思っていることをはっきり口にしてしまうことで、余計な角を立ててしまったり、相手と気まずくなってしまうこと、ありますよね。そんなとき、「そこまで言わなくてもいいですよ」という趣旨で使われるのが、「言わずもがな」という言葉です。古風なイメージにほんのり知性を感じさせるフレーズでもありますから、「あえて口にしない選択」をしたいとき、知っておくと便利な言葉です。

【目次】

「あえて口にしない」のも大人の選択。。
「あえて口にしない」のも大人の選択。

【「言わずもがな」を深く理解するための「基礎知識」】

■「方言」なの?  

「いわずもがな」というちょっと変わった言葉の響きに、「方言なのかな?」と思う人もいるかもしれませんね! でも、方言ではありません。実は「言わずもがな」は、古文の連語なんです。ちなみに、連語とは「複数の単語から構成されているものの、それをひとまとめにして、単語と同様に用いられる言葉の表現」のことをいいます。

■「語源」は?

では、「言わずもがな」を品詞分化してみましょう。

「言わずもがな」は「言わ・ず・もがな」と分けられます。「言わず」は動詞「言う」の打ち消し表現、「もがな」は願望の意を表す終助詞です。古文では「もがな」は願望の意を表わす助詞「もが」に、感動の助詞「な」の付いたものとされており、「もが」「もがも」に代わって用いられました。これは、「~があればいいなあ」「~(で)あってほしいなあ」という意を表しています。「言わずもがな」は「言う」の打ち消し表現に「もがな」が付いていますから、もともとは「言わないでいてくれたらなあ」という願望を表す言葉だったのです。

■「言わずもがな」には、ふたつの「意味」が!

現在使われる「いわずもがな」には、ふたつの意味があります。
(1)言葉に表わさないほうがいいと思われること。
(2)言うまでもないこと。わかりきっていて今さら言う必要のないこと。

ある状況において、お互い事情がわかっている場合、いちいち全部言葉にするのは煩わしく感じられることって、ありますよね。また、はっきり言葉にしてしまうことで、余計な角を立てることにもなりかねません。そうした状況のとき、「言わずもがな」は(1)の用法のように、「そこまで言わなくてももいいですよ」、あるいはちょっと強い言い方ですが「そこまで言うな!」という趣旨で使われます。とはいえ、前述の通り、​「もがな」は「〜であればいいなあ」という願望を示す語ですから、「言わずもがな」とすることで、あまりキツい印象にならずに済むのです。

(2)は、(1)とは異なるニュアンスでの使われ方です。そこまで詳しく言わなくても十分に通じるから、わざわざ言わないでほしい、というところから生まれた用法で、「言うまでもなく当然だ」「わかりきっている」という意味で用います。


【「言わずもがな」の「使い方」がわかる「例文」5選】

■「言わなくていいですよ」というニュアンスで使われるとき

・「主張なさりたいお気持ちは理解しますが、それは言わずもがなのことではないでしょうか」
・「彼はいつも言わずもがなのことを口にする」

■「わかりきっている」というニュアンスで使われるとき

・「遊園地のパレードに、子供は言わずもがな、大人までもがはしゃいでいました」
・「これは言わずもがなのことかもしれませんが、念のためご説明いたします」
・「部長は英語は言わずもがな、フランス語も堪能です」


【「言わずもがな」の別の言い方は?「言い換え」「類語」表現】

「言わずもがな」にはいくつか言い換え表現があります。

■「言わぬが花」

「言わぬが花」は、「口に出して言わないほうが味わいもあり、差し障りもなくてよい」という意味です。①の使い方と似ています。

■「言わずと知れた」

「言わなくてもわかっている。わかりきった」という意味の連語です。「健康が第一なのは言わずと知れたことだ」のように使います。こちらは(2)の使い方と同義です。また、「言わずと知られた」は誤用ですので気を付けましょう。では、「言わずもがな」のことまでしゃべってしまう様子をどう表現するのか、ご存じですか?

■「口がずぎる」 ■「口を滑らせる」 ■「ひと言多い」

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日常あまり耳にすることのない「言わずもがな」という言葉。特に若い世代にとってはなじみのない言葉といえるでしょう。この言葉を使う際には、相手に自分の意図が正しく伝わっているかどうか、さりげなく確認する必要があるかもしれませんね。また年配の方から言われたときは、微妙に異なるふたつの意味の、どちらを意図しているのか、慎重に判断してくださいね。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館)/『ひと言で知性があふれ出す 大人の語彙力が身につく本』(かんき出版) :