英国の高級既製靴といえば、ビスポーク(オーダーメイド)靴の製法であるハンドソーンウェルテッド(手縫いによる底付け)をベースに機械化したグッドイヤーウェルテッド製法を堅持し、堅牢な構造とクラシックな存在感で、メンズシューズの最高峰ともいわれる。英国ノーザンプトンとその周辺には100年を超える長い歴史を持つシューズメーカーが数多く存在するが、その一方で、靴産業が集積する地域の特色を活かしながら、新たに靴づくりを始めるシューズメーカーやブランドも近年登場している。中でもガジアーノ&ガーリングは、スタートしてまだ日は浅いものの、その卓越した品質と美しいフォルムで、日本はもちろん、アメリカやヨーロッパなどで高い評価を受けている。
「ものぐさ靴」という愛称ながら、極めて英国的な雰囲気
ロンドンのビスポーク靴店で木型づくりを修め、その後ノーザンプトンのシューズメーカーにて既製靴の木型やデザインとオーダーメイドを手がけていたトニー・ガジアーノ氏、ロンドンの著名ビスポーク靴店の靴づくりを担っていたディーン・ガーリング氏、ふたりの靴職人の姓を冠したガジアーノ&ガーリングが創業したのは2006年。当初はビスポークの靴づくりが中心だったが、ほどなく自身の手で既製靴のファクトリーを立ち上げ、本格的にレディメイドシューズをスタートした。「ビスポークのノウハウやエッセンスを反映させた既製靴」という彼らの靴は、高級既製靴としての品質を備えているのはもちろん、クラシックながらどこかエッジの効いた存在感で、英国既製靴のシーンに新たな風をもたらしている。
東京そして日本に、シューリペア(靴修理)の文化をより深く根付かせたユニオンワークス。本業の靴修理の一方で、例えば昨今英国国内でも見かけなくなったシュナイダーブーツを自ら底付けを行って継続的に販売するなど、独自の視点でさまざまな靴を紹介している。そして最近同店が着目したのが、前述のガジアーノ&ガーリング。まずは3モデルに絞って取り扱っているが、中でも注目なのがユニオンワークスの別注モデルであるイミテーションのシューレースが付いたサイドエラスティックスリッポン、通称レイジーマンシューズだ。
ユニオンワークスのトップである中川一康氏が、英国ケタリングにあるガジアーノ&ガーリングのファクトリーを訪れ直にオーダーしたというこのモデル。ガジアーノ&ガーリングの既存モデルにあるフルブローグ型のレイジーマンをキャップトウのセミブローグに変更し、スロートライン(革靴の紐でホールドする部分の基部をスロートといい、この箇所から靴の左右に伸びている切り返し線のことを指す)を、踵へ伸びる形から、ヒール前部へと落ちるような形状に変えている。さらにイミテーションレースの両脇には、他と同様のブローギングではなく、あえて小穴のパーフォレーションとステッチを配した。これらの改変によって、より英国らしいアンダーステイトな雰囲気がもたらされている。採用されている木型TG73のスクエアトウが、キャップトウのスタイルによりスマートさが際立っていることにも注目だ。
ユニオンワークスの店頭では、タイドアップにエプロン、そしてレザーシューズを履いたスタッフたちが、常時働いている。このモデルのスタイルそして雰囲気は、そんな彼らの日常から導かれたものといえるかもしれない。オーセンティックでありながらも、他とは一味違った、どこか「硬派な」存在感を備えた靴、成熟した感性の持ち主であればこそ、その妙味が理解できるに違いない。
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- 菅原幸裕 編集者