普段、職場やビジネスの場において関わるのは、自分の上司や部下、そして取引先の人、同僚など。同僚との会話は気楽ですが、その他の人との会話は、気を遣いますし、仕事をうまく進めるためにも、関係を良好にして、よりスムーズにやりとりをしたいものですよね。
そこで今回は、『元ルイ・ヴィトンの販売実績No.1が伝える売上が伸びる話し方』の著者である鈴木比砂江さんに、仕事で役立つ「おもてなし会話術」をレクチャーしていただきます。
鈴木さんは、学生時代に働いていたマクドナルドで接客コンテスト全国1位、ルイ・ヴィトンで販売実績トップを取ったことのある異色の経歴の持ち主。ルイ・ヴィトンではなんと入社3年目に年間売上2億円を突破するという快挙を成し遂げています。
現在は「売れる接客」をレクチャーする活動を行っている鈴木さんに、その接客術に基づく会話術と、普段の仕事上における会話術を、自身の体験談と共に教えていただきました。
■なかなか言うことを聞いてくれない「部下」との会話術
まずは上司の立場として、自分の部下がなかなか自分の言うことを聞いてくれないという場合の会話術から。
●相手に関心を持つ
「重要なポイントは『相手に関心を持つ』ことです。言うことを聞いてもらえない感覚って、しんどいですよね。ここで少し、あなた自身のことについて振り返ってみてください。あなたはその部下のどんなことを知っていますか? その部下にはどんな素敵な面があるでしょうか?」
【事例】
「私が販売員の仕事で思うように売上が伸びなかった時期、他のお店に足を運び、接客をたくさん受けてみたんです。するとシンプルだけれど、とても大切なことに気づけました。それは、“私のことを知ろうとしてくれる人には、不思議と心を開いて、その後の商品説明を聞こう”と思ってしまうことです。お客様のことを知るための質問をしたり、お客様の話を楽しそうに熱心に聞いたりしていると、その後はお客様が熱心にスタッフの商品の話に身を乗り出すのです」
「この体験から、自分に関心を持ってくれることはうれしいことであり、その人への信頼が高まるものだと学びました」
●相手を知りに行く
「そして関心を持ったら“相手を知りに行く”ことが大切です。会話をする上での最高の“おもてなし”ではないでしょうか」
【事例】
「現在、私が行っている企業研修のお仕事も『これほどうちの会社を理解してくれる人はなかなかいない! お願いします』と依頼をいただくことが少なくありません。こちらが関心を持って話を聞いたり質問をしたりする。すると今度は相手もこちらに関心を持ってくれます」
「お客様だけではなく、部下に対しても同じです。『ここがダメ』『こうしてほしい』という思いをぐっと飲み込んで、まずはあなたから一歩近づいて、部下のことを今よりさらに知ってみようとしてはいかがでしょうか。それだけで、きっと今より部下が信頼してくれるようになり、今度はあなたの話を聞いてくれるようになるはずです」
■関係を良好にしたい「取引先」との会話術
取引先との関係をもう少しよくしたいと感じることはありませんか? そんな相手と関係を良好にするための会話術のひとつを、鈴木さんは次のように教えます。
●プライベートな話題で距離を縮める
「プライベートな話題は、取引先の人との距離を縮めたり、ふたりの間にある見えない壁を取っ払ってくれたりする効果があるのではないでしょうか」
【事例】
「私が企業研修のお問い合わせをいただいて、打ち合わせに行ったときのこと。40代前半に見える男性は話のテンポも速く、内心、私は理解しながらついていくのに精一杯。表情をピクリともせず、淡々とした雰囲気でお話をされていたので“壁を感じる方”と勝手にそう思っていました。
そして、最後に見送りをしていただく際、『お忙しそうですが、お休みはゆっくり休まれているんですか?』とエレベーターに向かう途中で聞いてみました。すると『釣りが好きで、休みのたびに早起きして行っているので、ゆっくりはしていないですねー』と話をしてくれました。意外な一面にとてもうれしくなり、それを機に、次のときも『最近のお休みには釣りに行ってきたんですか?』といった感じで切り出してみたら話がはずみ、今ではいろいろなことを話し、食事に誘ってくださる関係になっています」
「聞きにくさを感じるときは、最後の別れ際に聞いてみるといいです。『失礼かもしれませんが』と前置きして切り出すと、こちらも切り出しにくさが軽減します。“自分のチラ見せ”もおすすめです。プライベートな質問をした後に『私は~なんです』と、自分のことをチラ見せする。そうすることで、取引先企業の担当者の方も話しやすい雰囲気が生まれますよ」
■普段、話す暇が無いほど忙しい「上司」との会話術
上の立場になれば、なかなか上司が自分の目の前にいないこともあるでしょう。特に忙しい上司の場合、面と向かって落ち着いて話す暇もないかもしれません。そんな上司とは会話についてどんなことを心がければいいでしょうか。その会話術のひとつを、鈴木さんに教えていただきました。
●目安となる時間を伝える
「“目安となる時間を伝える”ということを意識してみてはいかがでしょうか。忙しい上司へ話しかける際、よくあるのは『今、よろしいですか』や『お時間をいただきたいのですが…』というフレーズ。しかしこれでは『ちょっと後にしてくれないかな』と話を聞いてもらえないことが多いようです」
【事例】
「私がある店のスタッフの方に質問をしたところ、『いま調べてきますので、少々お待ちください』と言って、そのスタッフは席を外しました。待つこと15分…。そのスタッフは何もなかったかのように戻ってきたのです。もしかしたら業界の常識として、その内容を調べるには15分程かかるのは普通のことかもしれません。しかし、それを知っているお客様はおそらくほとんどいないでしょう」
「これと同じように、あなたが何気なく使う時間は、上司にとっては想像を超える時間かもしれません。あなたの常識を上司が認識しているわけではないんですよね。だからこそ、時間を使う際には“どれくらいかかるのか目安となる時間”をお伝えするようにしましょう。例えば『3分だけ時間をいただけますか?」と、かかる時間を具体的にお伝えする。そうすることで『3分ならいいかな』と、上司の不安感はなくなるでしょう」
■職場で「おもてなしの会話術」を使うメリット
今回教えていただいたのは、鈴木さんの「おもてなしの会話術」の中の内容でした。どのようなシーンでも有効だそうですが、職場で使うメリットには次のことがあるといいます。
「会話のおもてなしには、相手の気持ちを石からスポンジに替える力を持っています。職場の方たちの気持ちをスポンジにすることができれば、あなたが届けたい話も相手の心の中にスーっと浸透していきます。
そのためには、まず相手のことを知ること。相手のことを知り、会話が深まれば『あなたのよさ』が伝わり、『あなたのよさ』が伝われば、あなたが話すことにも興味を持ってくれるようになります。そうすれば、『伝えたいことが伝わる関係』ができていきます。すると、よりお互いを理解した上で仕事を進められるので、仕事の効率も上がりますし、質も高まるでしょう。
きっと誰もが相手の気持ちを動かす力を持っています。“おもてなしの会話”をすることで、あなたが大切に思う人と深くつながっていける。そして、大切に思う人に、大切にしてもらえるようになる。大切な職場の方たちと深くつながり、大切にしてもらえる要素が“おもてなしの会話”にあるのではないでしょうか」
ぜひ普段の職場はもちろん、あらゆる周囲の大切な人との会話の際には、「おもてなし」を意識してみてはいかがでしょうか。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 石原亜香利