セレブリティが立ち上げるブランドやショップというと、商品が微妙だったり、そのわりに価格は妙に高かったりして、長続きしていないイメージがありませんか?

実は海外でもそんな事例はたくさんあります。しかし、中にはちゃんと成功して、一大ビジネスになっているブランドもあるのです。本業のファンにとどまらず、幅広い層を取り込み、年商10億ドル(約1100億円)の大台に乗せたセレブリティもいるのです。

そんな大成功を収めたのはどんな人たちで、その秘訣はどこにあるのでしょうか? 人気の高いセレブブランド6つを分析してみました。 

■1:「ベッカムの妻の元アイドル」から完全に脱皮した、ヴィクトリア・ベッカム

「デビッド・ベッカムの妻」で「元スパイス・ガールズ」という肩書きを持つヴィクトリア・ベッカムですが、アイドル時代からグループの中でも最大の衣装代を確保するなど、ファッションにこだわりを持っていました。既存ブランドとのいくつかのコラボレーションやデニムブランド立ち上げを経験した後、2008年に自分の名前を付けたブランドを立ち上げ、今や押しも押されもしないファッションデザイナーとしての地位を築いています。

日本ではまだそこまで広く取り扱われていませんが、女性らしさを強調しつつも、シャープで辛口なデザインには定評があり、ほかのセレブからも愛用されています。たとえば先日は女優のメーガン・マークルがイギリスのハリー王子との婚約発表写真でヴィクトリア・ベッカムのカシミアセーターを着用しており、そのセーターは690ポンド(約11万円)の高額商品にもかかわらず、数時間で売り切れになったそうです。

 Victoria Beckham(ヴィクトリア・ベッカム)
 Victoria Beckham(ヴィクトリア・ベッカム)

それ以前にもヴィクトリアのファッション界への貢献は英国王室からのお墨付きを受けていて、2017年には大英帝国勲章OBE(Officer of the Order of the British Empire)を受章。さらにビジネスだけでなく、慈善活動にも精力的に取り組んでいて、2014年からは国連合同エイズ計画(UNAIDS)の親善大使を務めています。ヴィクトリアはプライベートでは4人の子を持つ母でもあり、クールな外見とは裏腹に、公私ともにパワフルな活躍を続けているんです。

■2:子役からデザイナーに転身したオルセン姉妹

オルセン姉妹 写真:AP/アフロ
オルセン姉妹 写真:AP/アフロ

生後8か月でドラマ『フルハウス』の赤ちゃん役に抜擢され、二人一役を務めたメアリー・ケイト・オルセンとアシュレー・オルセンの双子姉妹。8年に及ぶロングランとなったドラマと相まって人気者となり、二人の名前を付けた洋服やローティーン向けコスメが売り出され、その売上は10億ドル(約1100億円)以上と言われるほどでした。

そして2006年、子ども向けファッションでは飽き足らないかのように、20歳のときにクチュールブランド「The Row(ザ・ロウ)」を立ち上げます。それまでファン層向けにつくられてきた商品は明るい色合いの手頃なTシャツなどが中心でしたが、The Rowはアシュレー自身にとっての「パーフェクトなTシャツ」をつくるプロジェクトとして始まり、徹底してミニマルなデザインと上質な造りを貫いています。その後展開された商品も、たとえば5万5000ドル(約600万円)のバックパックなど、デザイナー本人が使いたいものを、価格に糸目をつけずにつくっているように見えます。

The Rowのムートンブーツ ¥160,000(税抜)
The Rowのムートンブーツ ¥160,000(税抜)

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でもオルセン姉妹は自分のこだわりを形にするだけでなく、ビジネスとしてのバランスも取ろうとしているようです。The Rowを立ち上げた翌年には、デザイン的にも価格的にもより幅広い層に受け入れられる「Elizabeth & James」(エリザベスアンドジェームス)もスタートさせました。

その後はそろって女優業を引退し、ファッションの仕事に専念。アメリカファッションデザイナー協議会のアワードを連続受賞するなど、専門家からも高い評価を得ています。

■3:カイリー・ジェンナー、10代で発売したコスメが400億円を超える大ヒット

キム・カーダシアンやケンダル・ジェンナーなど、姉妹そろってモデルやタレントで、それぞれにブランドを立ち上げたりコラボ商品を出したりと、話題に事欠かないカーダシアン/ジェンナー一家。その中でも末っ子のカイリーのビジネスは、姉たちを超えて突出しています。2015年、弱冠18歳で発売したリップキットがWebサイトをクラッシュさせるほどの売上を達成し、Kylie Cosmeticsの売上は、18か月の累計で4億2000万ドル(約460億円)にも上ったそうです。

