「世知辛い」は「抜け目のない」「暮らしにくい」といった意味の言葉です。「褒め言葉」にはなりませんので、ビジネスで積極的に使う言葉ではないかもしれませんね。とはいえ、間違った使い方で周囲を暗い気持ちにさせないよう、正しい意味や使い方を理解しましょう。

【目次】

何となくネガティブな響きのある言葉です。
なんとなくネガティブな響きのある言葉ですよね…。

【「世知辛い」を深く理解するための「基礎知識」】 

■「読み方」

「せちがらい」と読みます。「せちがない」と間違えて覚えていた人はいませんか?

■「世知辛い」の「意味」を簡潔にいうと?

「世知辛い」にはふたつの意味があります。
1)計算高い。抜け目がない。ケチ。
2)世渡りが難しい。暮らしにくい。

■「語源」は?

仏教用語に由来する「世知」は「世俗一般の知恵」という意味です。近世になってから「世渡りの才能」「処世術」という意味で使われるようになり、これが転じて「計算高い。抜け目がない。ケチ」という意味が生まれました。中世までは、この意味を表す「世智弁(せちべん)」という語があり、形容詞形としては「せちべんない」が使われていたそうです。これと類義で「せち」を含む複合語形は「せちがしこい」「せちがまし」「せちがらい」「せちくるし」などがあります。

「世知辛い」となった語源についてはふたつの説があります。ひとつは「世智弁辛シの略である」という説(『大言海』より)。もうひとつは、「切辛(セチカライ)から」という説です。「切」は物事が急迫していて、乗り切るのが容易でないという意味(『上方語源辞典』より〕。「辛い」には味覚の辛みを表現するほかに、「勘定高く人情味のない人が多くてあきれるようなさま。せちがらい」という意味があります。同じような意味をもつ「世知」と「辛い」を重ねることで、言葉の意味が強調されているのですね。

「世知辛い」は本来、「勘定高くて抜け目がない」という、1の意味で使われていました。ここから2の「世渡りが難しい。暮らしにくい」という意味が派生しました。現在では一般的に「世知辛い」は、「計算高い人が多くて暮らしにくい」」という、1と2、両方のニュアンスを含んだ言葉として使われています。

■「世知辛い」は方言?

「世知辛い」を方言として使用する地域もあるようです。​岐阜県安八郡では、「生活が苦しい」という意味で「せちがらい」を。岐阜県益田郡では「機敏だ。すばしこい」という意味で「せちからい」が用いられます。また「世知」のみでは、新潟県新潟市で「ずるいこと」の意味で、島根県美濃郡・益田市では「ボタン」の意味で使われています。


【「世知辛い」の理解を深める「例文」5選】

「世知辛い」を使った例文をご紹介しましょう。「世知辛い」は愚痴めいたニュアンスを含んでいるため、あまり前向きな印象の例文にはなりませんね。

■1:「都会は世知辛いといわれるが、そこで生まれた者にとっては実感しにくいものだ」

■2:「世知辛い都会を避けて、地方への移住者が増えているようだ」

「計算高い人が多くて暮らしにくい」というニュアンスで「世知辛い」が使われています。

■3:「不況で経費がほとんど使えなくなった。世知辛い世の中になったものだ」

こちらは「暮らしにくい」という意味で。「厳しい」「シビアな」といったニュアンスも。

■4:「世知辛い商法で財を成した事実が、晩年の彼を苦しめる結果となった」

「世知辛い」は「抜け目のない」「利益追求型の」という意味でも使われます。

■5:「あれだけ世知辛い人だからこそ、あの若さで戸建住宅が持てたのだな」

「ケチ、吝嗇家」という意味で「世知辛い」を使った例文です。


【似た意味をもつ「類語」「言い換え」表現は?】

■損得勘定で動く

■抜け目がない

■ケチ

■打算的

■狡猾な

■暮らしにくい

■生きづらい

■厳しい

■シビア

■嘆かわしい

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いかがでしたか? 日々の報道などを見るにつけ、「世知辛い」と感じることも多い社会ではありますが、「世知辛い」は聞く人にポジティブな印象は与えない言葉ですから、ビジネスで使用する際には、別の言葉に置き換えたほうがいいかもしれません。

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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) :