相手に何かを送る際、メールや口頭で使われることの多い「お送りいたします」というフレーズ。改めて確認すると、「自分の行為に『お』をつけるのは間違いでは?」と迷ってしまう人がいるかもしれませんね。「二重敬語では?」という疑問も浮かびます。ご安心ください。「お送りいたします」は正しい敬語表現です。今回はその根拠を文法的にご説明します。
【目次】
【「お送りいたします」は正しい敬語表現?】
「お送りいたします」は正しい敬語表現です。
まずは「お送りいたします」を品詞分解してみましょう。「お・送り・いたし・ます」となります。
接頭語「お(ご)」+ 動詞の連用形 + 補助動詞「いたす」+ 丁寧の助動詞「ます」は、謙譲表現の定型です。
謙譲語の「いたす」を用いて、「お送りします」をさらに丁寧な敬語表現にしたものです。
■自分の行為に「お」をつけていい?
接頭語「お(ご)」は、尊敬語としての使用がよく知られていますが、「届ける」→「お届けする」、「案内する」→「ご案内する」、「願う」→「お願いする」のように、自分の動作につけることで「行為が向かう先」を立てる謙譲語としても使われます。
「ご返信」の「ご」を例にあげると、「先方からのご返信(尊敬語)」としても、「自分からのご返信(謙譲語)」としても使うことができ、いずれも先方を立てる表現になっています。
また、「私のお菓子」など、「お(ご)」は美化語として用いることもありますよ。
■「お・送り・いたし・ます」は二重敬語では?
二重敬語とは、ひとつの語について、同じ種類の敬語を二重に使ったものを指します。例としては、尊敬語をふたつ重ねた「お読みになられる」「おっしゃられる」「お帰りになられる」などがあげられます。
こう聞くと、謙譲の接頭語「お」と、「する」の謙譲語「いたす」を使った「お送りいたします」も、二重敬語のように思えますね?
大丈夫です!「お送りいたします」は二重敬語とはならない正しい敬語表現です。
文化審議会答申「敬語の指針」によれば、現在、日本語の敬語表現は5つに分類されています。「尊敬語・謙譲語I・謙譲語II・丁寧語・美化語」 の5種類です。
ポイントは、以前の学校教育ではひとつにまとめられていた謙譲語が「謙譲語I」「謙譲語II」に分けられたこと。
「謙譲語I」は「動作の対象(行為が向かう先)を敬う」謙譲語。「謙譲語II」は「話を聞いている相手を敬う」謙譲語(丁寧語)です。そして接頭語「お」は「謙譲語I」、動詞「いたす」は「謙譲語II」に分類された言葉なのです。
もうおわかりですね?「お送りいたします」には謙譲語がふたつ使われていますが、種類が異なるため、二重敬語とはならないのです。
■「致します」と「漢字」で書くべき?
「致」という漢字は、「めざすところまで届ける。至らせる」という意味の語です。
「お送りいたす」のように使用する場合、「いたす」は「する」という意味の謙譲語の補助動詞として使われており、漢字本来の意味はもっていません。「公用文における漢字使用等について」では、補助動詞はひらがなで表記することになっているため、契約書など公式な書類を含めたビジネス文書でも「お送りいたします」とひらがなで表記するのが正しいのです。
【「お送りいたします」の使い方がわかる「例文」5選】
■1:「請求書をお送りいたしますのでご査収ください」
■2:「資料をお送りいたしましたのでご確認ください」
■3:「内訳書を添付にてお送りいたしますので、ご確認のほどよろしくお願いいたします」
■4:「先日、行程表をお送りいたしましたが、ご都合はいかがでしょうか」
■5:「お足元の悪いなか、ご足労いただきありがとうございました。展示会終了後は、御社まで車でお送りいたします」
「送る」という語は、ある場所まで人に付き添うときにも使われます。
【「お送りいたします」の「類語」「言い換え」表現】
■ご送付いたします ■発送いたします ■お送りさせていただきます
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「お送りさせていただきます」は正しい敬語表現です。現在、謙譲語はふたつに分類されているとは驚きです。感性も知識も、常にアップデートしていきたいものですね!
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 「敬語の指針」(文化審議会答申)/『敬語マニュアル』(南雲堂) /『一生分の教養が身につく! 大人の語彙力強化ノート』(宝島社)) /『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書) /『印象が飛躍的にアップする大人の「言い方」練習帳』(総合法令出版)/『すぐに使えて、きちんと伝わる敬語サクッとノート』(永岡書店) :