これまで当たり前だと思っていた日常が一変したここ数年を経て、住まうこと、暮らすことを見直した人も多かったのではないでしょうか。

そんななか、雑誌『Precious』10月号では、暮らしの拠点として、週末の別宅として、自然と触れ合う場所で、自然と共に生きるキャリア女性たちを取材。海や山、森や湖、あるいは砂漠…。そこでの暮らしが彼女たちにもたらしたものに迫ります。

今回は、「W Style」主宰・「アルフレックスジャパン」社長夫人 保科 和賀子さんのお住まいをご紹介します。

保科 和賀子さん
「W Style」主宰・「アルフレックスジャパン」社長夫人
(ほしな わかこ)「アルフレックスジャパン」社長夫人として、家具やアートを通じて心豊かな生活を提案。実家が器店であり、器への造詣が深く、若手作家も応援。また、イベントを通じて被災地の子供たちを支援する「W Style」を主宰。チャリティ活動を続けている。

「北イタリアの田舎町を思わせる、森の中の古い家。四季の移ろいを家の内外で体感できるおおらかさが好きなんです」

家から少し歩くと、雄大な富士山が目の前に。散歩途中の道の駅には朝どれの地元野菜が並び、鳥のさえずりを聞きながら、澄んだ空気の中、歩いているだけで癒やされて…。

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階段踊り場の丸窓からは富士山が。
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庭へつながるリビング。包まれるような座り心地のロッキングチェアはロダの「レイズ」。オブジェのような洗濯バサミ形のベンチはリーヴァの「モレッタ」。温かな光を放つ床の照明はフロスの「グローボール」。

「河口湖と東京の二拠点暮らしを始めて2年が経ちました。コロナ禍で、夫の会社もテレワーク化が進み、海外で勉強していた3人の息子たちも一時帰国。東京のマンションでは少し窮屈さを感じていたとき、縁あって河口湖のこの家を購入しました。

当初は月の半分以上過ごしていましたが、最近は月に2回ほど滞在。自然の中で過ごすのんびりした時間は、東京での暮らしのスピードをゆるめてくれ、より自分らしくいられます」

東京から車で1時間30分。山梨県河口湖エリアにある、16棟のテラスハウス。豊かな自然に囲まれた敷地内にはテニスコートもあり、北イタリアの田舎町のような雰囲気が漂います。

1991年に建てられた建物は、外装のタイルや内装のテラコッタなど、イタリアの建築素材が使われ、30年経った今も、経年変化によって味わいが増しています。

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玄関のオーク材を使った壁には田中紗樹の作品が。
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階段には、ミロコマチコ(上・中)と、エミリオ・タディーニ(下)のアート。
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リビング脇の棚。右上は13代中里太郎右衛門の陶板、左上は太中ゆうきの作品。
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丸いダイニングテーブル「ステーションチェントロ/廃番」と、チェア「ティナ」、オルーチェのペンダントライト「ソノラ」は、保科さん夫婦が新婚時代に使っていたモデル。「まさかこの家にしっくりなじむとは。うれしい発見でした」。地元のパティスリー「エスペランス」のお菓子でティータイム。

「『アルフレックス』のショールームがある河口湖は、かねてからよく訪れている地です。実は、この集合住宅は創業者である義父が手掛けたもので、『アルフレックス』のフィロソフィが詰まった建物。1軒売りに出ているものと出合い、ご縁を感じて、すぐに手に入れることに決めました。

古いですし、不便もありますが、少しずつ手直ししながら暮らす楽しさを味わっています」

できるだけ当時のままでという想いから、白い壁を塗装し直し、床にワックスをかけ、エアコンを設置した程度。温かい雰囲気の内装や、家の中と外がつながる心地よさを生かして、アートや家具も、モダンすぎず、どこかほっとするような素朴なものを配置。

