世界の“今”が凝縮!話題の「現代アート」、その楽しみ方[入門編]
ここ数年、現代アートが盛り上がっている…のは気になっていても、正直、一見「???」な作品も多く、ついつい敬遠してしまいがち。でも、「それはもったいない!」と迷える私たちの手を取ってくれたのが、現代アートに詳しいエディター・ライターの中村 志保さん。知的で、刺激に満ちた、楽しく奥深い現代アートの世界をナビゲートします。
現代アートはつねに世界とつながっている。そして、「あなたはどう考える?」と問いかけてくるのです ―― 中村志保さん(「ARTnews JAPAN」)
’19年にマイアミで開催された「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」というアートフェアでのこと。マウリツィオ・カテランというイタリア人アーティストの作品が騒動を巻き起こしました。それは、壁に本物のバナナをテープで留めただけの、なんとも不可解な作品。約1600万円で買い手がついたことも驚きですが、会場でバナナをむしゃむしゃと食べてしまう人が現れたのだとか。
現代アートの世界では、しばしばこうした珍事件が起こります。美術館の展示室でも、真っ白な部屋に奇妙な物体がぽつんと置かれていたりします。そうなると、「もしかしてこれも作品?」と、白塗りの非常扉までが怪しく思えてきます。
現代アートってよくわからない―そんな印象を抱く人も多いでしょう。結論から言うと、わからなくてもいいと思うんです。もちろん、感性を研ぎ澄ませて観ることは大事です。「この色が好き」「この形に惹かれる」といった直感も大切にしたい。しかし、美術大学があることからもわかるように、そもそもアートも、専門性のあるひとつの学問。ですから、難しくて当たり前なのです。
特に現代アートとは、これまでの美術史に刻まれたアーティストの作品を再解釈したり引用したりしながら、現代社会において何を表現すべきか? 未来に向けて何を提示するのか?と、「現在」を表現に落とし込むもの。そのため、ときに複雑かつ難解になり、知識がなければ読み解くことが困難な作品もあります。事実、今を生きるアーティストたちは、環境、ジェンダー、政治経済、人種差別……と、きわめて幅広いテーマをもって制作に取り組んでいます。
例えば、アメリカでは近年のブラック・ライブズ・マター(BLM)運動を受けて、黒人作家が手掛けた作品に大きな注目が集まっています。また、今年59回目の開催を迎えた国際的なアートの大展覧会「ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」は、210組ほどの参加作家のうち、なんと192組が女性という異例の構成となり、話題になりました。一方、日本においては、震災の記憶を伝える作品も顕著です。
アートは、社会的な事象から切り離されているのではなく、私たちが生きる世界のさまざまな出来事と接点をもっています。冒頭で触れたバナナ作品も、情報に溢れた現代社会において『本物』とは何かを問いかけると同時に、難解とされる現代アートそのものを皮肉に表した作品なのかもしれません。珍騒動も想定内、ニヤリと笑っているアーティストの姿が想像できるようです。
社会とのつながりがわかってくると、現代アートがもっと身近なものに感じられるでしょう。そして、概して世の中で『よい』と評価される作品は、観る人にこう問いかけてくるものです。「この作品を観て、あなたはどう考える?」と。
- PHOTO :
- 篠原宏明
- EDIT&WRITING :
- 剣持亜弥(HATSU)、喜多容子(Precious)