これまで当たり前だと思っていた日常が一変したここ数年を経て、住まうこと、暮らすことを見直した人も多かったのではないでしょうか。
そんななか、雑誌『Precious』10月号では、暮らしの拠点として、週末の別宅として、自然と触れ合う場所で、自然と共に生きるキャリア女性たちを取材。海や山、森や湖、あるいは砂漠…。そこでの暮らしが彼女たちにもたらしたものに迫ります。
今回は、Wedding&Lifestyle プロデューサー 黒沢祐子さんのお住まいをご紹介します。
「鳥のさえずり、雨の音、木々の香り、朝どれの野菜…。穏やかな時間を手に入れて、日々の暮らしが、いっそう愛おしくなりました」
朝7時。昨日まではまだ暗かったのに、今日はほんのり明るい。空の色、温度、湿度、風の匂い。季節は確実に移り変わっているんだな…。
「そんな日々の小さな変化に気付くことがうれしくて、楽しいんです」
フリーのウエディングプランナーとして長年活躍してきた黒沢祐子さん。コロナ禍の影響でウエディング業界も大ダメージを受けるなか、自身の仕事とこれから、さらに東京一拠点生活に疑問を感じ始めました。
「当時、毎朝ランニングをしていたんですが、走っても走っても息が詰まってしまい…。離婚を経験して、本当の意味での自立について考えていた矢先のコロナ。東京のど真ん中で暮らし、時間に追われる生活で、何か見落としていないか、大切なものは何か。自分と向き合う日々でした」
そんななか出会った鎌倉育ちの友人のおかげで、鎌倉移住を決意。探し始めてすぐこの家に出合いました。
「条件は、鎌倉といっても海側でなく山側、自然に囲まれた一軒家で、キッチンとお風呂が広くて、リビングに光が入る家。ぴったりの物件があると不動産会社の方に言われ、情報を見た時点で、この家で暮らす自分の姿が明確にイメージできました。そこで、自己紹介を含め複数枚にわたって綴った手紙を手に内見へ」
その手紙のかいあってか、無事、入居することになりました。
「後で聞いたら、20組近い希望者がいたとのこと。クリエイティブな仕事のシングルの入居を希望されていたオーナーの想いもあり、ご縁をいただきました。
20年前に建てられたこの家は、木がふんだんに使われていて、壁は漆喰塗り。海風や湿気が大敵といわれる鎌倉でも、カビとは無縁の暮らしができるのは、日本の四季を考えた漆喰や木の呼吸なのだと実感しています。ゴミ出しや交通の便など、不便なことはありますが、それすら楽しいと思えるんです」
「カラフルで元気な鎌倉野菜や新鮮な魚介類がとにかく美味しい。糠漬けや手づくり味噌も再開しました」
朝は5時起き。白湯を飲んでからお香を焚いて「コンブチャ」を飲み、ラジオ体操後、朝ごはんの準備を。
「もともと料理は好きだったんですが、鎌倉に越してきてからは自炊が中心に。カラフルで元気な鎌倉野菜や新鮮な魚介類が身近に手に入るうえ、とにかく美味しい。糠漬けや味噌の手づくりも再開しました」
海までは徒歩10分。少し時間ができれば、散歩がてらのんびりと、波や空、鳥などを眺めます。
「最新のファッションや話題のレストランは今でも好きですし、トレンドを追いかけた経験が仕事にも生きています。でも、気持ちのアップダウンが激しく、隙間時間を必死で埋めるような生き方は、私らしくないと気付きました。自分と向き合う時間が日常になった今、日々の暮らしが愛おしいと思える心の余裕と、『凪』のような穏やかさを手に入れた気がします」
また、鎌倉に移住して東京と行き来することが増え、ファッションにも変化が。シワになりにくく、都内でも着られて、スニーカーに合う服、家で洗えて体型を問わない、シーズンレスな服が欲しい…。
「以前からやりたかった服づくりですが、そんな構想を語っていたら、実際に手掛けられることに。完全受注生産ですが、今年、第2弾も発売しました。どんな人生、暮らしをしたいか。本当にやりたいことは何か。鎌倉への移住をきっかけに、より明確になりました。また、こうした日常の積み重ねの先にしか未来はなく、その未来は自分が描いたようにしかならないこと。素敵な未来を描くためには『自愛』が必要だと実感。この経験と想いを発信したくて、オンラインサロンも立ち上げました」
鎌倉のこの家は3年定借。この春、新たなパートナーとも出会い、次はどこに住もうかと、休みを利用して、一緒に候補地を旅する日々。
「山梨県や長野県もいいかも。いつか、小さな畑で家族と友人たちが飲む分のワインをつくりたいんです」
黒沢さんのHouse DATA
●場所…稲村ヶ崎まで徒歩10分ほどの山側の一軒家。江ノ電の駅も近い。
●建物…築20年の借家(3年定借)。
●間取り…3LDK。1階にリビング、ダイニング、キッチン、バスルーム。2階に寝室と仕事部屋。
●訪れる頻度…2020年11月に移住した直後は鎌倉中心。最近は再び東京に拠点を構え、鎌倉は多くて週2、3日。ほとんど電車移動。「グリーン車での1時間は、仕事したり本を読んだり有意義な時間です」
●ここに決めたいちばんの理由…R不動産に依頼。「なんといっても静かで自然豊かなこと。ほかには、鳥のさえずりで目覚めること。歩いて10分ほどで海に行け、朝陽や夕陽を見にいけること。日帰り温泉や野菜直売所が近いこと、などが決め手です」
- PHOTO :
- 長谷川 潤
- EDIT&WRITING :
- 田中美保、古里典子(Precious)