【目次】

【「マウント」の「意味」は?「語源」と「基礎知識」】

■カタカナ語「マウント」の由来は 英語の[mount]

小学館の辞書『デジタル大辞泉』によると、カタカナ語の「マウント」は英語の[mount]を由来とした名詞で、たくさんの意味をもっています。
1.台座などに物を載せること。また、その台座。
2.レンズ交換のできるカメラの、レンズを固定する部分
3.写真などを貼る台紙やスライドの枠
4.コンピューターに周辺装置を認識させ、操作可能な状態にすること
5.多くの哺乳類の雄が、交尾のために雌に乗ること。マウンティングをすること
6.「マウンテン」に同じ。Mt.と略記する。

今回取り上げる「マウント」は、5.の「動物のマウンティング」が語源です。哺乳類の雄が交尾のために雌に乗ることを「マウント(あるいはマウンティング)」といいます。ここから派生した「マウンティング」という言葉は、20年ほど前までは、サル山のサルが自分の優位性を周囲に示す行動を表す、動物行動学の専門用語でした。

一方、格闘技の世界では、相手を床に押し倒し馬乗りになった体勢のことを「マウントポジション」と呼んでいます。これは、相手の身動きを封じ込めることになるため、圧倒的に有利なポジションです。

このふたつの「マウント」から、インターネットの掲示板などで、自分の優位性を示したり、威圧的な態度を取って相手を威嚇したり、萎縮させたりすることを「マウントを取る」あるいは「マウンティング」と表現されるようになり、一般へと定着しました。

「マウンティング」という言葉をブームにしたのは、漫画家の滝波ユカリさん。女性同士の会話のやりとりで、相手の自慢話に敏感で、察知すると自分の自慢話を被せる女性を霊長類のマウンティングのようだとコミカルに表現しました。さらに2014年に発売されたエッセイスト犬山紙子さんとの対談集『女は笑顔で殴りあう マウンティング女子の実態』(筑摩書房)で「“善意”でコーティングされた言葉や態度で、自分は悪者になることなく相手を貶(おとし)め、自らの優位性を確保する行動」を「マウンティング」と定義。これが女性誌などに取り上げられ、話題となりました。

■ビジネスシーンで使われる「マウント」とは?

マウントを取る人の心理を考えてみると、競争心が強くて負けず嫌い、承認欲求が強い、嫉妬深いという特徴が浮かび上がります。相手に負けたくないあまり、自分の話をして対抗してしまう…。誰でもこんな目にあったことはあるでしょうし、自分がうっかりやってしまった…ということもあるかもしれません。

ビジネスシーンにおいて、マウントを取るポイントとなるのは、肩書きや収入、学歴、語学力、資格の有無、体力、居住地、ルックスなどでしょうか。こちらに競う気はまったくないのに、何かにつけて「私は」「私は」とマウントをとってくる人がいたら、その人の目的は「自分の有能さを周囲にアピールする」ことで、あなたよりも「優位な立場に立つこと」なのです。


【「マウントを取る」人の会話って?例文5選】

■1:「5年目なのに、まだあんな簡単な業務でてこずっているの?」

同僚に仕事の悩みを打ち明けたとき、相手からこんな否定的な言葉が返ってきたら…、相談したことを後悔してしまいますね。これは、相手を否定することでマウントを取る典型例です。私は簡単にできる、という能力マウントです。

■2:「私のときはクライアントがもっと厳しくて、終電で帰れればラッキーぐらいな覚悟で仕事していたよ」

後輩や同僚が業務の忙しさを愚痴っているとき、こんなふうに自分のほうが大変だったアピールをしている人、いませんか? これもよくあるパターンのマウントで、経験マウント武勇伝マウントと呼べそうです。

■3:「去年の社長賞をいただいたので、今回のプロジェクトも気が抜けなくて大変ですよ」

こちらは、わざわざ「社長賞をもらったこと」を入れているのが肝。これは、業績マウントとでも名付けておきましょう。

■4:「私の大学時代の同級生はみんな出世しちゃって忙しくて。なかなか会えないんですよ。」

あなたが、学生時代の友人と会食したという話をしているとき、こんなふうに割って入られたら、だいぶ嫌な気持ちになりますよね。これは、さりげないふうを装った友人自慢マウントかもしれません。

■5:「〇〇教室もいいけれど、私は●●教室にしているよ。料金は2倍くらいになっちゃうけれど、講師のレベルが違うからね」

英会話教室に通っていることを話しているときに、誰かからこんなふうに言われたら…。ここは聞き流して、コツコツ努力、結果を出すのが賢明ですね。これは私は高い講師レベルの授業にもついていけるという能力マウントでもあり、お金持ちマウントでもあるというダブルマウントです。


【「マウント」の「類語」「言い換え」表現】

■やり込める ■ねじ伏せる 

「マウント」を取りがちな人は相手を否定したり、自分の自慢話をすることが多く、相手よりも自分が優れていることを誇示します。実際には実力が拮抗していても、無理矢理相手をねじ伏せようとするのも特徴のひとつ。


【「マウントを取る」を英語で言うと?】

「マウントを取る」を英語で言う場合は、[mount]ではなく、[one up]を使って表現します。[to be one up on someone]で、人よりもひとつ上に立とうとする先に進むもうとするというような意味になります。

・She wants to be one up on anyone. 「彼女はいろんな人にマウントを取りたがる」

ほかにも、「自慢する」という意味の[brag]でも言うことができます。

・She's always bragging on social media. 「彼女はいつもSNSで自慢している」


【「マウント」を取る人への対応策は?】

「マウント」を取りたがる人は、いろいろな場面で周囲と揉めることも多く、正直に言ってあまり関わりをもちたくないタイプの人が多いですよね。どのように対処するのが正解なのでしょうか?

■冷静に受け止め、認めてあげる

マウントを取る人のなかには、承認欲求が強く、実は自信のなさを隠している人も多いのです。そのため、自分が評価されているとわかれば安心します。「マウント」の兆しを感じたら冷静に受け止めながら、「素晴らしいですね!」などと、評価し受け止める対応を見せることで、波風を立たせずやり過ごすことができますよ。

■聞き流す、受け流す

まじめな人ほど、マウントを取られるたびに相手の言葉を深刻に受け止め、悔しさやイライラを感じてしまうものです。職場など、接する機会が多い相手ならば、そのストレスは相当なもの。メンタルに不調を来すことがないよう、「関わるだけ時間の無駄」と捉え、適当に聞き流しましょう。可能であれば、なるべく関わらないように距離を取ることが最善の対処法といえます。

■話題を変える

少しコミュニケーションスキルが必要ですが、さりげなく話題を変えるのもひとつの手です。相手がマウントを取ってきていると感じたら、「ところで、あのニュース見ました?」などと、話題の矛先を変えてみましょう。相手の関心をほかに向けて、話の論点を変えられたら成功です! 

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「マウンティング」は、もともとサル山におけるサルの行動を説明する、動物行動学の専門用語でした。すぐにマウントを取りたがる人が身近にいると少々うっとうしいものですが、多少の自慢話なら「すばらしいですね!」「さすがです!」と適当に聞き流しているのがいちばん。間違っても同じ土俵(この場合はサル山でしょうか?)には上がらないよう御用心ください!

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館)/『ランダムハウス英和大辞典』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館)/『外来語新語辞典(成美堂出版) :