ラグジュアリーウォッチ、そしてハイジュエリーの世界でも、独自の美学を卓越したクリエイティビティを用いて表現し、女性たちの心を惹きつけてやまない「シャネル」。2023年の新作ウォッチのプロローグを華麗に飾ったのは、メゾンのサヴォワフェールの粋を集めた“マドモアゼル プリヴェ”コレクションから生まれた、ピンクッションがモチーフのグラマラスなアートピースたち ── “マドモアゼル プリヴェ ピンクッション”です!
「オートクチュール」と「高級時計」、その両方を熟知する「シャネル」ならではの芸術品!
まず目を奪われるのは、ケース径55mmという、ジュエリーウォッチの既成概念を軽やかに覆すこのケースのボリュームではないでしょうか。なるほど、確かに「ピンクッション」! しかしなぜ、クチュリエの道具である「ピンクッション」をモチーフにしたのでしょうか? シャネル ウォッチメイキング クリエイション スタジオ ディレクターのアルノー シャスタンはこう語ります。
「私は、実用的なニーズに応えた構造美をもつツールに惹かれます。スタイルにおいてピンクッションというものは、存在感とインパクトがあり手元に威厳をもたらしますが、その大きさによって快適さを損なうことなく、手首にフィットします。 クッション面に刺された針のランダムな雰囲気も好きな点です。ドーム型のファブリックに刺さったピンの頭は、あえて整理されていなくても、お針子の仕事が進むにつれて変化するという装飾効果を生み出します」
彼は、この「ピンクッション」というツールがもつスピリットを、腕時計に取り入れたのです。
メティエダールのさらなる高みに挑んだ、メゾンの情熱と矜恃
「お針子さんの手首を飾る機能的なジュエリー」ともいえる、このウォッチのイメージ。このオーバーサイズの文字盤は、アルノー シャスタンにとって「メゾンの創造力を発揮する最高の舞台」となりました。
そして彼はこのウォッチを、「メティエダールの技術的挑戦を表現するキャンバス」にしたいと考え、5つのデザインを提案したのです。
少し専門的な話しになってしまいますが、今回の “マドモアゼル プリヴェ ピンクッション”。「シャネル」が株式の一部を所有し、友好な間柄であるジュネーブの独立系マニュファクチュール「F.P.ジュルヌ」が所有するサプライヤー「カドラニエ・ジュネーブ」製のダイヤルを、メゾンで初めて2モデルで用いたことも、高級時計業界では非常に注目されています。
この「2モデルのみ」というのがまた、とてもアルノー シャスタン、そして「シャネル」らしいと私は思いました。他の3モデルはまた別のサプライヤーによって製作されたダイヤルとのことですが、アルノー シャスタンは自身のクリエイションを最大限に表現できるサプライヤーを「適材適所」で用いているに違いありません。
では、「シャネル」による世にも美しいピンクッション、その見事なサヴォアフェールの結晶をひとつずつご紹介します!
■1:超絶技巧の合わせワザによる、レースで表現されたカメリアの花
「カドラニエ・ジュネーブ」製ダイヤルの1作目は、3つのメティエダールの技術を巧みに組み合わせて実現させた、繊細なカメリアのレースが印象的なこのモデル。まずはイエローゴールドの文字盤の表面に、独特の質感を与える手彫りの技法。これを半透明のグランフーエナメルの層で覆うことで、彫刻の繊細さを際立たせ深みを与えます。
そして、シャネル クリエイション スタジオがカメリア モチーフのレースを描くために用いたのは、伝統的なデカール(転写)技術。センシティブなデカールの連続した層が完成させるカメリアのレース模様の上に、仕上げとして小さなパールと5つのダイヤモンドが散りばめられています。
■2:「ただ今製作中!」の、アイコニックなジャケット
「カドラニエ・ジュネーブ」製ダイヤルの2作目は、宝石をあしらったツイードジャケットの制作過程を映し出したパターン。見事にツイードの質感を再現したジャケットは、ブレードに92個のダイヤモンドを、ボタンに小さなパールを飾っています。ハサミ、指ぬき、メジャーといった、クチュールアトリエのお針子にとって欠かせないツールが、彫刻されたゴールドによって繊細に、そして躍動感いっぱいに再現されています。
文字盤外周は、「シャネル」のジャケットの完璧なシルエットを演出するために内側に縫い付けられるチェーンと同じように、ミニチュアサイズのチェーンで繊細に縁取られているという芸の細かさに感服!
■3:文字盤がいっぱいに、キルティングバッグが戯れる!
文字盤の上で5つのアイコニックなハンドバッグが戯れているかのような、微笑みを誘うプレイフルなデザイン。ハンドバッグは、キルティング模様を彫刻したブラック・マザー オブ・パールの象嵌で表現されています。彫金で再現したゴールドのチェーンにはダイヤモンドのチャームを、バッグのクラスプにはバゲットカットのダイヤモンドをあしらい、この上なく華やかなアクセントを添えています。
■4:きらめく宝石が散りばめられた、ブラックツイード
ブラックツイード調のダイヤルに散りばめられているのは、ロングネックレス、チェーン、ビザンチン モチーフのブローチ! イエローゴールドに手作業で宝石やラッカーの装飾を施したミニチュアのジュエリーは、ブラックツイードの質感を表現した立体的なダイヤルの上に繊細に配置されています。外周に配した120 個のブリリアントカット ダイヤモ ンドと小さなゴールドパールの縁取りが、ダイヤル上のモチーフをいきいきと引き立てています。
■5:眩い輝きがため息を誘う、ダイヤモンドの刺繍
シャネル ウォッチメイキング クリエイション スタジオが、このピースを創造するにあたってイメージしたのは、 「スパンコールが刺繍されたブラックファブリックのエレガンス」です。ブラックコーティングを施したホワイトゴールドに、スノーセッティングで散りばめたダイヤモンドの輝きと存在感を強調するために、かすかなカーブを描く凸面ダイヤルが採用されています。
ダイヤル外周に手作業でセットした小さなゴールドビーズと、黒地の上で光り輝く白い ダイヤモンドが描く美麗なコントラストによって、繊細さと大胆さが共存する非凡なジュエリーウォッチに!
ガブリエル シャネルが、パリ・カンボン通りのアトリエで過ごした際、常に身につけていたものがふたつあったそうです。 ひとつは、リボンを通してネックレスのように首から下げたハサミ、そしてもうひとつが、今回のクリエイションの源となったピンクッション。
“マドモアゼル プリヴェ ピンクッション”のひとつひとつの作品が、「クチュールとオート オルロジュリー(高級時計)の物語」という、「シャネル」だけがその両方の秘密を知る、唯一無二のストーリーを語っています。
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
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- TEXT :
- 岡村佳代さん 時計&ジュエリージャーナリスト