじゃないですか、人間って。痛みを全部覚えていたら、人生はあまりにも過酷ですし……」
この言葉に、繊細な感受性がみてとれる。
やがて代表作のひとつ、『コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』も生まれた。しかし「もっとできたはずだとイライラしそうで、過去の自分の作品は見返しません」と、こちらも潔い。退所に至った決意は、と尋ねた。
「護られた場所から飛び出すことに、怖さはつきものだと思います。けれど僕にとっては変化し続けることが重要でした。見逃し三振するより、思いきり空振りするほうがいい。知らない世界に飛び込んでいくことが大好きなんです。負荷をかけないと成長しないという姿勢は昔から、ブレていないというか。植物が土から芽を出す時、ものすごい力がいるでしょう。あれと同じですよね。もし芽が出なかったらそれまでだったというだけ。自分の環境もプラスだったと思います。今のところ、一人身ですし、身軽ですから」
走り出した今、着々と成果を出し続ける。
「先のことはわからない。来た道を戻ろうとも思いません。今できること、作品というパズルのピースのひとつとして役を全うする、歌は全力で歌う。積み重ねていくだけです」
真摯に、熱い魂を持って生きる彼を、年月がさらに磨いていくことだろう。
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- 取材・文 :
- 水田静子