2022年6月、「新型コロナウイルスの影響で停止していた外国人観光客の受け入れが再開されました。『インバウンド需要』の復活が期待されています」…という報道がありましたが、正しい意味を理解していますか? 「インバウンド」は観光業に関係する言葉としてよく知られていますが、実は一般のビジネスやITの世界でも使われている言葉です。今回は「インバウンド」について、例文と共に詳しく解説します。

【目次】

「インバウンド」は、2015年の流行語大賞にノミネートされた言葉。
「インバウンド」は、2015年の新語・流行語大賞にノミネートされた言葉。

【まずは「インバウンド」の「基礎知識」から】

■「意味」は?

「インバウンド」にはいくつかの意味がありますが、ざっくりいうと「外から中へ入ってくる」というニュアンスを含んだ言葉です。主に旅行・観光分野・航空業界で使われています。もともとは「外国人旅行者を自国へ誘致すること」を意味していましたが、現在では「外国人の訪日旅行や訪日旅行客」を指す言葉として普及しています。つまり、日本にとっての「インバウンド」は、「訪日旅行(者)」。また、旅行者によって日本国内で購買・消費されるモノやコトを「インバウンド消費」といいます。

一般的なビジネスシーンでは、顧客(外)が自発的に企業(中)に対して接触してくることを指します。例としては顧客の企業への来訪、顧客からの電話やメールなどです。

「コールセンターの受電業務」という意味もあります。

IT分野における「インバウンド」は、外部の情報が中に入ってくることを指します。具体的には、システムが外部からデータを受信すること。「インバウンド通信」とも表現します。メールの受信やサイトへの問い合わせなどもインバウンドのひとつです。反対に外部へのデータ送信のことをアウトバウンドといいます。

■「語源」

「インバウンド」の語源は[inbound]。【帰航の、復航の、本国行きの】【市内に向かう、上りの】などの意味を持っていますが、「外国からの観光客」などの意味は含まれていませんので注意しましょう。

■「対義語」となる「アウトバウンド」の意味とは

「アウトバウンド[outbound]」は「インバウンド」の逆、つまり「中から外へ出ていく」というニュアンスの言葉です。「海外に行く日本人旅行者」を指すことが多く、転じて、企業が勧誘・案内などの「電話を消費者(外)へかける業務」という意味もあります。


【分野で違う「使い方」がわかる「例文」6選】

■1:「課題は、新型コロナウィルスによって減少の一途をたどったインバウンドの改善だ」

旅行・観光業界を象徴した使用例です。

■2:「まずはインバウンドのメリット、デメリットを洗い出していきましょう」

旅行・観光業界および、一般的なビジネスシーンで使われます。

■3:「インバウンドマーケティングにはコンテンツの充実が必須です」

マーケティング業界ではこのように使われます。

■4:「わが社もインバウンドセールスに力を入れる時期がきたようだ」

消費者にとって有益な情報発信などをすることにより、見込み客から信用を得て、顧客側から自主的に商品を買ってもらえるよう誘導する手法を「インバウンドセールス」と呼びます。

■5:「特定のインバウンド通信を許可し、パスワードなどを設定します」

IT業界では、「外部からデータを受信すること」を指して「インバウンド」を使います。

■6:「コールセンターのインバウンド業務には、お客様の意図を即座に理解して応対する、コミュニケーション能力が必要だ」

コールセンターでは、顧客からかかってくる電話を受けることを「インバウンド」、コールセンターから顧客へかける電話を「アウトバウンド」と呼びます。


【「インバウンド」関連の知っておきたい用語】

■「インバウンドマーケティング」とは

企業が商品やサービスの情報をホームページやSNSで発信して、興味をもった顧客が自発的にアプローチしたくなる状態をつくること。企業の認知度を上げることにより「インバウンド」を促したり、訪日旅行客に自社のサービスなどを利用してもらったりすることを表します。

■「インバウンド需要」とは

日本から見た場合、「訪日外国人旅行客が生み出す需要」を指します。「インバウンド需要」の高まりは、日本経済に大きな影響を与えるため、各業界から注目を集めています。

■「インバウンド政策」とは

自国を訪れる外国人旅行者を増やすための政策のこと。

■「インバウンド商品」とは

インバウンド商品とは、外国人旅行者に向けた商品のことをいいます。例えば、旅行雑誌の『るるぶ』は、英語版はもちろん、中国語など、多言語で展開されているほか、音声付きの『はじめての英語かるた』(JTBパブリッシング)なども販売しています。

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「インバウンド」は2015年の新語・流行語大賞にノミネートされた言葉です。年間大賞は「爆買い」で、当時は外国人観光客、とりわけ中国人観光客の急激な増加が話題となっていました。日本が再びインバウンドを促進させ、観光産業復活の日は来るのでしょうか。今後、報道を正確に理解するためにも、「インバウンド」の正しい意味を把握しておきたいですね。

この記事の執筆者
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参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)/『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館)/『外来語新語辞典』(成美堂出版)/『イミダス』(集英社)/『現代用語の基礎知識』(自由国民社)/『「知ったかぶり」を解消する! ビジネス用語図鑑』(WAVE出版) :