また、アウトドア家具をあえて室内でも使ってみるなど、東京のマンションとは、また違うテイストを楽しんでいる、と保科さん。

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2階のライブラリースペース。ソファ「マレンコ」の上には、原田 郁のアート。「マレンコが50周年だった昨年、原田さんにこの家の未来のイメージを話して、描いてもらった絵です」
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仕事部屋のデスクは「モンテベロ」、チェアは「JK」。
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次男が描いた保科さん。母の日のプレゼントだそう。
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1段下がったところにあるリビング。おおらかなソファは「オムニオ」。温かみのある壁の仕上げはベネチアンスタッコ。

玄関から続く、ダイニングやリビングの床は、温かい色合いのテラコッタ。スキップフロア構成により、開放感を残したまま、それぞれの空間を心地よく仕切っている。

「キャンドルの灯りと、好きな音楽。心許せる人たちと、リラックスして語り合う時間を大切にしています」

「河口湖の家では、自然と朝、早く目が覚めます。散歩中に摘んできた草花をテーブルに生けて、ゆっくりコーヒーを入れ、一日の予定を確認。軽くヨガをしてから仕事を開始します。

夕方はまた散歩に出かけ、地元でとれた新鮮野菜を使ったシンプルな料理をワインと共にテラスで楽しみます。キャンドルの灯りと、好きな音楽が流れるなか、家族や友人など心許せる人たちと、リラックスして語り合う時間を大切にしています」

東京での暮らしはオンで、河口湖はオフ。文化と刺激、スピード感溢れる東京のテンポを、こちらの家ではいったんゆるめてリセット。自然を感じる生活は、暮らしにメリハリと、工夫、アイディアをもたらしてくれる、と保科さん。

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リビングから続く、テラスと庭。夏も冬も、ここで過ごす時間が好き、と保科さん。朝どれ野菜でバーベキューも!
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ダイニングスペースからも緑が視界に。アートはエミリオ・タディーニ。
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コージーなキッチン。「竣工時のままなのでやはり古さは感じます。もうしばらくヴィンテージ感を楽しみつつ、いずれはダーダのシステムキッチンを取り入れる予定です」
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1階のトイレ。ペインティングもオブジェも矢田典子の作品。同じ作家で統一してコーナーにしている。
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寝室のアートは児玉靖枝。引っ越し先でも、いつもベッドルームに飾っているお気に入りの作品。

「東京のように便利な場所で暮らしていると、冷蔵庫代わりにスーパーを使ってしまいますが、この家の近くにはお店も少なく、計画的に食材を買って、あるもので工夫して料理をする楽しさを実感しています。

山の麓ですから、急に天気が変わって土砂降りになったり、雪が積もったり、不便なことも多いですが、『なんとかなる』とおおらかに構えられるようになりました。鳥の声や虫の音しか聞こえないシーンとした空間で、自分と対話することも増えましたね。

自然の中で得たインスピレーションを、東京の暮らしや仕事で生かす、よい連鎖も生まれました」

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夜は、満天の星を眺めながら、テラスでしゃべったり踊ったりするのが至福のとき。
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リビングでは、夏でも肌寒い夜は暖炉をつけ、キャンドルの灯りだけで過ごす。

保科さんのHouse DATA

場所…東京から約100キロ、車で1時間30分ほど。“アルフレックス”のショールーム「カーサミア河口湖」にほど近い。
建物…1991年竣工。アルフレックス創業者の保科正氏が手掛けた、ウィークエンドハウスを想定した集合住宅。
間取り…3LDK。どの部屋からも視界に自然が感じられるように配慮されている。
訪れる頻度…月に2回。週末+1日滞在。車で移動。
ここに決めたいちばんの理由…「カーサミア河口湖」内にモデルハウスもあり、構造からデザイン、間取りまで熟知。「義父の想いが詰まったこの家との出合いはタイミングといい運命的で、私たちファミリーの根っこがある気がしています」

PHOTO :
川上輝明(bean)
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)