カイリーのInstagramのフォロワーは1億人を超え、若い層からの支持は絶大です。現在、妊娠・出産間近という噂がヒートアップしていますが、そんな注目もこれからの成長に拍車をかけていくことでしょう。


■4:そのカイリーのコスメをしのぐ勢いなのが、リアーナの「FENTY BEAUTY」

そのKylie Cosmeticsをしのぐ勢いなのが、リアーナによるコスメブランド「FENTY BEAUTY」です。2017年9月に立ち上がったばかりで、販路もコスメ専門店・Sephoraのみに限定されていますが、スタートから1か月の売上は、Kylie Cosmeticsの5倍に達したと推定されています。

独特のお洒落センスで知られるリアーナですが、FENTY BEAUTYにもリアーナらしさが発揮されています。たとえばどんな肌色にも合うよう40色用意されたファンデーション、ブルーやグリーンといった斬新な色合いのリップスティックなど、ほかにはない商品がそろいます。

リアーナはPUMAとのコラボレーション「FENTY by Rihanna」も2014年に開始していて、売上増に大きく貢献したと言われています。これからもますます活躍の幅を広げていきそうで、期待が高まります。


■5:等身大の女性たちをターゲットに大成功した、ジェシカ・シンプソン

ジェシカ・シンプソンは世紀の変わり目にシンガーソングライターとしてデビューし、純朴なイメージで人気を集めていましたが、20代半ばで離婚を経験。でもその直後の2006年、音楽活動の傍らでファッションブランド「Jessica Simpson Collection」を立ち上げていました。そのブランドは順調に成長し、今や商品カテゴリはアパレルだけでなく靴やバッグ、家庭用品にまで及び、年商は10億ドル(約1100億円)にも達しています。 

でもジェシカ・シンプソンのブランドなんて、見たことがないけど? と思われた方、それもそのはずです。Jessica Simpson Collectionはヴィクトリア・ベッカムやThe Rowのようなラグジュアリーブランドではなく、米国のショッピングモールで普段着的に売られている商品が中心。そしてそのことこそが成功の秘訣のようです。

Forbes Power Womenサミットで、ジェシカ・シンプソンは自分の信念をこう語っていました。「(商品の)承認やインスピレーションの会議のとき、私は自分のおばあちゃんに着てほしいものや、2歳の娘が着たら可愛いもののことを考えています」「世界にはロサンゼルスとかニューヨークだけでなく、いろいろな生活があります。私はミドル・アメリカのマインドを理解しているんです。」

天然キャラとも言われるジェシカ・シンプソンですが、その気取らなさがブランドに反映されていることが共感を呼んでいるのかもしれません。


■6:自身のライフスタイルをシェア、グウィネス・パルトロウ

一方グウィネス・パルトロウは、自身のリュクスでナチュラル志向なライフスタイルを「Goop」ブランドを通じてシェアし、独自の世界を構築しています。2008年にメールマガジンとしてスタートしたGoopは徐々に拡大し、ファッションや家庭用品などをセレクトショップ的に取り扱うeコマースサイトに発展。現在では独自のアパレル商品や化粧品、サプリメントなども販売しています。

ただGoopで勧めている商品や習慣の中には「子宮に入れる石」や「子宮を温める健康法」などもあって、ときどき悪い意味で話題になってしまいます。それでもここ数年売上は伸び続けているそうで、2016年に1500〜2000万ドルだった売上が、2017年にはさらに3倍にもなったと推定されています。

以上、欧米圏のセレブリティが立ち上げて成功した6つのブランドについて、まとめました。全体的に共通しているのは、立ち上げた本人が自らデザインや商品開発に深くコミットして、本当によいと思うものを打ち出している(またはそういったストーリーを世の中に見せている)ことです。また単にこだわりを形にするだけではなく、たとえばヴィクトリア・ベッカムにおけるVictoria, Victoria Beckhamやオルセン姉妹におけるElizabeth & Jamesのように、きちんとターゲットを明確にして、その人たちに向けてこだわりをアレンジできることも重要そうです。

ソーシャルメディアを通じてセレブとファンが直接つながれる今、セレブが本当に好きなものはどんなもので、何を身に着けて何を食べているのか、我々は逐一見ています。そんな中、何らかのブランドを立ち上げるとしてもしなくても、ウソのない形で自分をうまく演出できるセレブこそが、ますます成長していけるのでしょう。

この記事の執筆者
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WRITING :
福田ミホ