これまで当たり前だと思っていた日常が一変したここ数年を経て、住まうこと、暮らすことを見直した人も多かったのではないでしょうか。
そんななか、雑誌『Precious』10月号では、暮らしの拠点として、週末の別宅として、自然と触れ合う場所で、自然と共に生きるキャリア女性たちを取材。海や山、森や湖、あるいは砂漠…。そこでの暮らしが彼女たちにもたらしたものに迫ります。
今回は、オンラインショップ運営 美奈子アルケトビさんのお住まいをご紹介します。
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「この砂漠で多くの動物たちと暮らす以上、できる限りのことをしたい。最後まで責任を果たせるか、日々プレッシャーです」
人生、行きあたりばったり。まさか砂漠で暮らすとは…
アメリカへの語学留学中にアラブ首長国連邦(UAE)アル・アイン出身の旦那さんと出会い、結婚。2004年砂漠に移り住み、旦那さんと6種約100匹の動物たちと共に暮らす、美奈子アルケトビさん。
砂に残る猫の足跡、愛くるしいガゼルとの触れ合いや、月光に照らされたラクダ、ふだん目にすることのない砂漠での生活。そんな暮らしを幻想的な写真と共に「はなもも」名義でブログやツイッター、インスタグラムなどで発信。写真は独学とはいえ、ドバイのアートギャラリーに認められ展示販売されたほどの腕前。その美しさに魅せられる人は多く、人気を集めています。
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マジョリスと呼ばれる、ゲストをお招きするための家。UAEでは自宅とは別にこのスペースが必須とか。
「砂漠の暮らしに憧れて…というわけでもなく、人生行きあたりばったりで(笑)。この地で暮らし始めてもう18年が経ちました。当初は、こんなにたくさんの動物たちと暮らすなんて想像すらしていませんでした。というより、結婚当初、夫と唯一決めたことが『動物は飼わない』ということ。私は静岡県の実家でずっと大型犬を飼っていて、そのお別れがあまりに辛く、二度とこんな悲しい想いはしたくないと決めていたんです。それに、動物と暮らすということは、大きな責任を伴います。夫とふたり、この砂漠で、心配ごとの少ない気ままな暮らしを楽しもうと思っていました」
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自宅。間取りや部屋数、窓の形など理想を伝え、旦那さんが設計、デザイン、建築を担当。お気に入りは部屋の中から月や星が見える天窓。リビングの大きな絵は、日本人の知人が旦那さんとガゼルのサーメル君を描いたもの。家の裏の砂漠の砂を使って描かれている。
大自然と動物たちが教えてくれたこと
ところが、旦那さんの弟が、砂漠で生まれたばかりの子ガゼルを見つけ、どうしたものかと頼られ、仕方なく引き取ることを決意。警戒心の強い野生のガゼルと暮らし始めたところ、砂漠に置き去りにされた犬、怪我をしたハトのヒナ、栄養失調の子猫などに遭遇。自力で美奈子さんの家にたどり着いた猫たちは受け入れるしかなく、猫、犬、鳩、ウザギ、ガゼルなど100匹以上の動物たちと暮らすことになったのだとか。
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アラブ首長国連邦(UAE)の砂漠地帯での暮らしは、猫や犬、ウサギやガゼルなどたくさんの動物たちと一緒に。砂漠に残る足跡は、夕方吹く風によって風紋となり、消えていく。砂漠の魅力を教えてくれたのも動物たちだったとか。
「友人からは『困ったらあそこの家へ行け、って動物たちが話し合ってるんじゃないの?』などと言われますが(笑)、一緒に暮らすことになった以上、できる限りのことをしたい。最後まで責任を果たせるか、日々プレッシャーです。毎日のごはんや散歩、避妊手術や病院での検査など、面倒だと思う日や、お金の工面に頭を悩ませる日もありますが、『どうか最後まで、みんながここで生活できますように』という思いで、『とにかくこの子たちをちゃんと見送ること』が人生の目標になっています」
なにより、大自然の中動物たちと暮らすことで、季節によって砂漠に残る足跡も違うことや、地平線に沈む満月の美しさ、砂漠で生きるたくさんの命、こぼれ落ちそうな星の煌めきなど「毎日新しい発見があって飽きることがない」と美奈子さん。
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お茶やランチを持って夫婦で砂漠散歩が日課。焚き火をしながらうたた寝することも。
「自然界も動物の世界も人間の思いどおりになりません。だからといって、圧倒的な自然を前に、自分の悩みがどうでもよくなることもないし、日々些細なことで腹も立ちます(笑)。ただ、動物たちを前にすると、生きるものはいつか必ず死ぬということを実感します。これまでは死に別れを怖がってばかりいましたが、今は、そこに気持ちや時間を割くよりも今、目の前に生きる子たちのためにどう過ごすかが大事なんだと思うようになりました」
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朝夕、動物たちに「散歩に行くよ〜」と声をかけると、気分しだいでついてきたりこなかったり。そのおおらかさもいい。
〈アルケトビさんのHouse DATA〉
●場所…アラブ首長国連邦(UAE)の内陸の砂漠。ドバイからは南に120キロほど。
●建物…砂を混ぜたコンクリート造り。美奈子さんの要望を取り入れつつ、設計から建築まですべて旦那さんが手掛けた。
●間取り…自宅は、リビング、キッチン、寝室、書斎ほか、ゲスト用寝室3部屋。敷地内にゲストルームが2棟ある。一緒に暮らす動物たちは、犬2匹、猫91匹(行方不明で帰宅待ちの子を含む)、ウサギ1羽、鳩1羽、ガゼル2頭、ラクダ4頭。
●ここに決めたいちばんの理由…夫婦でよく散歩に出かけていた砂丘に「ここに家を建てたい」と夫が希望したため。
- EDIT&WRITING :
- 田中美保、古里典子(Precious)